第7話 魔術の初歩。儀式とは古臭いもの
7話目
魔術にとって合意とは、契約の一種であり魔術師同士の双方が賛成の意思を示したときにとある魔術を使う事でなされる身体および精神の拘束の一種だ。
もし合意した契約を破ろうとすれば合意時になした罰が破った相手に降りかかるだろう。
そんな契約を僕とレイリーは行なおうとしていた。
「凄いねこの時代のベットは。2000年前がヤギにあげる干し草のようだよ。」
「数十年前に技術革命が起きましたからね。綿のような繊維を使った物が沢山作れるようになりましたから。」
「へ〜それは良いね。魔術界でもこれくらいの物を作って欲しいよ。まあ、魔術師の中にはいまだに寝床を作らない原始人じみた奴もいるから変わらないんだろうけどさ。」
使い慣れていないフカフカのベットで体が疲れている事とは裏腹に、満足度は高いおかげでニコニコして登場したアルトは椅子に座った。
そんな様子のアルトを見てレイリーはほっとしたようにため息をついている。昨日の事を思い出すのだろう。
あるとは流石に昨日の幻影はやりすぎたと反省しているため、善人には使う事は無いだろう。まあ反省していると言ってもアリを一匹潰してしまった程度の罪悪感ではあるが。
アルトは凝った肩を回しながら「さっそくだけど、」と前振りを言い、とある紙をレイリーにも見えるように出す。
「昨日も言ったけど契約を行なおうか。あまり時間をかけても意味ないからさっさと終わらせるけど、内容は覚えているよね。」
「ええ、私がアルトに個性に関しての歴史を教える。その代わりにアルトが私に個性に関して分かる範囲の情報を教える。だったよね。内容に関しては昨日も言った通り異論はないよ。」
「うん。僕もこれでいいと思うんだけどもう少し細分化したいんだ。このまま契約しちゃうと、どこまで歴史を教えればいいのか分からないし、僕も個性に秘匿されるべき情報があっても無理に教えなきゃいけなくなるから。」
「秘匿されなきゃいけない情報? そこらへんも全部知りたいんだけど。」
「残念だけどそうも言えないんだよね。魔術の中には口に出してはいけない事が合ってね、個性にそんな情報があるか分からないけど、もしあったら首と胴体が離れる。」
「……」
「だから僕の命のために全部は言えないんだ。」
過去に友達がその言ってはいけない言葉を口にした事が有ったんだけど、その時は悲惨な事になったんだ。その友達はふざけ半分で言ったけど、見事に魂まで砕かれて消滅した。
あんなのを見たら契約に慎重になるのは仕方がない。
「しょうがない。魔術について教えてくれる人がいなくなるのは致命的だ。契約に加えといてくれ。」
「物分かりが良い人で良かったよ。じゃあ、そこらへんも付け足した契約がこれなんだけど良いかな?」
出していた紙をひっくり返して、夜に書いた契約内容を見せる。そこには簡潔であるが今言った通りのことが書かれていた。
「1つめに、レイリーが個性の歴史について教える。これは重要な所を教えてくれればいい。」
「重要な所とは?」
「自分で考えてくれ。」
あくまで自分で考えて重要な所を決めてもらう。これは普通の契約書なら出来ないが魔術の契約だから出来る。自身の意思が反映されるから、重要だと思ったところを教えない選択は出来ない。
「2つ目に、レイリーが個性の歴史について教えたのち、僕が個性に関連すると思われる魔術を出来るだけ教える。この出来るだけを入れる事で、言ってはいけない言葉を回避することが出来る。」
「私が歴史を教えた後に、魔術を教えるのはなんでだ? 同時平行でも良いんじゃないか?」
「やろうと思えば出来るかも知れないけど、歴史の事が分かっていなきゃ、分からない事も多い。それに、僕は僕で個性に関しての研究をしたいからその研究内容も合わせて教えた方が良だろ?」
「分かった。その契約なら大丈夫。」
納得してくれたようだ。
魔術師相手なら平等な契約では無くて自分に有利な契約に無理やり持っていこうとするから、ここまでスムーズに行った契約は初めてだ。
「それじゃあ契約を行なおうか。とはいっても魔術で行なうとはいえ簡単だから安心してくれるといい。」
「やり方を聞いていないからドキドキするわね。」
「まずはこの契約書に名前と拇印をやってくれ。僕のはもう書いてあるから。」
「分かった。」
手慣れたように、名前を書き懐から朱肉を取り出し親指に付けて名前の横に押してくれた。名前の横に拇印を行なうと言うのは魔術的に言えば、本人を示して魔術の要素にも使える大事な行いなのだ。
拇印はめんどくさいと思うかも知れないが、ここが日本だからこの方式を取らせてもらっている。ここら辺の土地では昔からこの方法を取っているようなので拇印が一番効力を発揮するんだ。
だから古来から印鑑が主流な場所だったら印鑑を使ってもらっている。
もちろん時代は移り変わるので、今では日本でも印鑑を使用しているようだが、昔にも使っていたと言うのは、今使っているより存在価値が高い。
「書けたようだね。」
契約書を受け取り、縦に長くなるように折っていく。
「折るのは重ねるという意味を持たせるため。つまり契約を重ねて厚くしていき破れなくする。」
細長くなった契約書は外側に内容が見えるように折っているため、契約の内容が見えている。
「外側に折ったのは常に見たいと言う意思。どの様な契約であったかを忘れないため。」
そして懐からろうそくを取り出しライターで火を付ける。
「それじゃあこの契約書の端を持ってくれ。」
神妙な雰囲気を出しているからか、レイリーは緊張してしまっている。しかし魔術は能天気におなうものでは無い為これくらいの緊張感があった方が良い。
アルトとレイリーがそれぞれ紙の端をもった。
「少し体が痛むかもしれないけど我慢してくれ。」
そう言い紙を通してレイリーの魔力回路に接続して無理やり魔力を使用する。魔術の事が分からないレイリーのために今回はアルトが無理やりではあるが魔力を使用させてもらった。
無理やり魔力を貰って行ったが先ほどの忠告あってか体をビクッと揺らしただけである。
それを見て、このまま継続していいと判断をする。もし倒れてしまったりするのであれば、一度止めようと思っていたが大丈夫みたいだ。
「今レイリーの体から魔力を少し貰った。レイリーの魔力と僕の魔力を契約書になじませることで契約する対象を明確にする。魔術でなければ名前と拇印でも良いんだけど魔術であるならば魔力は使用しなければ発動しない。」
そういいもらった魔力と僕の魔力を馴染ませる。
数千年しか生きていない魔術師であれば、相手から魔力を頂戴した後、その魔力を操作して紙に馴染ませるなんて事は出来ないだろうが僕はそれなりに生きているから出来るのだ。
「次で最後だ。両端を持ったこの紙をさっき付けたろうそくの火の上で燃やす。そうする事で魔術が発動するんだ。一番簡単な発動方法だ。
さあ、燃やすぞ。」
すこし難しく言ってしまったがこれで契約が破られなくなったと思ってくれていい。魔術はこういう、行動一つ一つの意味に対して魔力でアプローチしていき、行動を効力へと変えていくんだ。
術式とかそう言うのが魔術だと言う風にいう魔術師は多いんだけど、本来の魔術って言うのはこういう古臭いんだ。ただ、魔術が技術的に進歩していって術式と言うのが開発されて行って、物が持つ意味を忘れてしまう人は多い。
古臭い人間だと思われてしまうかも知れないけど、術式よりもこういう儀式の方が神秘が集まりやすいから余裕があれば儀式で魔術を使いたいよね。
そう思いながらろうそくに紙の中心を燃やし儀式は完了した。
「はい、これで完了だ。どうだったかな初めての魔術は。」
「……なんか、実感がないね。本当に魔術を行なったのか分からないから。」
「それはしょうがないよ。今回は契約って言う、破らなければ効力が発揮しない魔術なんだから。まあせっかくだし、もしよければだけど分かりやすい目に見える魔術を使てあげようか?」
「いいんですか?」
「触媒は必要だけど、直ぐに集められるものだからね。」
一応魔術を教えると言う事になったけど、レイリーは魔術師でもないんだから初歩の初歩からおしえたほうがいいよね。
でも何にしようかな。分かりやすいと言っても炎を出す魔術とかはこの時代だと場所を選ぶだろうし……そうだあれがあったな。
よさげな物を思い出したのであった。
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