第19話 王都、到着
▽第十九話 王都、到着
魔力探知を使った感じ、動いている敵は三十名ほど。
それ以外の生命の反応は二十くらい。大型の馬車三つとはいえ、ずいぶんと詰め込んだものである。
その努力は認めるけれども、踏みにじらねばならない。
ぼくは次々と転移して、敵の背後からの斬撃を繰り返す。耐久力の乏しい敵であれば、一撃で首を切り落とすことが可能だ。
だが、かなりの数の敵が、首への一撃を食らって生きている。
HP制度の所以だね。
逆に安心できる。ぼくも固有スキルによってHPは膨大である。たいていの攻撃から生存できる自負がある。一撃死対策に「根性」スキルも持っている。
つまり、ぼくは易々と殺されない。敵のしぶとさはその証左。
「くそ、転移だと!? しかもこんなに何回も! 人間の持っていいMP量ではないぞ!」
「何か仕掛けがあるんだっ! そうそう何度も使える手ではないはず!」
「固まれ! 固まって備えろっ!」
生き残ったのは十七名。
固まられたならば、現在のぼくには戦う術がない。なんらかの広域殲滅魔法を覚えてみたいところである。
今のぼくにできることは、精々が――、
「次元ポケット展開――名付けて『メテオ・ストライク』」
転移した場所は遙か上空。
身体が凍り付きそうな、夜空の中、ぼくは星々に並んでいる。高速で落下しながらではあるけれども、転移で逃げられることが解っているので恐怖はない。
次元ポケットから取り出したのは、大岩である。
今、敵が集合している場所には、捕まった女性はいない。ゆえに誤射の心配はない。まあ、誤射を恐れて被害を出すつもりはないので、巻き込んだら巻き込んだで諦めもつく。
ぼくは優先せねばならない。
自分の命と仲間の命を。
「だからキミたちは死んでくれ」
隕石が降り注いだ。
▽
さて、ぼくがテントに戻ってみれば、新品の死骸が四つほどできあがっていた。
アンを襲ってみたものの、返り討ちに遭ったのだろう。さすがはAランクの魔物というだけある。
場合によっては、転移魔法でフェスを連れてきて「ソウル・コンバート」を使ってもらうことまで想定していたのだ。
ずっと虚無魔法で観察していたとはいえ、瞬殺してくれて安心した。
さて、リーダー格らしき騎士鎧の男だが、彼も瞬殺された一人である。ただし、彼は両手をねじ切られた上で、どうにか生かされている。
生命を維持させたのは、起床したエポンである。彼女が聖魔法を使って助けたのだ。
「不要かもしれないが情報は得ておこう、と愚考したのだよ」
「エポン殿、ご助言を感謝するのであります。自分では即死させていたであります。より我が君に貢献できて嬉しいであります」
「くく、戦闘はお任せするよ」
悪い笑みを浮かべるエポン。
まあ、ぼくたちは所属として「人類の敵」なので悪くなかろう。
尋問は得意ではないのだけど、やってみよう。
「えー、騎士くん。キミの主人の名前は? 目的は? 領地の場所は?」
「あ、あああ……ば、化け物っ! 私は! 私はエンズ伯爵の騎士だぞっ! こんなことをしてタダで済むとは思うなよ! このことが露見すれば――」
「――露見しないよ。だってキミは死ぬのだもの」
「えっ……」
目を丸くするエンズさん家の騎士くん。
彼はどうやら生かされたことによって勘違いしてしまったらしい。しかしながら、当然の如く、ぼくは彼の命を助けるつもりはこれっぽっちもない。
ぼくがにっこり微笑めば、騎士くんはギョッとした顔をする。月明かりを背負ったぼくの顔が、今の彼には怪物にでも見えているのだろうか。それとも。
「今、ぼくが問うているのは『楽に殺されたいか』『残酷に痛めつけられてから殺されたいか』の二択だよ。応えてくれるなら優しく殺す」
「こ、殺さないで! 話す! ぜんぶ、なんでも話すからぁ!」
「うん、じゃあ話して?」
それから騎士くんはベラベラと話し出す。
自身の名をマードックと言い、先祖代々エンズ伯爵家に仕えていること。エンズ伯爵は人身売買を得意としており、それによって数多の人脈、ならびに富を得ていること。
エンズ伯爵は絶倫であり(ぼくの仲間だね)、男女問わず(ぼくとは違うね)、あらゆる美しい人材を欲していること。
現在、王都の政変によって混乱している中、隙を見てたくさんの人材を誘拐したこと。
などを述べた。
色々と理解した上で、今回の話は――どうでもいいことが判明した。
ぼくたちが『特別』だから襲われたわけではなかった。ただ容姿が良く、襲いやすいと判断したが故の襲撃である。
「うん、助かった。キミは優秀なのだね」
「そうです! ですから、どうか俺だけでもお助けください! 俺の人を……攫う手腕はなかなかのもの! 確実に貴方様のお役に立ちましょう!」
「それは嫌」
「な,なんで! ぜんぶ吐いたのに!」
「キミが今までしてきたことが、自己紹介のひとつで雪がれると思っているなら……救えないね」
「ま――」
――剣を一閃。
騎士は首から血を吹き、その場で力を失った。アンたちのほうに倒れようとしたので、その身体を蹴っ飛ばす。
「どうするね、主くん」
エポンが首を傾げ、ぼくのほうを見つめる。
「王都はゴタゴタしているようだよ。騒動に巻き込まれるのは厄介ではないかね?」
「面倒そうだけど、見に行こうか。何が起きているのかも把握しておきたいし、騒がしいほうが逃げやすい」
なによりも、今回、助ける形になった人々を置いていくのは申し訳ない。
攻めてきたなら殺すけれども、何の罪もない人を見殺しにするのは、ちょっとだけ申し訳ない。ちょっとだけ。ぼくたちに危険がないのならば、助けようかな、くらいだ。
「馬車もゲットしたことだしね」
「この馬車を使えばエンズ家との繋がりが疑われないかい?」
「何かあったら罪をなすりつけ放題ってことだね」
「くくく……まあ、そう上手くはいかないだろうがね」
ぼくは殺害した人間のひとりから身分証明を奪い、馬車に乗り込んだ。
▽
王都にはあっさり侵入することが可能だった。
どうやらエンズ家の威光は王都に轟くらしく、馬車に搭載された紋様を見ただけで、門番たちは震え上がった。ろくすっぽ検査されることもない。
危機意識が皆無。
しかしながら、こういう素通りが必須なくらい、エンズ家のやり口は汚いらしい。
ちなみに奴隷にされそうな少女たちは、すでに解放の準備が整っている。奴隷の紋章なるモノを刻まれていたけれども、虚無魔法の『ディスペル』で解除しておいた。
ディスペルは強力な魔法だが、少々、扱いづらい。
聖魔法の「フレッシュ」「レジスト」「キュア」などの状態異常回復とは異なり、ディスペルは対象への強化も弱体化も、すべてを強制的に打ち消すからだ。
少女らを逃がした後、ぼくたちは王都を見て回った。
本によく出る「糞尿が道路を覆い尽くす」ような中世ヨーロッパではなかった。掃除の魔法があるからだろう。
町並みは基本的に石造り。
雑多とした印象に一躍買うのは、露天の数々。見たこともないような野菜や魚、果物が展覧されている様は、じつに興味をそそられる。見たことのない硬化を手に、子どもたちが楽しそうに駆け回り、何を買うのだとはしゃいでいる。
人々はそれぞれが生活しており、嬉しそうだったり、悲しそうだったり、忙しそうだったり……とくに違和感はない。どのような世界にあっても、生きているのは人なのだろう。
なんだか良い物を見た気分になって、ぼくは大きく伸びをする。
「悪くない雰囲気だね。ぼくはあんまり街に繰り出したりしたことなかったけど……好きな雰囲気だな」
「我が君が好きなら、自分も好きであります」
「もっと意思を持とうか」
「人が多くて鬱陶しいであります」
「いいね」
アンは人混みが嫌いらしい。
いや、もしかしたら人が嫌いなのかもしれない。分類学上ドラゴンな彼女にとって、この場所は小バエが大量に発生するシンクに感じられるのかもしれない。
ちなみにぼくは人ではなく、調停者という種族だよ。
「じゃあ、とりあえず宿でも取ろうかな。エポン……お金はあるよね?」
「ああ。殺した者たちから抜いておいたとも。道中、摘んだ薬草を売ることだって可能だろうね」
「助かるよ」
エポンは抜け目ない。
ずっとベッドの上で人生経験が乏しいぼくから見れば、彼女の思考は得がたい強みである。彼女を連れてきて良かった。
ぼくたちは「そこそこのグレードの宿」に泊まることにした。
安宿はシラミとか多いらしくて嫌だよね。
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