第2話 2000年前はこうだった。僕たちは時代遅れの長生き






2話目


「・・・」

「・・・」


 出オチと言う言葉を知っているだろうか。

 意味合いとしては、コントなどで舞台に出たときに客を笑わせる仕掛け。そんな風に知られている一面、最初がクライマックスでありその後は痛々しい雰囲気に陥る。と言う意味としても使われる。

 何が言いたいかと言うと……今その状態なのだ。


「どこなの」

「どこなんでしょう?」


 僕たち人と猫はウキウキと塔を降りたんだ。ただそのウキウキとは故郷に帰る様な感じであって……物語の中のような建物が並ぶ場所に来たかったわけでは無かったのだ。

 なんなんだよこの地面。見渡す限り全て舗装してあってこんな場所見たことが無い。

 それに見上げなければいけない程高い建物がこんなに乱立していて。


「ピノ」

「なんでしょう」

「僕たちっていつ時越えの実験したっけ。そんな記憶ないんだけど。」

「大丈夫です。そんな事はやっていませんから。世界時計もしっかり2000年たっております。」

「……キリスト君にあった時からだよな。」

「そうです」


 世界の理の環に接続して観測する世界時計では認識通りの時間がたっているそうだ。


「この2000年間に革命的な魔術理論が発見されたって事だよな……そうじゃなきゃ説明できないよな。」

「そうですね。どれだけの人がいたとしてもこの建物達を作るには何千年も必要です。」

「つまり僕はただ2000年間籠っていた劣等人ってことか」

「結果的には」


 終わった。

 ここまで発展しているのであればこの2000年間頑張って研究していたテーマなんて世の中に知れ渡ってしまっているだろう。1000年前に頑張った『肉体の逆行』や、ついに100年前に完成した『光以外での視覚確保』。もしかしたら昨日頑張っていた『転移』なんかはもう一般人すら使えるのかも知れない。


 年寄りで時代について行けない魔術師なんていらないんだ……


 あまりの衝撃に膝から崩れ落ちる。周りにいた人たちからの視線は痛いが、心境はそれどころではなかった。


 ピノは研究者じゃない分僕よりも衝撃を受けていないようだがそれでも頭をかかえてしまっている。2000年程度でここまで発展していることがそれほど衝撃なのだろう。

 

 衝撃でぼーっとしているとどこからか音が聞こえてきた。ピーポーという甲高く大きな音だ。

 流石の僕たちでもこの音は周りの人たちへ危機を知らせるものだということはわかった。


 2000年前に塔を降りたときにそのような軍があることを教えてもらったからだ。


 だから思わず逃げようとした。


 何も言わずともピノと僕は走り出した。これでも、とある時代では逃亡者として世の論を独り占めにしたこともあるくらいだ。

 走ることにはそれなりの自信があった。


 しかしこの時代では意味がなかったようだ。


「そこの男性止まりなさい!!!!」


 先程の甲高い音とともに大音量で僕に命令してきた。やはり僕が狙いだったんだと分かり捕まるわけには行かなかった。

 幸いにも周りにいる人たちは走っている僕たちを捕まえようとしないようで、海を割るかのように道を開けていった。


 中には捕まえようとする人もいるみたいだけど、僕の速さにはついてこれていないようだ。


「止まりなさい!!!」


 そんな中でもまだ追ってくる。それに、さっきよりも声が近いような?


 こんなに早く走っているのになぜ追いつかれそうになっているのか違和感を感じるが前を向いてもっと早く走ろうとする。

 しかしピノは声の方向を見ようとしていた。


「ま、マスター! なんですかあれは!」 

「何かあったのか!」

「後ろから鉱物の塊が走っています!」

「はぁ?!」


 何を言っているのか想像がつかず、思わず足を止めて声の方向を見た。

 鉱物が走っているなんてどんな魔術を使っているのやら。


 するとそちら方向には何十体もの鉱石の塊が存在していた。それらが高速で動いておりその中でも一際目立っているのが赤いランプを光らせながら甲高く音を発し、どこからともなく聞こえる命令。


「こんなのから逃げられるわけがないだろ。」


 思わず諦めてしまった。


 しかしピノはまだ逃げる方法を考えていた。体を巨大化させて逃亡体制をとっていた。


「遺伝子開放 野生化」

「お、おいピノ。こんなところで魔術を使ったら魔術連合に怒られるぞ。」

「そんなことどうでもいいですよ! それよりもあんなのに捕まったらどうなるか分かるでしょう!」

「……そうだな。」


 相手は鉱石を高速で走らせて僕にぶつける事で捕まえようとしている。そんな手荒な真似をすると言う事は、捕まった後は素直に解放される事は無いだろう。良くて実験体。悪くて魔術の生贄になる。

 そうなってしまえば、僕の人生は終了だ。


 であれば、魔術連合に怒られることはしょうがないと割り切って魔術を使って逃げるしかない。


「杖よ肉体の命令に従え」


 腰にかけていた杖を一振りして魔術を発動する。


「強化魔術 疾走」


 すると体が軽くなり走るのが早くなった。さっきの2倍以上になった。

 ピノは野生化しており肉体が僕の身長よりも大きくなっているためその分筋肉の質量も変わっており、僕の速度に悠々とついてきている。


 その事が分かったのか、鉱物の塊は先ほどよりもさらに速くなった。僕を捕まえるために本気になったのだろうか。先ほどよりも威圧感が強くなっている。


「やばい、疲れてきた。」


 しかし2000年も塔の中で生活していたおかげで、肉体の劣化が遅い魔術師である上に長寿の魔術を使っていたが流石に筋力は落ちているようだった。


「マスター!! 少しずつ距離を離しています。もう少しの踏ん張りですよ!」

「分かってる!」


 もし同僚の魔術師ならば、こんな状況でもあと二つは魔術の重複が出来ただろうけど凡才な僕には、慌てている状況では1重でしか魔術を発動できない。

 出来れば体力増加系の魔術を使いたいけど、そんな余裕はないのだ。


 ギリギリの体力で頑張って逃げる。そしてやっとのことなのか、鉱物の塊は僕たちを見失ったみたいだ。そこまで距離は離れていないけど、入り組んでいる道が合ってよかった。


 一瞬のうちにピノに変身を解除してもらったので人ごみにまぎれることが出来たのだ。


「はぁ。逃げ切れた。」

「良かったです。あんなのがうじゃうじゃいると思うと今後生きて行けるか不安ですが。」

「まあそれでも、一難は去ったんだから。」


 疲れて軽く膝をかかえていたが、そろそろ歩かないと人に紛れている意味が無くなってしまう。「よし!」と自分を鼓舞して歩き出すのであった。しかしその時、


「君たちだよね? 個性を使用したのは。」

「え、」 


 目の前には派手な格好をした女性がたっていた。全体的に露出が少ないが、薄く体に張り付く様な服のせいで体の形が分かってしまう。さらには、胸は中央がはだける感じの物になっており、これが俺が籠っていた間に発展した服なのかと頭が痛くなってくる。


 古代人には未来の服の趣味が分からないのは世の常なのだろう。昔未来はこんな風になっていると言う妄想を描いた絵画を見せられた事が有るが、その時も人々は変な服装をしていたのだから。


「ヒーローの名にかけて貴方たちを拘束させてもらうよ!!」


 すると周りにいた人たちが僕たちから一歩離れて声を上げ始めた。


「うぉ!!!!!! アダルティーヒーローのロックスパイダーだ!!」

「まじか!!! 初めて見た!!」

「きゃー!!! エロいー!!」

「やっべ鼻血が。」


 なんなんだよこれは。まったく理解が出来ない。




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