第9話 助けるのは気まぐれ。善意は巡る
9話目
その音はアルトが昨日追いかけられた鉱物と同じ様な音をしており、思わず体に力が入る。悪い事はしていないよなと、思考を巡らすがやったことといえば魔術で少年を直したくらいだ。
だから、捕まるような事はしていないはず。
体に力が入ったが、昨日の事を思い出すと実験体にされるわけでもないので直ぐに安心するが、ならなぜこの音がなっているのか動悸が止まらない。
やはり何かして知ったのかと思うが……
そんなときアルトの頭に一つの言葉がよぎった。
「個性届……個性の無断使用……ピノ逃げよう。」
「え? マスターは何もしていないですよね。」
「個性は許可なく使ってはいけないみたいなんだ。それなのに魔術を使ってしまった。昨日捕まったのもそれが理由だったはず。」
「だとしたらまた捕まってしまう。」
「そう。」
しかし僕の周りは見ものにしていた人たちで囲まれてしまっている。このままでは逃げようにも再度魔術を使わなければ動く事すらできない。
しかし、助けるために魔術を使用したのは良いとして、それ以外にも使ってしまったら牢獄に入れられてしまうのではないのだろうか。いつの時代でも1度目は見逃す事はあった。しかし今回は2回目だ。
ここで捕まってしまえば、レイリーに迷惑がかかってしまう。
そんな風に考えている最中にこの音はドンドン近づいてきてしまっている。どうしようかと頭が痛くなるが、ここはもう腹を括るしかないだろう。
ちょっとくらい牢に入ったところで長寿の魔術を使っているアルトにとってはなんてことないんだ。諦めるしかないだろう。これ以上魔術を使って余罪を増やす方が問題だ。
「逃げますか?」
「いや、昨日のようにヒーローに妨害される可能性がある。諦めよう。」
それに、昨日のヒーローの事も気になる。魔術を使って対抗していたにもかかわらず、何も出来ずに捕まってしまった。
革命的な技術を使用した魔術ではないということが分かった今ある程度は対抗できると思うけど、何を下かも分からず捕まってしまうほどなのであるから同じようになってしまうのは必然的だろう。
それに、ロックスパイダーと呼ばれているヒーローは戦い慣れている感じがするから研究者であるアルトは戦うこと自体がそもそも間違っている。
「分かりました。」
その事に実際に対面したピノも賛成のようでフードの中に入り丸まってしまった。
あるとき警察が車での余白の時間を楽しもうと、少年の状態を見る事にした。どうせ捕まるのであれば、出来る限りの事はしてしまおうと思ったからだ。
少年は疲れて眠ってしまっているようだから、見るのには最適だ。
一応お母様には魔術がちゃんと効いているが断りを入れるが、直ぐに許可してくれたので好都合だ。
まずはこの少年の魔力回路がどの様な状態なのかを知りたい。
武田さんであれば手や足の魔力回路は見えなくなるほど劣化しており、もう魔力を生成する事は出来ないだろう。しかしそんな状態になったのが武田さんだけなのか一般的な物なのかは知っておかなければいけないとおもう。
さっきは仮初の理論だけで少年の状態を断定づけたが今後はそう言う曖昧な状態で処置をする必要はない。なので、少年の手を取りよく見てみる。
するとやはりと言うべきか、予想通りと言うべきなのか少年の腕の魔力回路は劣化してしまっている。しかし、その劣化状態が武田さんよりも酷くなっており、これでは今後この少年から派生される一族は腕の魔力回路を使えないだろうと思うくらいだ。
無いも同然だ。
だが、一種類しか魔術が使えない個性の特質上ありえる事だ。予想していたから想像以上に驚かずに体の状態を調べる事にする。今度は足だ。すると今度は腕と比べてまだ魔術回路が生きている。
劣化しているわけではなく、機能していないと言う意味だ。つまり成長してく過程でか、ある程度の刺激を与えることで使えるようになる。まあ魔術師になれるほどの魔力回路がある訳ではないが。
よく見なければ分からないが、この感じからして5本くらいだろう。魔力回路の質は分からないけど5本の魔力生成能力だと願い魔術は使えないくらい。
しかし一般人であれば普通だ。
まだ生きている魔術回路がある事に驚きながら今度は胸を見る。するとやはりというべきか胸の魔力回路が肥大化していた。しかし、武田さんと同じではない。武田さんに対しても胸と言ったが、それは墨袋が棟居あるからそう思っただけだろう。
その証拠に、少年の胸の魔力回路は武田さんとは在り方がちがう。何と言えばいいのかあまり分からないが、新しい器官に魔力回路が有るのではなく元々ある器官の魔力回路が肥大化しており、そこの部分だけ魔力の質が高くなっている。
この肥大化が個性の特徴なのだろうかと考えるが、さらに調査していく。
今度は魔力視を使って詳細に調べる。すると胸の中でも肺に魔力回路が集まっていることが分かった。しかしそれと同時に、隣にある心臓が魔力回路の差から負担がかかっていることが分かる。
こんな状態では魔力を生成しただけで心臓に痛みが走るだろうと思うが、それに関しては調整すれば大丈夫なはずだ。
アンバランスな体はアルトから見れば欠陥品ではあるが、ただの魔術師では見る事もないような肺の魔力回路の肥大化を調べていない事から安易であると考える。
本来ここまで全身の魔力回路がアンバランスな事は少ないが、それと同時に魔力回路がここまで肥大化している事も少ない。
何千年も続いている魔術の名家であれば、奇跡も合間ることでこのくらいの肥大化も見れるかも知れないがアルトは片手が埋まる程度しか知らない。
「ピノ起きているか?見ておいた方が良いぞ。」
「どうしましたか?」
いい機会なのでピノも一緒に知識をアップデートしていこうと、声をかける。すると気怠そうに起きてきてくれた。
「魔力視をして少年の肺をみてみろ。ここまで肥大化しているのは珍しい。」
しかし個性の時代である今であればそこら辺の人を調べてもこれくらい普通なのかもしれないが、と言っておく。
実際に武田さんもこれよりは劣るが良い肥大化をしていた。
「凄いですね。ですがここまで肥大化していると体に害がありそうですが?」
「だから胸を抑えていたんだとおもう。魔力の生成が成長途中の体に合わなくて傷ついていたんだ。」
「これだとマスターがこないと数時間で死んでいたかもしれませんね。」
「運が悪かったって事だよね。でも僕が足を止めた事が最大の幸運だ。それに良い事を思いついた。」
そろそろ音の感覚から警察が来てしまう事がわかる。これ以上少年を調べることはできないだろう。残念ではあるがいったん止めだ。
しかし個性の事が少し分かったので良かった。
その音が近づくにつれて囲っていた人がドンドン掃けてきた。そこでやっと分かったのだが、音を出している鉱物の色と形が機能と違うのだ。
昨日は白黒ののっぺりな鉱物であったのだが、今日は巨大で白色の鉱物であった。
もしかしたらまた無知が故の勘違いをしているのかも知れない。
☆
「そこの人たちどいてください!」
その白い鉱物から出てきたのは同じような格好をしている物々しそうな人たちであった。昨日の警察と同じような感じであるが、明確に違う所が有りその恰好は人を捕まえるのには不出来な事。
だからなんでここに来たのか分からなかったが、目線の先を見たらやっとわかった。
「大丈夫ですか!! 大丈夫ですか!!」
その人たちは直ぐに少年の所に行き、診断を始めた。その手際を見ると魔術が無いながら出来る限りのことをしている事が分かる。それに体の構造の事も知っているようで、一つ一つの動きが最適だ。
魔術がなくてもないなりに進化していったのだろうと、行動の一つを見るだけで分かる。もし魔術を使っていいのであれば、僕のように少年の事は考えないで魔術を使うだけでいいが、魔術が無いからこそ反応の一つ一つを見ている。
魔術が有るからこそ手を出してこなかった医術だと感心する。
「寝ているだけか? 痛みはないようだが、ここまで疲労しているとは……。担架を持ってきてくれるか田中。」
「はい! 分かりました。」
「すみません。エレンの状態は大丈夫なんでしょうか?」
「この子の母親ですよね。一旦は落ち着いているようなので大丈夫ですが、一応病院で検査させてもらいます。」
「ありがとうございます。そうだ、息子の事なんですがこの人が助てくれたんです。」
するとお母様は僕の事も話すようだ。腹を括ったとは言え魔術を使った事wお言えば捕まってしまうのだろうかと頭によぎるが、少年に何が起きたのか詳細に言わなければいけないのだろう。
医者には全てを言わなければいけないのは古代ギリシャの医神の息子であるアスクレピオスにも言われた事だ。
仕方が無いないと割り切ろう。
やる事が無くなったのでこのままふらふらと散歩に戻っても良いが、少年がここを離れるまでは待っておこうと近くの壁に寄りかかる。ここであれば、あまりうるさくは無いだろう。
医者の手腕を眺めているとお母様と話が終わったのかアルトの方へ近づいてきた。
何やら物々しい顔をしているが、少年の疲労度を見た今なら怒るに怒れないだろう。あのまま、僕が何もしなければ死んでしまっていたかもしれないのだから。
「貴方がエレン君を直した人ですね。少しお話を聞かせてもよろしいでしょうか?」
「良いですよ。何でも聞いてください。」
「それではどの様に治したのか聞いてもよろしいでしょうか?」
まずはそれだよね。お母様にも詳細は話していないのだから、少年になにをしたのか知るにはアルトに聞かなければいけない。
「魔術で状態を安定させたんです。」
しかし説明するには1時間ほど取らなければいけないためここでは話せない。しょうがないが簡略化させて言わせてもらう。アスクレピオスよ、ごめん。
「魔術とは……個性の事でしょうか。まあいいです。それで個性で安定させたと言う事でよろしいでしょうか?」
「そんな感じです、丁度肺に力が集中していたので調整したんですよ。」
「……申し訳ないですが、ついてきてもらう事は出来ないでしょうか。私では判断できないので主治医に相談したいのですが。」
そう言えば少年と僕を囲っていた人たちの中に「個性の暴走は治すことが出来ない」と言っていた人がいたな。レイリーはあれほど気合を入れて研究に熱を入れていたから、治す方法の一つや二つは考えていると思っていた。
少年の感じだと個性社会の今では、体と魔力回路の成長が合わない事は割とありそうであった。もちろん大小の違いはあるだろう。
しかし、少し痛む程度で言えば武田さんの肥大化を見ると個性を持っている人は誰でもなっている可能性がある。
その痛みにどの様な見解を示しているにかは分からないが、対処の確立は早めにやっておいた方が良いだろう。
「いいよ。僕も魔術の進展のために手伝った方が良いと思うからね。」
それに個性と言うのは凄く興味深い。この先、解明できる未来があるとしたら、なりふり構わず進んでいきたい。それが魔術の進歩に繋がるかも知れないからだ。
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