第10話 VS冒険者

▽第十話 VS冒険者

 あれから数日、ぼくたちは着実にダンジョンを運営していた。


 ポイントも増えたし、狩りにも赴きレベルも上げた。銃の補充や居住スペースの改良も行い、ダンジョンの構造にも手を加えた。

 あと全滅した山賊たちの装備も入手した。


 現在、リンが斧を装備して、オトが槍を手にしている。

 ぼくは余った剣。

 それからエポンは銃の魅力に取り付かれたらしく、銃を武器にしたいらしい。彼女は『聖魔法』で支援も可能なため、拳銃でも問題はないかもしれない。


 また、ぼくもスキルの構成を変更した。

 現在のぼくのステータスは、こうなっている。


 名前『クラノ・ユウイチ』 種族『調停者』 レベル『16』

 HP2500 MP3560

 攻撃力 F 魔力 F

 防御力 E 素早さ E

 所持スキル『魔力操作1』『命中1』『剣術1』『身体強化1』『根性1』『虚無魔法1』『詠唱短縮1』『体術1』『短剣術1』『風魔法1』

 種族スキル『ダンジョン・マスター1』

 ユニークスキル『明けない夜の蹂躙者ネバーエンド


 となっている。

 あれからの変更点として『魔力操作』『虚無魔法』『詠唱短縮』『風魔法』という魔法系のスキルを入手したことが挙げられる。


 魔力操作は文字通り、魔力の運用を上手にするスキルだ。これによって魔法の威力や消費MPを抑えられるし、何よりもコアへのMP供給効率が上昇してくれた。


 無属性魔法は、特殊な効果が多く、使っていて面白い。

 ただしMP消費が馬鹿みたいに多く、一部の魔法の詠唱がとても長い。それを補うための『詠唱短縮』である。

 最後の『風魔法』は余っていたし、安かったので入手しておいた。虚無魔法が戦闘系ではないので魔物戦では重宝している。


 きっとぼくたちは強くなった。

 山での戦闘も繰り返してきて、だいぶ戦闘行為にも慣れてきた。かつてダンジョン内で餓死させてやった山賊集団であれば、もう真正面から叩き潰せる戦力がある。


 そういう確信を抱いた、翌日のことだった。

 山に仕掛けていた鳴子が沈黙を破ったのは。――侵略者の時間が始まるのだ。


       ▽期待の新人Dランクパーティ『夜明けの顎』

 結成より半年。

 新進気鋭の冒険者パーティ『夜明けの顎』は、なんとDランクにまで上り詰めた。この躍進撃の秘訣を問われれば、多くの者が「ユニークスキル持ちが二人いること」を挙げる。


 実際『夜明けの顎』の強みは、そこにある。


「おい、クルシュ。本当にこんなちんけな洞窟にお宝があんのかよ」

「うちの『夢の地図ドリーム・マップ』は知っとるやろ。ユニークスキルさまやぞ」


 クルシュのユニークスキル『夢の地図』の効果は、白紙の地図を用意すれば、そこに自身が望むモノの位置が描かれる。

 今回、彼女が望んだのは「なるべく格下の敵しかいない場所での、最大の富」だった。

 このスキルは有能で細かい情報を設定できる。失せ人探しも可能だし、ダンジョン内で迷うこともない。攻撃系のユニークではないものの、冒険者としては最高レベルの力だ。


 クルシュは周囲を見回りながら、一応は、と仲間の剣士に声を掛ける。


「ボイド。この辺の敵の強さはどうなってるんー?」

「全員、俺様たちより低レベルだな。安心しろ。『弱肉強食ハイオアロー』に間違いはない」

「ほら,やっぱりうちの能力が効いとるんや。格下しかおらん」


 ボイドの固有スキルは『弱肉強食ハイオアロー』と言い、自分よりも強いか弱いかを瞬時に見抜くことができる。このスキルによって『夜明けの顎』は安全に生き延びてきた。


 固有スキル持ちの斥候、クルシュ。

 固有スキル持ちの剣士、ボイド。

 安定した防御が得意なタンク、キーシュ。

 若干十六才にして上級魔法である火炎魔法を使いこなす、マイン。

 それからヒーラーとしては十分な仕事をこなす、エレナ。


 この五人こそが『夜明けの顎』である。

 彼らは今回も「美味しい仕事」を探し、この山奥にまでやって来た。目の前にあるのはどこにでもありそうな洞窟である。

 クルシュいわく、ダンジョンだろうとのことだ。


「まあいい。誰も見つけてねえダンジョンだったらお宝はガッポリだ」


 こうして彼らが飛び込んだのは、死地だった。


       ▽期待の新人Dランクパーティ『夜明けの顎』

 目の前の洞窟は、まっすぐな直線。人の手がまったく入っていない、薄汚れた洞窟だとしか思えなかった。

 ダンジョンだというが、魔物が見えない。

 剣士たるボイドは、斥候担当のクルシュに視線を送った。


「あ、マップが描かれたわ。……なにこれ? ちょっとボイド、こっち来て」


 言われるがままに近寄り、彼女が指し示す場所に全力で蹴りを入れる。すると、そこには人が一人、ちょうど這いつくばれば侵入できるほどの穴が開く。

 隠し通路だ。

 やはりクルシュのスキルは便利だ。ほしいモノの在処を絶対に見逃さない。


「一応、警戒のためにタンクのキーシュから入ってくれ。その次に探知担当のクルシュ、回復役のエレナ、マイン、俺の順番で突入する。クルシュはバックアタックも警戒して探知してくれ」

「了解や」


 さて、慎重策は取ったモノの、隠し通路はアッサリ抜けられた。

 目の前に広がるのは、まっすぐな通路。おそらくは一キロメートルほどはあるだろう。定規のマス目の如く、壁には統一感覚で灯りが設置されている。

 その灯りを目にしたクルシュは目を輝かせた。


「なんやこれ! こんな灯りは見たことない。もしやアーティファクトか!? 少なくともレアものの魔道具であることは確実や!」

「ダンジョン設置物なら持って帰れねえだろ?」

「いや、見てみい。うちのマップは『これ』もマークしとる。持って帰れるよお。このレベルのアイテムがまだぎょうさんありよる」

「ほう。俺様たちのランクアップも間近だな」

「ランクアップしたてや言うねん!」


 このパーティは基本的に、ユニーク持ちの二人が主体となっている。それは当然のことだ。他の全員はあくまでも優秀な二人を補佐する立場なのだから。

 美味しい思いをしているので反感を持つこともなく、むしろパーティ仲は良好だ。


「さて、一応はダンジョンらしくなってきたやんか。キーシュ、一メートル先に落とし穴や」


 言いながらもクルシュは、土系の魔法を詠唱する。戦闘には役に立たない代わり、彼女はこういった場面で遠慮なく魔法を使えるのだ。

 出現したのは、大きな石の橋だった。

 それで落とし穴に橋を架ける。仮に罠が発動したとしても無効化できるようにだ。いざという時、撤退したくても大穴が開いていて無理でした、ではお話にならないからだ。


「行こか」

「待て……数百メートル先、人影だ。魔物か? 同業者か?」


 ボイドが指さす方向には、小さな影がある。

 警戒しつつ近づいていけば、そこに立ち塞がっていたのは斧を肩に担いだ――幼女だった。絶世の美幼女であることは理解できるが、どうしてこのような場所に? と一同は首を傾げた。


 だが、ボイドだけは嗤っていた。


「おい、おまえら。アレは俺様がもらうぞ」

「相変わらず、ボイドは若い娘が好きやねえ。うちらとしてはパーティ内で喧嘩せんでええけど」

「なんでここにいるかは、抱きながら訊こうか。レベルは俺たちの半分くらい」


 ボイドは肩に剣を担ぎ、薄笑いで美幼女に近づいていく。


「おい、嬢ちゃん。そんなでかい斧を担いでも全然こわくねえ。俺様の固有スキルは『弱肉強食』と言って、力の差が見ただけで――」

「てき」


 幼女が動いた。

 巨大な斧の重量を物ともせず、一息で鉄塊を振り下ろす!

 ボイドは薄笑いのまま、肩に構えた剣で受け止めようとした。速度はたしかにある一方、技術もなにもない一撃だ。

 レベルが倍以上あり、技術も圧倒的に上のボイドであれば簡単に――、


「――なっ!」


 それがボイドの最期の言葉だった。

 鉄の剣ごと――ボイドの頭部に斧が突き刺さったからだ。頭部から間欠泉のごとく血をまき散らし、ふらりと倒れ伏すボイドを見つめ、クルシュは叫んだ。


「あかん、なんかあかん! 逃げるで!」


 その撤退の判断は迅速であり、なおかつ的確であった。

 斥候は道を切り開き、確認する役割がある。指示を出しつつも真っ先に逃げ出した彼女は、突如として肉体が浮遊感を得たことに気づく。

 浮遊は刹那。

 気づけば――クルシュは穴の底に落ちていた。底に設置されていた竹槍が足や太ももに突き刺さり、鋭い痛みが走った。

 目を見開く。


「なんでや! なんで落とし穴が大きくなっとるねんっ!」


 しかし、これくらいの罠ならば問題はない。

 痛みにしたって慣れっこだ。アッサリと竹槍を足から抜こうとして、身体が強烈に痺れていることを自覚した。


 竹槍に麻痺毒が塗り込まれていたのだ。

 動けない。ハッとして頭上の仲間たちに指示を出す。


「キーシュ、時間を稼いでくれ! 麻痺毒もろうた。うちに麻痺消しの魔法を頼むわ!」

「は、はいクルシュさんっ! 『クリア・パラ――」


 不意に『夜明けの顎』の回復役エレナは、頭部に石片が降り注いだことに気づく。本来ならば、そのていどのことで魔法を中断したりしない。

 だが、何か、強烈に嫌な予感がした。


 死神の鎌が首に掛かっている――そのような映像が脳裏をよぎる。


 半年といえども、優秀なパーティーの一員として活躍した彼女には――嗅覚があった。

 顔を上げ、天井を見上げれば、そこには「何か」がいた。まるでそこだけ空間が歪んでいるかのような、小さな違和感。


 絶死の香り。


「えっ、な、なに――」

「……!」


 何かが降り注いだと同時、エレナの首が切り落とされていた。がくり、と脱力した死体が落とし穴に落ちていき、下にいたクルシュが悲鳴をあげた。


「エレナああああ! なんやこのダンジョンはあ! もう逃げえ! マインだけでも逃げえ!」


 悪夢だった。

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