第9話 平和
▽第九話 平和
呼んだテンイは良い感じにレベルを上げているようだ。
よく解らないけれども、レベルアップは美容に良い、と主張して誰よりも熱心にレベリングをしているみたい。
熱心なのは良いことだろう。
魔物を出させられるショウカさんが、ぼくに泣きついてきたのでテンイにはダンジョン内ダンジョンを紹介しておいた。
そろそろ、もっと高難易度のダンジョンを作るべきだろうか?
ちなみに、アンフェス、オト、リン、ぼく(イヴ帯剣)でダンジョンは最深部まで攻略している。そこに居たのはオークキングであり、どうやら彼がダンジョンマスターをやっているらしい。
ぼくが作ったとはいえ、ダンジョンマスターは味方ではなかった。
しょうがないので交戦。
ぼくはオークキングを殺害して、彼をアンデッドにして支配した。かなりMPを持って行かれてしまった。
常闇魔法で永続的にアンデッドを使役すると、その分のMPが返ってこないのだ。
この世界、MP増加系の固有スキルを持っていなければ、アンデッド使役は割に合わないね。
ちなみにダンジョン・マスターはかなり強敵だった。雑魚によるレベリングもしていたようだし、当然のようにスキルも購入していた。
上級スキルを当たり前のように使う、という意味だ。
この世界のダンジョンが脅威、というのがよく解る一幕だったよね。
今日、ぼくは得に予定がない。
イヴとの修業とダンジョンの視察、あとはダンジョンコアの管理くらい。が、それらを合算しても三時間くらいだ。
みんなで集まる夜まで、まだまだ時間がある。
「……何をして過ごそうかな?」
いつでもフリーなのはショウカさんだ。
だが、ぼくはショウカさんにはなるべく逢いに行かない。彼女ばかりと遊んでいるのは、依怙贔屓に当たってしまうからだ。
ハーレムのバランスを保つことも、調停者の仕事です。
行っても一週間に一度くらいかな? ゲームするの楽しい。二人でベッドに並んで横になり、カチカチとゲーム操作の音だけが響く空間。
どちらかがムラムラしたら、別のバトルが始まるけど。
「……平和だなあ」
擬人化ダンジョンはまだ世間に認知されていない。
だけれども、徐々に勢力は拡大していき、最近では「もうかなり安全なのではないか」と考える時がある。
王都を何度も視察した。
強者はたくさん存在しているが、彼らが一同に攻めて来ない限り、ぼくたちは対処できるように感じるのだ。
アンフェスがいるし、ぼくもいる。
防御面ではオトを突破することは難しく、リンだって成長期だ。
戦ってくれるかは未知数だけど、寝同子は最強である。
イヴとエポンの協力で装備類も充実してきている。
「やることがない……」
現状維持しかすることがないのだ。
こんなことは異世界に来てから、あまりなかったかのように感じられる。下手に外を観察してしまったがゆえ、というのはあるだろうけど。
「このまま、ずっと平和だったら良いけど」
そう言って欠伸をしたぼくは、数時間後に願いが叶わないことを確信する。
▽
どうやら冒険者パーティが数組、このダンジョンに侵入して来たらしい。特徴といえば、全員が女性である、ということだろうか?
合計五十人くらいの冒険者、全員が女性なのだ。
彼女たちの進撃の様子を、ぼくとエポン、ショウカさんはコアルームで興味深く観察させてもらっている。ポイントで呼んだ紅茶を飲み干して、エポンが「くくく」と笑う。
「もしや主くんの色香がダンジョン外にも及んでいるのかもしれないね」
「匂いに釣られて来た、って割には物々しいね」
「どうする? 殲滅するかい?」
「いや、しないよ。ここが普通の洞窟だと勘違いしてくれるのが一番。まあ、それはさすがに無理だろうけど……」
エポンとの作戦会議中である。
今日は魔物軍のリーダーたるショウカさんも、渋々ながらに同席してくれている。今はぼくの膝の上で微睡んでいるよ。
なんだかショウカさんは甘やかしたくなる。
もしも、彼女が何かしらのポカをやらかしても、ぼくが全力で尻ぬぐいするので問題ない。国とかが敵になっても、毎日、夜に転移していって爆撃して、アンデッドの大群で蹂躙してやろう……
最近、うっすら感じてきたのだけど、ぼくってフェスよりもヤンデレっぽいよね。対象が複数のヤンデレ、新ジャンルとして喧伝してくれて良いよ。ダンジョンに入ってきたら敵だけど。
「第三階層まで来たら考えようか」
嫌な予感がする。
もうここの平穏は終わったのだろう、という気がした。擬人化ダンジョンの場所が露呈してしまったら、その日を皮切りに防衛戦の毎日になるのだから。
「やっぱり、このダンジョンはまだ安心感が足りてないな。ぼくや幹部レベルが常に問題に対処しなくてはいけない。……それでは心の平穏は保てないね」
「どうするつもりだい?」
「……何処かのタイミングで根元を断つ。そもそも攻めることのできないダンジョンに仕立て上げよう」
「いくつか手段があるだろう? 人間側に資材を提供する代わりに守ってもらう。そもそも周囲の人類を根絶やしにする。魔物側と交渉してみる。ダンジョンの外を防衛拠点に変えてしまう」
……エポンが思い付く手段を列挙していく。
どれも現実的であるが、ぼくにはひとつ検討していることがある。かつて、戯れに思考したことだけれども。
「――ドラゴン、何匹か連れてきてダンジョン前に配置しようか?」
エポンが呆気に取られたかのように、口をポカンと開いている。その様子があまりにも可愛らしいので唇にキスで蓋をした。
むう、と身を捩ったエポンは、やがて嬉しそうに脱力して身を任してきた。キスを終えてから、エポンは発言した。
唇を舐めてから、
「ドラゴンの巨体であれば、そもそもダンジョンに侵入できないね。問題は居着いてくれるか、だけれども、手段はいくつもあるだろうさ。ドラゴン自体もたくさんいるだろうし、条件に合致する龍を連れてくれば良いだけか……」
「ここは山だからね。そもそも人が入れない山、を目指そう。もちろん、コッソリ入ってくる人もいるだろうし、そういうのは大抵が強者だろうけど。数年に一回、強者と戦うほうが消耗負けの可能性が潰えて良いよ」
「ドラゴン討伐に軍が出てきても、ショウカくんと主くんの軍団がいる、か」
山の魔境化、これが解決策である。
まあ、すぐに実行することはできないだろう。準備に時間がかかるし、ドラゴンを屈服させる実力をつける必要がある。
しばらくは敵の襲撃を受け止め続けねばならないだろう。
「ゲームとかだとダンジョンは、冒険者たちの食い物だ。ダンジョンマスターは彼らのためにダンジョンを運営するようなモノさ」
でも、
「ぼくたちは違う。ぼくたちはダンジョンに生きている……ぼくたちはぼくたちのためだけにダンジョンを運営しているんだ」
目標は据えた。
そのための活動を開始しよう。すべてはぼくたちの安寧のため。
擬人化ダンジョンの幸せな運営のためである。
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