第2話『ミウミ』
第2話『ミウミ』(1)
必要とされた。
必要とされ続けた。
夢は巡る。
夢は終わる。
私は信じない。
私は信じたい。
夢の続きを。
夢の続きを。
*
「ぐ……、ぬ……」
呻き声がきこえてくる。歯の軋む音も聞こえてくる。苦痛の呻き声、忍耐の歯軋りだとわかる音を立てているカミヤの顔は、“足”を用いて空を進む際に発生する強い風圧の影響によってだろう、しわくちゃに歪んでいた。
「と……、と、と……」
後ろを見てやればハーシェルのクレーターから上空のこの地点までには、泥酔酩酊前後不覚状態のそんな蛇が体をのたくらせたかのような、或いは、イメージを具体化出来ていない素人の画家が生じる苦悩のまま筆を紙の上に走らせ続けたかのよう、白く細く長く乱れている飛行機雲が残されている。不規則で乱雑で滅茶苦茶な形のその飛行機雲こそは、カミヤの“足”跡だ。
「ぐっ―――」
“足“の軌跡の不揃いはカミヤの下手と不慣れと苦悩の証だ。カミヤは真っ直ぐ最短距離を進んでゆきたい。けれど大気の熱分布の差によって生まれる大きな風の流れを前にすると、まだ初心者で上手く操る事が出来ない今のカミヤでは“足”の動きを容易に乱されてしまう為、それが叶わない。
「くそっ―――」
今のカミヤは、周囲の熱の流れに大きく影響を受け流されてしまう存在なのだ。アリュアッテスから託された“足”はこの場においても立派に通用するものだけれども、カミヤはそれを十全に操る事が出来ないのだ。
今のカミヤは周囲の熱を操作する事も周囲の熱の流れを読む事もまともに出来ないのだ。だからカミヤは今、周囲の大きな熱の流れが生みだす強風によって、ふらふらゆらゆらと頼りなく翻弄され続けてしまっているのだ。カミヤは今、まさしく、大空に飛び出たばかりのひな鳥に等しい存在なのだ。
「あぁ、もう―――」
カミヤは今、自分の意思でなく、周囲にある大きな熱の流れによって進路と動きを決められている状態なのだ。カミヤは上へ、下へ、右へ、左へ、顔を赤くしたり白くしたりしつつ、時にあっちへ時にこっちへ行かされたりしながら空中を出鱈目に移動させられてゆく。様子は渡り鳥というよりは雲、雲というよりは大海原へポツンと投げ出されてしまった小舟のようで、見ていてなんとも危なっかしいと思えてしまうものだった。
「―――くそっ、目の前が赤かったり黒かったりしやがる!」
危険な兆候も出ている。レッドアウトにブラックアウト。その変化はおそらくカミヤの体中の血液が頭の方へ集中したりと足の方へ集中したりとを交互に繰り返しているという証拠だ。このまま放っておいたならカミヤはやがて失神し墜落してしまうかもしれない。もちろん、だからといってカミヤを止めようなんて思わなかった。だって自分の身に危機が迫っている程度の事でカミヤが止まらない事を、この程度の熱操作をこなせないようにすらならない弱い自分を許しておけるカミヤでない事を、カミヤが誰に何を言われようと前に進むのを止めない性格である事を、私は他の誰より知っているからだ。
「―――ったく、ほんと便利だな。この“足”ってのは」
そんなカミヤはやがて強い歯軋りの音一つ溢したのち、先程までとはまるで異なる軽い口調で言った。
「慣れりゃ思う通りのところに進んでいく事が出来る」
―――嘘だ
言葉が強がりのものである事はすぐにわかった。だって本当にそう思うなら、そもそも言葉などというものがカミヤの口から出てくるはずがないのだ。何故ならカミヤにとって言葉とは、呪いに等しいものであるからだ。カミヤは、根本的に言葉というものが嫌いで、弱音を吐く暇があるのなら動いた方が早いと考えているからだ。カミヤにとって言葉とは、己の弱さが露わになったその時にだけ出てくる、自身の弱さの象徴であるからだ。
「まったく、とんだお遊び気分だ」
カミヤがそのように言葉というものに対して大きな嫌悪を抱くようなったのはきっと、カミヤがハーシェルと言う環境において他の人と完全に隔離された状態で生きてきたせいなのだろう。
「まったく、生温いったらありゃしない」
言葉とは、かつて、自分と違う、自分と同じ感覚でない他人と自分との世界を繋ぐ為に生み出された道具だ。けれどハーシェルでずっと孤独に生きてきたカミヤにとって、言葉とは行動の下位互換で、弱い今の己の行動が強い他の誰かや現象―――つまりは現実を前にして敵わない場合にのみ現れる弱さの象徴に等しいものだった。
「……そうだ。こんなん、ただのお遊びだ」
カミヤが言葉を発するのは例えば、わからない事がある場合や自分の力だけで解決が出来ない事がある場合、それらの解決案や対応策を私に尋ねる場合だけだった。だからカミヤにとって言葉というのは、自分自身の力が世界に通用しない時にのみ現れる、己の弱さの象徴に等しいものなのだ。
「大丈夫だ。なんてこたぁねぇよ。何も問題なんてありゃしねぇ」
だからこそ私にはカミヤのこれが強がりだと、嘘なのだと、わかるのだ。だってこの『大丈夫』という言葉はカミヤにとって自分が大丈夫でない状態の時にのみ私の口から出てくる己の弱さの象徴的な言葉だったからだ。けれどだからこそ意地っ張りのカミヤはいつしか、己が大丈夫でない状態になったと感じた時、己が弱いという現実を否定する為にその言葉をあえて口にするようになったのだ。カミヤは、たとえ事実がそうであろうとも、それをすんなり認めてしまえば、弱い状態を意味する言葉を素直に口にしてしまえば、自分が弱いという事実がそのまま真実のままであり続けてしまうに違いないとそんな風に思っているのだ。
カミヤは、強がりで、意地っ張りで、頑固で、好意や助言を正面から素直に受け取る事が苦手で、どんな時も自分が一番でないと気がすまない馬鹿で、自分勝手で、偏屈で、思い込みが激しくて、負けず嫌いで、無鉄砲な、けれどやると決めたからには曲がらずにとことんやり抜く、一方で相手が自分より上だと思った場合には素直に言う事を聞く、わがままで強がりで強情っぱりで馬鹿でいかにも男の子といったかんじの性格をしているのだ。
「この程度のこと、問題にもならねぇ」
だからカミヤはどんな時でも絶対に弱音を吐かない。
「なんてこたぁねぇ」
思い通りにいかない現実がある。現実が思い通りにいかないのは、今の己の力がまったく足りてないからだ。己が弱いからだ。だからといって力が不足している現実を素直に認めるなんて出来ない。いいや、認めたくない。だって負けたくない。己に出来ない事があるなんて、己が強くない状態であるなんて、到底素直に認められない。認めたくない。だから己が弱いという現実をそのまま放置しておくなんて、到底出来ない。我慢ならない。
「俺ならすぐにやれるようになる」
そうとも、弱い己のままであり続けるのなんてごめんだ。今の己が己の理想とする状態を外れているなんて、世界で最強の状態じゃないなんて、弱いままだなんて、到底我慢していられない。
「なる」
言い訳なんてのは嫌いだ。弱い言葉を口にするのなんて真っ平御免だ。手っ取り早いのは見せつけてやる事だ。出来ると証明してやる事だ。出来るまでやり続けてやる事だ。だから動く。出来るようになるまで足掻き続ける。絶対にものにしてやると決めた。例えどんな手段を使ってでも己が望む理想の強さを手に入れ、己が行きたいと望んだ場所へたどり着いてやると、そんな風に強く変身してやると、他でもないこの俺がそう決めた。
「なってやる」
だから絶対にどうにかする。打破する。覆してやる。だから弱い言葉なんて絶対口にしてやらない。だって、弱い言葉を口にしたところで、それは現実の己の強さに繋がらない。カミヤは弱い言葉を口にするという事が、弱い言葉を生み出すに要した時間と熱の消費した分だけ損をする行為なのだと心底思っている。
「……」
だからカミヤは基本的に言葉を―――特に弱い言葉を使わない。使うとしても強い言葉だけだと決めている。今はその強い言葉が嘘だとしても、いつかその強い言葉を現実のものにしてやれば、それは真実の強さになる。だからカミヤは基本的に言葉―――それも強いと思う言葉を、己の弱さを否定し続けてやると決意した時にだけ用いるのだ。だから私は、カミヤが何を考えているかがカミヤの言葉を聞いただけですぐ分かるのだ。
「アリュアッテス……」
辿り着きたい場所がある。手に入れたいものがある。一番強くなりたい。頂点に立ちたい。一番上から見える景色を見たい。そんな己の望む所へ既に足跡つけた存在がいて、己が最強でない事を知ってしまっている。
「アンタは―――」
遅かった事を知っている。己は過去の誰かが開拓した世界の中で粋がっている小物だったわかってしまった。己が弱いという耐えがたい事実を思い知ってしまった。思い知らされてしまった。
「―――」
苦しい。超えたい。羨ましい。妬ましい。ずるい。恋しい。欲しい。二の足踏んでただ立ち止まっていると、そんな弱い想いばかりが湧きあがってくる。そしてまた己は、それらの弱っちい想いを言葉へ変換して口にして外に放り出すという行為が自らの気をいくばくか楽にする行為なのかを、経験則として知っている。形にして、口にして、熱を固めて体の外に放り出す行為が己の体を楽にする行為だという事を、知っている。けれど同時、その弱い言葉を発するという行為が瞬間的な慰め以外の何物でもない、虚しいだけの憐憫行為だとわかっている。だって弱い言葉を口にしても己が弱いという事実が改善されない事を知っている。弱い言葉を口にして一瞬だけ楽になったところで何も解決しない事を知っている。熱と時間を無駄に浪費するだけの行為だとわかっている。そんな無駄な熱の消費をしていられる程余裕がない事は、他の誰でもない己自身が痛いくらいに理解させられ、痛いくらい理解してきた。自分が一番でない事を、これまでの生涯において心底思い知らされてきた。
だからそんな言葉、絶対に口にしてやらないのだ。だから努めて強い言葉―――強がりを口にするのだ。
「あんたもいいもん残してってくれたぜ」
思い篭ったかのような言葉が抑揚ない平坦な調子で聞こえてくる。直後、カミヤの体は小刻みに震えだした。遅れ、歯の軋む音が聞こえてきた。体の震えは時過ぎるごと大きくなっていった。指は速やかに全てが折られ、拳が作られた。顔を覆うよう持ち上げられていった両腕は胸半ばで停止し、ゆっくり下ろされた。
顔を見ずともそれらの所作からすぐにわかった。
「……くそっ」
カミヤは今、とてつもなく怒っているのだ。カミヤは今、ふらりと何処よりかからやってきては勝手に己へとプレートという力を残して逝ってしまったアリュアッテスに、そんな何処から来たとも誰かとも知れない相手が勝手に残していった便利な力に頼らなければ今も己はハーシェルの盆地の森林の中に留まっていただろうという不甲斐ない予測に、そんな輩が残していった力に今の弱い己は振り回され続けていると言う事実に、そんな輩が残していった強いと感じる力はこの世界において珍しくない力であるという事実に、そんな珍しくない力を今の己は使いこなせていないという現実に、そんな事実から推測した世界の強さの序列において己は相当下位の方に属しているのだろうという予測に、そんな己の弱さから発した熱をきちんと体内に留めておけなかった自身に、それでも留めておけないなら嘘でも強がりでも変換して口にした方がマシだろうと思って実行してしまった己に、つまり己の理想と程遠い位置に今の己がいるという事実が心底気に食わなくてカミヤは滅法腹を立てているのだ。
「―――気に食わねぇ」
そうとも、今の自分の弱さが、弱いという事実が気に食わない。けれども、そうして未だに届かぬ高い理想と現実の弱い自分を比べて痛切の思いを燻らせ停滞し続けていても現実の己の弱さが変わらない事をわかっている。今の自分が気に食わないなら、前に進み強くなるしかない事を知っている。
「気に食わねぇが―――」
そう。立ち止まって言葉を口にし続けたところでいい事なんて何もない。己の弱さを確認するという無駄事に熱を費やす暇があるのなら、体を動かして少しでも前へ進む方へ熱を費やした方が余程いい。弱音の為に理屈を捏ねたところで、それは熱と時間の浪費以外のなにものにもならない。それが弱さの改善に、理想へ近づく事に何一つとして繋がらない、ただの自慰的憐憫的行動である事を理解出来ている。理解してしまっている。
「……ちっ」
だからだろうカミヤは立ち止まっていると湧き出てくるあらゆる文句を打ち切るような言葉を吐き捨てると、“足”を用いて止まっていた体を再び前へ向けて動かし始めた。
「……」
無言はカミヤが覚悟を決めた証に違いなかった。無論、覚悟を決めた程度の事でカミヤの “足”の不安定さが瞬時のうちに改善される事はなかった。たいした変化が起こる事はなかったが、それでもカミヤは何一つ文句を言わずに不慣れな調子のまま空中において己が前と思う方へ体を押し進めていった。
「―――」
やや時間が経過すると、カミヤのその覚悟と意識の集中が功を奏したのか、カミヤの“足”の挙動は多少とも安定するようになっていった。カミヤの後方に伸びる飛行機雲のうねりと不揃いさも少なくなったのだ。
そう。どれだけ歩みが遅かろうと下手だろうと回り道や遠回りなどをしながら“足”を使い続けて半日以上も世界を彷徨っていたのなら、百キロから二百キロもの距離を進むという事になる。どれだけ下手くそであっても半日以上も練習をし続けたのなら、相応に上手くなるものだ。故に、下手くそなりに“足”を用いて動き続けたカミヤは今、けれども確実にかつてより力を高め、己の“足”跡を世界に残せるようなれたのだ。
「―――」
やがてその後も無言で“足”を動かし続けていたカミヤから“足”の不安定さが失われた頃、出発地点であるハーシェルクレーターはもうほとんど見えなくなっていた。昼過ぎぐらいに最も短くなっていった雲の影は既に朝と同じ程度の背高さを取り戻していた。後少し太陽が沈めば、空は一瞬だけ真っ赤な薔薇色に染まったのち、黒一色になる事だろう。影の高さは即ち世界が静寂さと冷たさと安定を取り戻していっているという証だった。
夜が、近い。
「―――うぉっ!」
そんな折、そんな世界の色の変化に呼応するよう安定と静寂と冷静さとを取り戻しつつあったカミヤの姿勢や態度は突如再びに大きく崩れ、カミヤは驚愕の大声をあげた。
「っと、と……、とっ、と、と……」
カミヤは途切れ途切れに言葉を放ちつつ、ぐらつく体勢を立て直しつつ、行為のさなか前方へ視線を送った。
「―――」
カミヤが視線を向けた方向には白い雲の群れがあった。雲の群れは東から西、カミヤの進行してきた方角とは丁度逆に向かって猛烈な勢いで進んでいた。夕暮れの赤を仄か黒と白の色に染めたこれらの雲を運んできている東から吹く強い向かい風がここら辺りの空域の気流の大きな乱れを生んで、カミヤの“足”を止めさせる要因となったのだろう。カミヤの“足”捌きは、旅立ったばかりの頃よりはずっと上達しているけれども、まだ周囲の大きな熱の流れに影響されず動けるほどの腕前ではないのだ。
「ったく……、―――ん?」
目と口を窄め己の進行を妨げた強い風の到来した方面へと不機嫌の視線を向けたカミヤは、さなかやがてその動きと視線を前方のある一点において止めると―――
「……なんだ、ありゃ」
狭めていっていた目をまんまるく開きなおしつつ、呟いた。カミヤのその言葉と態度からは、先程努めて無言を貫いている時にはずっとあった刺々しさが完全に消え失せてしまっていた。
「……」
興味の感情にのみ支配されたカミヤの視線の行方を追うと、前方彼方の遠くに大きな十文字とそんな十文字を中心に据えて発達する全高五キロ以上はあるだろう巨大な積乱雲が確認する事が出来た。
「―――」
想像を超えた光景には、どのような状態の人間からも余計な感情と思考を完全に吹き飛ばす力があるものだ。即ち、カミヤの視界内に突如として映りこんできた遠く地平の彼方に存在している常識外の大きさを持っている大十字と積乱雲の存在にカミヤの先程まで抱え込んでいた鬱屈の思いが全て吹き飛ばされたのは明らかだった。
「……ミウミ、わかるか?」
修飾がない問いを聞かされたのが私以外であったのならば、彼らは『お前は一体何を問うているのか』という趣旨の問いを返さなければカミヤの問いに応える事が出来なかったかもしれない。或いは困惑しながらも幾分かカミヤの意図を読み取って答えてくれていたかもしれない。けれど私にはカミヤの問いの意味が、どんな意図のもとに発せられた言葉であるのかが、どういう答えを欲しているのかが、完全にわかった。
「あれはアイオリスの風車塔の羽だね」
当然だ。だって私はカミヤが何を知っていて何を知らないかを全て知っているのだ。現状目の前にある状況や起こっている出来事から私がカミヤに教えた事ない要素を引き算してやればそれがカミヤの求める質問の答えになるのだから、その意図を完全に理解出来ないはずがない。
「アイオリス? 風車塔の羽?」
だから当然、この返しも完全に予想の範疇内だった。
「アイオリスはハーシェルから北東方面にあるゲール湖中央の小島の名前だよ。そしてアイオリスの風車塔は、アイオリスの小島に建てられた全長五キロメートルくらいの巨大風車塔。風車塔の羽っていうのはアイオリスの風車塔屋上にある巨大鐘―――音を響かせる道具を鳴らす為の力を生む為の大きな羽で、この大きな羽にあたる風の力を、鐘を鳴らす為の力に変換する道具。ここから二つ見えるあの大きな十字のやつは二つのうちの一つで、元々のアイオリスの風車塔はあの羽を使う事で―――」
疑問を解消するべく微に入り細に入り説明していると、さなか―――
「……へぇ」
「―――」
聞こえてきた呟きに説明行為を中断した。顔を見なくても声のその調子だけでわかる。きっとカミヤの目は今、初めての光景を目撃した子供のようにギラギラと輝いているに違いないのだ。
「風、ね」
熱の籠っている呟きはカミヤが新たな目標を見つけたという証だった。こうなったカミヤはもう止まらない。私が何を言おうともはやカミヤは右から左へと聞き流してしまうのだ。カミヤの意識は今、間違いなく、興味の対象以外を見失ってしまっている。きっと今のカミヤの目には風車塔と積乱雲だけが鮮明に映っている状態で、それ以外は削ぎ落とされ、或いはピントの合っていないレンズの光景のようぼやけてしまっているに違いない。
そう。この状態のカミヤにはもう言葉なんてものが全く通じないという事を、私は他の誰よりも知っている。だから私はもうカミヤに対して何を言おうとも思わなかった。
「―――いくか」
やがてカミヤは視線を外さないままにその全身を北東方面へ向けなおすと、強い向かい風に逆らって“足”をアイオリスの風車塔方面へと進めていった。向かう先に吹く風は強く、雲行きは曇りどころか強い雨模様だったけれど、新しく定めた目的を必ず達成すると決意したカミヤの“足”の動きに乱れはもう存在していなかった。
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