第11話 勇者の暗躍、露呈する
▽第十一話 勇者の暗躍、露呈する
ご新規のお客様が団体でいらっしゃった。
女性軍団の追加はまたもや五十名ほど。
ぼくは不敵に「ふ」と微笑んでから、ゆっくりと玉座に腰掛けた。
緊急会議! 招集!
全員がダンジョンコアの前に勢揃いしている。
そろそろ、ここを会議室みたいに設えても良いかもね。
全員、と言ったけど寝々子は不在だ。何処に行ったのかは知らない。気紛れな猫ちゃんなのだ。夜とご飯の時だけ帰ってくる。あと甘えたい時。
マジで猫である。キャスパリーグを猫枠にするのは遺憾だ。
帰ってきたら服を泥んこにしているので、また洗濯してあげねば。
ともかく、ぼくは両腕を上げて叫ぶ。
「意味解んないんだけど!」
投げやりになるぼくに、オトが宥めるように頭を撫でてくれる。
「よしよし、可愛いわね、旦那さま。でも、さすがにおかしいわね。全員が女性……前回はそういう集団だった、で済むお話だったけど」
「おかしいであります」
意見するのはアンである。
一応、彼女は我がダンジョンの近接戦闘軍に於ける元帥だ。
軍事については彼女が詳しいだろう。
ちなみにエポンからは別の人を元帥に据えるように提案されてるよ。だってソウルコンバートを使ったら、近接軍と魔法軍、両方の指揮を彼女が執らねばならないからだ。
まあ、ソウルコンバートを使った時点で、もう軍がどうとかではなく、個の戦いに突入しているので、ぼくは今のままでも良いと感じているけどね。
「あの軍団にはまとまりがないようであります。中堅は元々がチームだったようでありますが、上級レベルになれば連携がそもそも成り立っていないようであります」
「それは連携を取るまでもない、ということではないようだね?」
とエポン。
アンは大きく頷く。腕組みの仕草が軍服ワンピースとよく似合う。
「軍師殿の仰る通りであります。あれは……別パーティから引き抜き、役割で無理矢理にチームを組んだ、という感じであります」
「ボクは軍師ではなく、衛生兵のつもりではあるよ?」
「軍師衛生兵長の仰る通りであります」
「人材不足が嘆かわしいね、ボクは。ボク程度が軍師とは……」
アンの意見を参考にすると、ちょっと浮かぶ人がいる。
「勇者くんかな?」
「たしかめる」
リンはイヴに作ってもらった、巨大な金砕棒を雄々しく振り上げた。無表情なのに雄々しい、というのが恐ろしい。
やはり幼女には巨大武器がよく似合う。
ただし、リンが全力で暴力を振るえば、確かめる前に敵がぐちゃぐちゃになる。悪趣味ハンバーグに最適な材料を調べるのでない限り、彼女に「確認作業」は不適だ。
そこで一人の配下が手を上げた。
中性的な美少女――転移トラップのテンイだ。
「わたくしが行きましょう。わたくしはダンジョン内でも広域の転移が可能なので、美しく任務を遂げてみせましょう。はあんっ! 任務に立候補するわたくしも美しいなあ!」
「……ぼくが行ったほうが早くない?」
「閣下は最後の砦。最高戦力にして最高責任者です。初手で貴方が動くのは……それはそれで美しいですが、やはり美しいわたくしが美しく動くべきでしょう」
「任せる練習、ということかな」
「美しく任せる練習、ですよ閣下」
「ちょっと美しすぎるかもね、テンイ」
ぼくの言葉にテンイがはあんっ、する。
ダンジョン内で転移をすることは、かなり難しい。ここが異次元の一種だからだろう。ぼくのように支配しているならばともかく、その配下や他者は上手く転移が使えない。
その問題がテンイにはないのだ。
時空魔法取得者ならば、短距離転移くらいならできるけどね。
まあ、時空魔法の取得者が少なく、消費もあってあまり警戒するほどではない。敵が転移系の固有スキル持ちならば、そもそも警戒したって突破してくるだろう。
「解ったよ。テンイが敵を一人、牢獄に連行する。これで行こう。護衛としてオトをつけよう。まだまだテンイは高レベルではないからね」
「美しい任務です、閣下!」
テンイが狙うのは敵の初心者枠である。
連れてきさえすれば、ぼくが『ディスペル』で洗脳の有無を確かめられる。連行に失敗したとしても、ぼくが転移魔法で援護に行けるはず。
オトならば時間稼ぎができるだろう。
ぼくたちが早速、作戦を開始しようとした時だった。
ドアをバン、してL級の魔物が侵入してきた。
肩にグッタリした女性を担いでいる。寝々子がニンマリとドヤ顔を浮かべた。
「今日の狩りは人っすよ! なんと! ダンジョンにS級レベルが落ちていたっす。遊んだら壊しちゃったので、エポンかご主人に治してほしいっすよー」
「うわあ、台無しだあ」
「あとあと、これ、飼っても良いっすか? にゃんと猫は人を狩ったのは初めてっすからね。記念記念。ちゃんと狩りができたの、褒めてほしいっすね、ご主人」
ゴロゴロ言い始める(口で言ってる)寝々子の頭をぽんぽん、と叩きながら、ぼくは担がれた女性に『ディスペル』をかけてみる。
弾かれる。
やはり洗脳されているようだ。かなり長期間の洗脳だったらしく、しかも念入りに重ね掛けされているらしい。
「負けたみたいで悔しい……本気で行くよっ!」
ぼくは全力で『ディスペル』を放った。そうすると、ようやく女性を拘束していた「洗脳」が解除されたらしい。
これ、普通の魔法使いだと解けないかもね。
さすがは勇者の固有スキルである。
「ごめん、ちょっとムキになりすぎてMPを使いすぎた。エポン、軽くで良いから治療してあげられるかな?」
「承ったよ、主くん」
エポンが聖魔法での治療を開始した。
そろそろエポンの聖魔法では治療が追いつかなくなってきたよね。彼女も積極的にレベルを上げて、せめて聖天魔法を取得できるようになってもらいたい。
一方、ポーション技術は一級品なので、そちらも続行してほしいし……難しいところだ。
五分程して寝々子に連行された女性は、目を覚ました。
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