第4話 優しいおじさんに合った。個性ってなに?



4話目


「つー訳でお前らは個性事故に巻き込まれたことにした。戸籍がない上にどこから来たのかわからないからこその処置だな。

で、個性事故にしたおかげで新しい身分証を作成できる。一応形としては永住権だが、あまり関係ない。」

「えっと、ありがとうございます。」

「ほら、即席で悪いが顔写真を貼れば使えるようになる。」


 色々迷惑をかけてしまったようだ。今後生きていくために必要なものらしいので本当にありがたい。

 そう思っていると2枚のカードを手渡された。


 何回も出せと言われた身分証だろう。一枚目のカードにはちゃんと僕の名前である「アルト」が書かれており、二枚めには「ピノ」もちゃんと書いてあった。


 魔術的な力は感じないから、使うときはただ出せばいいのだろうか?

 そう思いながら、眺めていると一つ違和感がある場所があった。


「あれ、僕17歳じゃないですが大丈夫ですか?」

「それに関しては申し訳ない。法律的に未成年でなければ作れなかったんだ。それに、君たちに年齢を聞いたとき1億歳とか言っていただろ? 偽るにしても現実味あるものにしなきゃいけないからな。」


 そうなんだ……でも1億歳くらい普通だよね? 魔術師なら10億歳くらいまでなら見たことがあるし。

 まあ、法律のためならしょうがない。

 最近は年齢を数えるのが面倒くさくなってきて、百の単位でしか数えないし。

 年齢に執着があるわけではないからね。


「幸いなことに君たちの見た目は若いからな。17歳と言われても疑う余地はない。」

「若い頃に長寿の魔術を使いましたからね。いまではもう少し威厳のある見た目になりたいなって思いますよ。」

「……やっぱアルト君の個性は意味がわからないな。」

「だから、個性ではなくて魔術なんですよ。」


 魔術師であれば魔術という言葉は大切にしなければいけない。だから、個性論争は絶対に譲れないんだ。


「そうだ。個性といえばなんだが、個性登録はしとけよ?」

「個性登録?」

「個性でできることを書いて提出するんだ。犯罪とか起きたときに犯人の個性は知っとかなければいけないだろ。

せっかくだし今書いてしまうか。」


 へ〜……でも出来ることを書こうとしたら、書くだけで一年くらいは立ちそうだよな。まあ、でも産まれてからずっと書いていくものなんだろうな。

 僕は今回初めて書くから時間がかかってもしょうがないかもしれない。


「アルト君は自分の個性の事は分かっていそうだしな。

ちょっと待ってな。取ってくるから。」


 それから数分後数枚の紙を持って戻ってきた。


「これに個性名と詳細を書いてくれ。」


 あれ? こんな数枚の紙だと書ききれないんだけど。もしかして、術式名を書くんじゃだめなのかな。

 今なりの書き方があるのかもしれない。

 

「ありががとうございます……どうやって書くか教えてもらっても良いですか?」

「いいぞ。というか参考資料を見せたほうがいいか。ほらこれが俺の個性だ。」


 手渡されたそれは、さっき僕に渡された紙と同じ形式で書かれているものであった。しかし、妙なところがある。

 詳細のところに書いてある術式が一つしかないんだ。いや、一つの術式を極める魔導師はごまんといる。


 しかし、書かれているのは「口から墨を出す」という極めるにしても未来がない魔術だ。


「親がタコの異型なんだが、俺には墨を出す墨袋程度しか受け継がれなかったんだ。」

「たこ?」

「そうそう。まあ、俺は人型のほうが好きだからこれで良かったんだけどな。」


 ……さっきから何か違和感があったんだ。こんな小さな紙を渡されたときも、個性と言う名称も。

 だけどその違和感が少しずつ分かってきた。


「手を見せてもらってもいいですか。」

「異型じゃないかの確認か? いいぞ。確かに俺みたいなのは珍しいらしいからな。」


 すると、話の続きだと勘違いしたのか素直に手を見せてくれた。アルトはその手のひらをじっと見つめ始めた。


「見ての通りだろう。吸盤はついてないんだぜ。」


 そんな言葉は一切耳に入ってこない。なぜなら、タコやら墨やらは興味がないからだ。でも、あることを確認したくて手を出してもらった。

 その状況にピノも何をやっているのか分かっていなさそうだがしょうがない。

 

 魔術の知識があるからこそ土壺にハマってしまったんだ。


「見えない。」

「だろ。見えないどころか無いんだけどな。」

「魔力回路が。」

「え?」「え!」


 意味がわかっていなさそうな声と反対に、ピノはびっくりしていた。それもそうだろう。鉱石の塊を高速で動かすような魔術技術があるのに魔力回路が見えないほど劣化しているんだ。

 てっきり、すごい魔術を使うのかと思っていたのだけどこの魔力回路では無理だ。


 つまりどういうことなのか? アルトはそれを調べるために声をかけた。

 

「すみませんが、墨を吐いていただけませんか。」

「え…ま、まあいいが面白い物でもないぞ。」

「お願いします。」


 いつも常備しているのか、懐から袋を取り出してそこに向かって口をむけた。アルトはその後に起こる反応を一切見逃さないようにとある技術を使う。魔力視という古来からある魔術ではない技術だ。

 昔に使っていらい知識の肥やしにしていたので、今使えるか少し疑問だったが過不足なく使えるようだった。その証拠に、先ほどまでは見えない程劣化していた魔力回路が探知出来るようになった。


 その様子を見ると、やはりと言うべきなのか全身の魔力回路は使用していないからなのか、もう魔術が使えない程劣化している。しかし、とある一点は劣化しておらず、反対に魔力回路が肥大化していた。


「必殺 墨飛ばし!」


 勢いよく袋に飛んでいく墨はしっかりと口から噴出された。勢いのあまり袋に入ったはずの墨は跳弾してアルトの頬に飛んでくる。

 しかしアルトは呆然としていて気付いていなかった。

 

 とある可能性が見つかったからだ。


「ふ~~。久しぶりに必殺技をいいながら墨を出したな。気持ちよかった。」


 墨を出したとき魔力回路が肥大化している胸の場所に軽くであるが魔力が生成された。魔力回路があるから当たり前ではあるが、その生成のされ方が奇妙だったんだ。まるで墨を出す事だけに特化されている様な生成の仕方。

 つまりその魔力回路では墨しか出せない。魔術回路としては劣等も劣等なのだが、個性と言う言い方をされているところを見るとこの時代ではこれが普通なのだろう。


 さっきからかみ合わない部分があったのはそこなんだ。

 魔術を使えると言うのであれば、様々な種類を使えると言う同義だと思っていたが、体が変質した魔力しか生成しないおかげで一種類しか魔術が使えないのであった。


「そう言う事か~」


 アルトはなぜこんな状況になったのかすごく気になってきた。だって今まで生きた間にこんな事は起きたことが無かったのだから。もし知ることが出来たら今までにない魔術を作ることが出来るかも知れないしね。

 しかし、こんな魔力回路になるような現象って早々思いつかないんだけどな。


 それこそ地球の力を減らしてしまうほどの隕石が振ってきたとか……でもそれだけだと魔力回路がここまで変質する事は無いしな。

 ましてや墨袋を作るなんて言う体の変化はおらないと思うし。


 凄い術式が発見されたと言う訳ではなかったが、この異質な魔力回路には同等の興味が湧いていた。

 

「そろそろ個性届を書いてくれ。別の仕事をしなきゃいけないからな。」


 さすがに時間をかけすぎた。でも、魔術は個性ではない事が分かってよかった。


「それなんだけど、書かないことは出来るかな?」

「なんでだ? 規則では書かないと駄目なんだが。」

「いや……魔術が個性ではない事が分かったから、この個性届に書くのは魔術師としての信念を曲げなければいけないんよ。」

「だがな~」


 身分証を作れるほどの権限はあるみたいだけど流石に個性届に関しては駄目そうだ。しかししょうがないのかもしれない。

 個性届けは犯罪を起こしたときに、犯人の個性を調べるためにあるって言っていたから、個性の様な事が出来る時点で書かないと言う選択肢は無いんだと思う。


 でも魔術師である以上書く事は出来ないんだけどね。

「……そうだ。いま個性と魔術は違うって言ったか?」

「はい。正確には魔術の中に個性があるのであってまったく違う物と言うべきではないのかも知れませんが。」

「そうか……」

「どうしましたか?」


 すると少し考え込んでしまった。何を考えているのか分からないけど、悪いようにはならないということはなんとなくわかる。


「いや、話は変わってしまうんだが、お前らの保護者をどうしようかと考えていたんだ。幸いにも個性届に関しても解決できる丁度いい人がいたからな。」

「えっと?」

「あぁすまんすまん。お前らの事は未成年で登録さえてもらったといっただろ? 未成年だと誰かに保護者になってもらわなきゃいけなかったんだ。まあ2人で生きていけそうな感じはあるから俺が保護者になっても良かったんだが、それよりもいい人がいてな。」


 2000年前だとそんな制度はなかったと思うから、法律は整ってきているんだ。

 僕の感覚からしたら17歳なんて1人でも生きていけると思うけど、それに関しては少し過保護な方が良いんだと思う。

 それにしても考えられているよね。


 未成年と言うのが何歳までなのか分からないけど、親の保護下に入れるのは凄いいい法律だ。

 アルトは幼少期の事を思い出して凄い賛成した。なぜならアルトが生まれたのはまだ法律なんて整っていなかった、魔術=全ての様な時だったからだ。


 だからこそ生きていく事に不自由ないこの国の法律には感心を抱く。


「ありがとうございます。」

「まあ、その人ならアルトくんが行ったことを言ったら拒否はしないだろうし、反対にウキウキと保護者になってくれるだろ。」

「それで個性届が解決するとは?」


 僕にとっては個性届のしがらみの方が重要だ。もし書かないでいいならそれ以上の事は無い。


「そいつが個性の研究者だからだ。ある程度融通がきく。」


 個性の研究者か、どんな人なんだろう。僕は魔術の研究者だからある程度は話が合うのかも知れない。それに個性の事に関しては良く知りたかった。





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