第8話 ダンジョンマスターの強化と拳銃の威力
▽第八話 ダンジョンマスターの強化と拳銃の威力
エポンと行う魔力供給は、無事に終了した。
今回は吐きたくなかったのも手伝い、MP回復は四回にとどめておいた。といっても、昨夜の『明けない夜の蹂躙者(ネバーエンド)』によって、得られたポイント量はそこそこだ。
まだ気怠さもありながら、ぼくはダンジョンカタログの閲覧を続けている。
次に確認する項目は、ダンジョン・マスター強化である。
つまり、ぼく自身をダンジョンポイントで強くすることができるのだ。戦わずに強くなる、なんて最高かもしれない。
まあ、こういう形で強くなっても、いずれ強者に技術差や経験差でコテンパンのパンにされてしまう未来が見えるのだが。
見える。見える。
『くっ、ぼくのスキルレベルはすべて最大だぞっ! スキル数だってキミよりも何十個も多いっ! なのに! なのにどうして! どうしてぼくが押されているんだ!』
『お前は神から与えられたスキルに頼りきりで、肝心の「自分の力」を高めてこなかった! 俺はいくつもの修羅場を超え、仲間と競い、高めあってきた! それがお前の敗因だ!』
『くそくそくそくそくそお! そんなの、そんなのズルだあああ』
ぼく、消滅。
うん、こうならないように精進しなくてはね。なんて言いながらも、ぼくたちの勢力は総じてレベルが1である。
スキルレベルだけが高い、噛ませ雑魚悪役にならぬためにも強くなろう。
さて、ダンジョン・マスター強化には二項目ある。
ひとつはスキル購入・削除である。
文字通りスキルを入手したり、不要なスキルを削除したりできる。
ぼくはまだ「初級ダンジョン・マスター」なので、ダンジョンポイントを使って入手できるスキル数は「10個」までである。
才能をポイントで買えるなんて、もう向こうの世界には帰れないね。
しかもスキルは意外と安い。
物によっては100ポイントで購入できるし、上級スキルも1000ポイントで購入できてしまう。
ただし、特殊すぎるスキル、条件が必要なスキル、一部のあまりにも強すぎるスキルは数万ポイントから際限がなかったりもする。
ただ上級魔法スキルの『時空魔法』『常闇魔法』『神聖魔法』なんかも1000ポイントで買えるので、これらは是非とも入手しておきたい。
今はちょっと貯蓄が足りていないけど。
ちなみに高価な魔法は『世界魔法』『創造魔法』『禁術』『消滅魔法』などなど、だ。見るからに世界滅ぼせそうな魔法ばかりである。
日常使いにはオーバースペックすぎるだろう。……いずれほしいけど。
スキルが安い理由は、ダンジョンコアの知識で得ている。
どうやら、この世界は他の世界と比べ、魔法が発展しすぎているらしい。その所為で世界を構築する「魔力」が不足しているのだ。
それゆえに神は細工を行った。
それが「スキル付与」である。スキルを付与された人間は、人生を懸けてスキルを成長させていく。
神は「スキル1」を与えるが、人間はそれを成長させて「スキル2」や「スキル3」とスキルのレベルを上昇させていく。そして死後、スキルを世界に返却するのだ。
そうすることにより、世界へ魔力を供給している。
要するに「農業」に近い。種を撒くことが「スキル付与」であり、人間が手に入れたスキルを育てて、最後には世界が収穫する。この繰り返しによって、この世界は維持されている。
それゆえ、神は「スキル」を渡すことに積極的なのだ。
今回、ぼくが入手するスキルは「命中」「体術」「身体能力強化」「根性」「短剣術」の五つである。
全部で1000ポイント、お得。
「さて、強くなったことだし、そろそろレベル上げをしてみようか」
ダンジョン・マスター強化にはもう一項目ある。が、それは後日に回そう。ポイントに余裕がないし、もうひとつの強化は大量のポイントが必要となってくるからだ。
ぼくはオトたちを引き連れ、ダンジョン外に繰り出した。
▽
いた。
山の中部。鬱蒼と生い茂る木々の向こうに敵がいる。
オークの群れだ。数は五体。レベル1の集団であるぼくたちには、少し――いやかなり厳しい相手だと言えよう。
ダンジョンコアの知識では、レベル10ないと危ないようだ。
が、ぼくには――拳銃がある。
すでに弾は込めてあるし、試射は済ませてある。……たぶん、いける、はず。
「よし、手はず通りに行こう。まず、ぼくが銃撃、オトも魔法で攻撃、リンとエポンは待機してくれ」
「ますたー、リンもたたかいたい……」
「念のために待機して、ぼくとエポンを守ってくれ。良いね?」
「ますたーまもる」
ぎゅっ、とリンが抱きついてくる。頭がちょうど胸辺りにある。美幼女の暖かさに頬が緩みそうになってしまう。
現状、リンの強さは、ぼくたちの中で抜けている。
繁殖スキルで日々分裂し、それを『共食い』スキルで吸収しているためだ。
予測に過ぎないけれども、リンはオークを真っ向から叩き潰せる。が、あくまでも予測にすぎないためにリスクは犯せないのだ。
オークはまだ気づいていない。
だから、ぼくは木の裏から一気に飛び出し、引き金を強く絞った。
「経験値になってくれ!」
入手した『命中』スキルの補助により、弾丸がオークの肉にめり込んだ。
「ぐ、おおおおおお!」
悲鳴をあげ、オークどもが一斉にこちらを発見する。凄まじい速度で迫ってくる。
「オト、魔法で追撃! ぼくは射撃を続行するよ!」
一発で倒せるだなんて思っていない。
ぼくは続けざまにオークを狙い撃つ。足に四発ぶち込むつもりが、二発も外してしまう。やはり『命中』スキルもレベル1では頼りない。
もう一発。命中。
オークが悲鳴を上げ、その場に勢いよく崩れ落ちる。それに巻き込まれて、敵のオークがもう一体、地面に倒れ込んだ。
残りの三体は以前、こちらに向かってくる。
しかし、こちらにはまだオトがいる。彼女は影魔法の『影槍投』を放ち、オークの足を貫く。地面に転がるオーク。
さらにオトは土魔法も使い、オークたちの足下に隆起を発生させた。
最後の二体も転倒する。
「リン、いくよっ! エポンも魔法を頼む」
ぼくとリンが走り出し、転んだオークに追い打ちを掛ける。ぼくはオークの頸椎にナイフを突き立て、リンは単純な蹴りでオークの脳髄をぶちまける。
身体に力が漲る感触。
レベルアップしたのだろう。
ぼくの真横を水の弾丸が通り抜けていく。これはエポンの魔法である『ウォーター・バレット』であろう。
水の弾丸がオークの顔を打つ。
オークは痛そうに呻き声を上げたが、致命傷にはほど遠い。
「いける! トドメだ!」
ぼくは銃に弾を込めて乱射。
オトは影魔法で槍を投げ続け、エポンは水の弾丸を放ち、リンは拾った石でオークの頭を粉々に吹き飛ばした。
結果、オークはあっさりと全滅してしまった。
「ぼくたちの勝ちだね!」
「おー」とリンが無表情ながら腕をあげる。
それにしても上手く戦闘が運んだ。
銃の威力も想定通りだったと言える。じつは事前に銃の調査は行っていた。近場にある岩に向けて銃撃してみたのだ。
結果、『影槍投』より威力は上だった。
ただし『影槍投』のほうが槍が刺さるため、足止め性能が高い。いずれは魔力が上昇することによって威力関係も逆転するだろう。
「銃はあまり強くないかもしれないな……あくまで拳銃は、だけど」
そもそも拳銃は人間相手でも必殺たり得ない。
警察官が犯罪者を銃撃しても、撃たれながら向かってくる、なんてよく聞く話である。人間よりも肉厚で頑丈な生物には通用しない。
が、ことがアサルトライフルなどになってくれば、きっと話は変わってくる。
「足止めや牽制には使えるし、サブウェポンとしては十分だけどね」
弓よりも少ないモーションで放てるのがメリットだ。魔力を使いたくない場合の遠距離攻撃手段として、十二分に採用圏内と言えよう。
「みんなMPや体力は十分ある?」
「もっと戦いたい……ますたーに血を見せたい」
「私もいけるわ。いざとなれば落とし穴として活躍もできるしね」
「ボクのMPはスッカラカンさ。レベルアップしても回復しないのが辛いところさ。ボク自身のMPは回復できないし」
なるほど。
エポンが戦力的に不安になってしまった。
仕方がなく、ぼくは銃をエポンに渡す。護身用にしかならないだろうけれども、まあ、あるほうが断然よろしいはずだ。
ぼくたちはもう一度、交戦するべく山を彷徨った。
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