第10話 戦わない防衛戦

▽第十話 戦わない防衛戦

 五十人の女性冒険者は、大きく分けて三つである。


 ひとつは駆け出し冒険者だ。

 まだまだレベルが低く、大した強さを持たない。数合わせ、という感じが強い。

 ただし、擬人化ダンジョンのメイン層であるゴブリンなどは、呆気なく屠れる実力がある。


 二つ目は中堅冒険者だ。

 二つパーティが存在しており、見事な連携を見せている。強いではなく、上手い戦いをする人たちだ。


 三つ目が上級冒険者だ。

 これが中々に厄介であり、数こそ十名ほどであるが、全員が厄介な実力を秘めている。まずゴブリンやオークたちでは敵として認識もされていないだろう。


 少なくともA級の実力はある。

 つまり、勇者くんが十人いると見て良い。まあ、勇者くんはあれでも切り札がたくさんあり、実力を越えた働きができる実力者ではあるけど。


「遺憾ではあるけど、ぼくたちが出る必要がありそうだね。せっかく溜めた戦力を全部失うのは痛いし。エポンはどう思う?」

「いや、主くん。これが最後の練習になるだろう。仮に戦力をほとんど奪われるとしても、一度くらい、この規模の相手に練習を積むべきと見るね」

「! エポンが自分の意見を押してくるのは珍しいね」


 エポンはよく反論や別の意見を口にするが、それはあくまでも「ぼくが間違っていない証明」のためだったり「情報の補足」「何か拾い忘れがないかの確認作業」として意見する。

 それが今日は強固らしい。

 頷く。


 エポンがそこまで言うのなら、そこに嫌はない。

 アンデッドであれば量産できるのだ。アンデッドが倒れればMPも回復するようになるからね。戻ってきた分で作れば良い。

 しんどいけど、それくらいの苦痛は気にならないぼくだ。


「じゃあ、今回は傍観で行こう。どこまで戦えるか、という感じかな」


 この発言をぼくはちょっと後悔することになった。


       ▽

「ねえ、エポン。やっぱり、ぼくが出て行って殺したら駄目かな? もう頭がおかしくなりそうだよ」

「我慢だよ、我慢。やっぱり練習しておいて良かったじゃないか」


 エポンがぎゅ、と抱き締めて宥めるように寄り添ってくれる。不覚にも落ち着いてしまうぼくがいた。美少女のハグはすべての不安の特効薬となる。


 心の安寧とは相反し、状況はハッキリ言って最悪だ。

 女性たちは最初の「隠し通路」を見つけられないのである。もう数日も無意義にダンジョンに潜り、せっかくショウカさんが呼んでくれたり、ぼくが『領域魔法』で作ったダンジョンから連れてきたゴブリンたちを殺す。


 ショウカさんも泣いている。


「うう、仕事が増える……ひとつ呼んでは少年のため、ふたつ呼んでは少年のため――」


 別に、呼んだ魔物が殺害されたからといって、何か感慨があるわけではないらしい。ぼくが常闇魔法で呼んだ魔物を使い捨てにする感覚と同様だ。

 ぼくだって一部の魔物(エポンの助手をしているリッチやイヴの弟子になっているリビング・アーマー)を除けば個体の認知さえもできていないからね。

 この世界の召喚師あるあるだ。

 ともかく、ずっと女性冒険者たちは擬人化ダンジョン内で蠢いている。気になって気になってしょうがない。


 寝ている間だに、急にダンジョンを進まれたら?

 とか考えると夜も眠れないよ。今は心配しすぎて、いつも夜に一人は必ず起きてもらっている。ぼくが起きていたいが、それは固有スキルの関係で避けるべきだ。

 ちなみに今晩はショウカさんの番だよ。彼女は絶望している。


 ……そろそろ、幹部、という扱い以外の配下も増やすべきだろうか?


「階層も足りてないな。第三階層は巨大だけど、まだ完成していないし。中途で迷宮みたいなタイプの階層もほしい。でも、そこに雑魚を大量に配置してもなあ。やっぱり罠の数がネックになってくるかな」


 もう自分で戦いたい!

 戦闘狂とかじゃあないけど……自分で戦って解決できる問題って、マジで神だよね。


       ▽

「領域魔法発動! 『クリエイト・ダンジョン』!」


 ぼくは居てもたっても居られず、領域魔法を発動してみた。創造するのは低級のダンジョンである。そこを第一階層と繋げてみる。

 隠し通路、という形ではない。

 が、上手く探さねば見つからない、というような位置にダンジョンを作った。ダンジョンに突入した後、ぼくは膨大な魔力を練って魔法を連発していく。


 ダンジョンポイントの稼ぎ方は数種類ある。

 ひとつはコアに直接、己がMPを注いでいく作業だ。効率は悪いがノーリスクで確実にポイントを稼げる。ぼくの特技でもある。


 二つ目がダンジョン内で、そのダンジョンマスターに関係のない人物が魔力を使用することである。その魔力はダンジョンが吸収し、コアにポイントとして還元する。これはけっこう効率が良かったりする。


 ぼくはその二つ目を悪用し、生まれたばかりのダンジョンを成長させる。


 頼む。

 このダンジョンのマスターが賢くあってくれ、という気持ちだ。前のマスターは思考を持たないグールで、ひたすらダンジョンポイントを溜めるだけで使用しなかった。

 別件の実験では、ダンジョンマスターになったリッチが、ダンジョンのテーマを悪用してSランクのデュラハンを呼び出して困ったこともある。テーマの悪用で強力な魔物を呼び出すことは、ぼくたちの特権ではないのだ。


 ぼくたちの悪用の一例としては、アンフェスと寝々子が該当する。


「うん、このダンジョンは良い感じみたいだね」


 溢れ出てくるゴブリンたち。

 このマスターは最低限の知性を持ちながら、実力は平凡で、しかもポイントを雑魚と罠に割くオーソドックスタイプらしい。


 あとは放っておこう。

 ここをメインダンジョンだと錯覚して、クリアして帰るが良い。クリア失敗しても良いし、途中で攻略を諦めても良いけどね。


      ▽

 実際に動いてみれば、色々な問題点が浮かび上がってくる。

 何が「平和だなあ」だろう。ゲームをクリアしたと思ったら、じつはチュートリアルでした、くらいのインパクトを感じているよ。


 しかし、ダンジョンらしくなってきたかもしれないね。

 今までは収入が「ぼくがコアにMPを込める」OR「ダンジョン内ダンジョンから溢れてきた魔物が魔法を使う」くらいしかなかった。

 自給自足だった。

 が、今回の件では冒険者たちが外貨的に魔力を供給してくれるのだ。


 冒険者たちは初心者っぽい子が一人死亡し、それ以外はダンジョン内にテントを張っている。が、そろそろ物資が途絶えてきたらしく、帰還する雰囲気が見て取れる。

 ようやく人心地つきそうだ。

 大騒ぎしてみたけれども、やっぱり擬人化ダンジョンは安定しているかもしれないな。


 それから数日後。

 女性冒険者の大群が帰還した翌日、またがやって来た。

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