第7話 ダンジョンカタログを見よう
▽第七話 ダンジョンカタログを見よう
頭痛が酷い。
新しく仲間に加わったエポンやオト、リンとともに朝を迎える。少しだけ寒いので服を着てから、ぼくは寝床から這い出た。
やはりベッドがほしい。
大きなベッドが良いな。色々と。
昨日は調子に乗って、エポンの回復を何度も受けてしまった。どうやら、この世界の回復は万能ではないようで、回復には重大な副作用がつきまとう。
HPの回復ならば、一日につき「最大HPと同程度」しか回復できない。
たとえばHP100の生物がいたとして、その生物は一日につき100しか回復できないらしいのだ。
エリクサーやHPリジェネバフなどの例外もあるらしいけど。
MPに関しては余裕がある。
回復するごとに苦しくなるのだ。正直、五度目の回復の後は嘔吐した。余裕な様子を崩さなかったエポンも、キスの直後に嘔吐されたせいで涙目になっていた。
傷ついたのだろう。
昨夜に理解したのだが、エポンには意外と可愛いところがある。
感じている顔がとても可愛かった。それをからかえば、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。……さあ、今日もダンジョンポイントを稼ごう。
しかし、昨日の魔力注入によってポイントには余裕がある。
エポンを召喚した後だが、すぐにでも戦力の強化が可能だろう。
「少し召喚できるものを見てみよう」
魔物は毎日のようにチェックしている。
ダンジョンコアから得た知識では、ダンジョンマスターは弱い魔物を大量に呼ぶのがセオリーらしい。あるていど戦力に余裕ができてから、そのダンジョンの目玉となる強い魔物を呼ぶのだ。
だが、擬人化ダンジョンでは、そうもいかない。
ただの魔物ならば放置しても良い。けれども、相手が擬人化した魔物となれば、最低限の福利厚生は保証したいし、色々と手間も必要となってくる。
あと実力が足りなくて、殺されるシーンを見るのがキツい。
ゆえに魔物や罠は、なるべく強力な人を最初から呼びたい。できればゴブリンであるリンクラスは、呼ぶとしてももっと戦力が充実し、守れるようになってからだ。
ふつうは逆なんだけどね。
ゆえに魔物の召喚は気が乗らない。
ただ、ちょっとだけ気になる魔物が数体だけ存在している。一人は
災厄猫キャスパリーグ
必要召喚ポイント8億9400――災厄を呼ぶ勇者殺しの化け猫。その圧倒的な戦闘能力は勇者さえも容易く屠る。気まぐれな生き方をしており、理由なく一国を滅ぼすこともある。理由なく一人の子どものために命を捨てることもある。
ダンジョンマスターの指示さえも聞かない。
また、面白くないと判断した場合、用意にマスターを害するだろう。
この見るからに説明文のヤバい魔物だが……日々、召喚ポイントが変動しているのだ。昨日なんて計測不能だったし、その前日は召喚ポイントが200だった。
また、召喚ポイントではなく「マタタビ十年分」の日もあったりした。
召喚ポイントまで気まぐれらしい。すごい。
ちょっと興味がある。
ただ殺されるのは絶対に嫌なので、まず呼ぶことはないだろう。
それこそいきなり勇者と戦う必要が出てこない限り……なんかフラグが。
他にも気になるのは、アンフェスバエナという魔竜である。この竜は普通に召喚した場合、なんとポイント3億8000ポイントという怪物である。
相当に強力な「双頭竜」なのだろう。
これがなんとバラ売りされている。
前のアンフェスバエナが15000ポイント、後ろのアンフェスバエナが14000ポイント、と個別に購入した場合、なんと超絶にお得となっております。
正直、かなりほしい。
一方で呼び出したら、惨殺された死体だったらどうしよう、とも思っている。身体が半分にちぎれて登場、とかあり得そうで怖い。
罠で注目しているのは、転移罠と召喚罠の二人である。
もしかして転移術の使い手が仲間になるのではなかろうか、とぼくは睨んでいる。
召喚罠も魔物を呼び出し、モンスターハウスを作り出す罠らしく、もしかしたら、この擬人化ダンジョンに「通常の魔物」を徘徊させることができるかもしれない。
まあ、後者の場合、大量の美少女が解き放たれる可能性もあるけど。
と、まあ、魔物と罠ではこんな感じだ。
アイテムもたくさんあるけれども、有用なアイテムはまだ見つかっていない。種類がありすぎるのだ。
ちなみにHPポーションに関してだが、カタログから消滅していた。
おそらくMPポーションのエポンを呼び出した所為だろう。ちょっと焦ったのだが、エポンいわく、
『ボクのレベルが上がれば、そのうちHP回復ポーションも生み出せるよ。極まればエリクサーだって分泌できるだろうね』
とのこと。
だとしたらすごい。エリクサーのポイントは2億である。つまり、エポンはいずれ2億の女になるということだ。
かなりお得だったと言えるだろう。
かわいいし。
「そういえば……その他とアイテムの違いってなんだろう」
その他にもアイテムがぎっしりと陳列されているのだ。洗濯機や冷蔵庫、テレビに漫画、衣服なんてモノも揃えられている。
アイテム欄には銃がないが、その他には銃が存在していた。
「銃はほしい。絶対」
銃の擬人化なんて絶対に強いだろう。この世界には魔法があるらしいけれども、やはり現代日本人としては「銃」の活躍に期待せざるを得ない。
銃刀法違反は異世界に適用されない。
ぼくの予想なのだが、銃娘は指先から銃を乱射するに違いない。レベルがあがれば抜き手と同時に弾丸をぶち込むような戦闘スタイルもやってくれるはずだ。
「今は戦力がほしいし、いくか……拳銃! 意外と安いし!」
なんと拳銃のポイントは200である。
擬人化ダンジョンは「テーマ」状、一度しか呼べないのだが、そうでなければ大量に呼び出していたはずだ。
なおアサルトライフルやロケットランチャーは、かなり高額である。
ぼくは期待に胸を膨らませながら、拳銃を呼び出すことにした。
▽
からん、と冷たい音を立てて、拳銃が地面に転がっていた。
美少女ではない。
どころか女性でさえもなかった。冷たい鋼鉄が転がっている。
「あれ、ぼくの拳銃美少女は? 抜き手散弾は……?」
虚無。呆然と唖然の融合。
しばらく見つめた後、ぼくはある事実に触れた気がした。
「もしかしてその他……その他ってぼくの世界のアイテムなのか? だから、擬人化されないのかもしれない! だとすれば朗報だ!」
さらば拳銃少女。
ぼくは――快適なベッドを手に入れる!
「アイテム欄にもベッドがあったし、その他欄にもベッドがあった。これってそういうことなんだね。ぼくの世界のベッドが手に入るんだ!」
ぼくはすぐに「その他」欄のベッドを一覧した。
たくさんのベッドが並んでいる。中には信じられないほどに高価なベッドもあったけれども、べつに豪勢なベッドは後で買えば良い。
っと、その前に拳銃を見直してみる。
……ある。
一度、召喚したにもかかわらず、「その他」欄には拳銃は残留していた。やはり「その他」欄は複数回呼び出せるようだし、MPポーションの時のように似ているアイテムも選択不可能になる、ということもないらしい。
ぼくはなるべく大きく、安いベッドとマットレス、それから大きい枕を召喚した。
「いやあ良かった。正直、ベッドちゃんを呼ぼうか迷ってたんだよね。絶対に包容力があって良い子だったし、なんだったら『睡眠中回復力上昇』みたいなバフ効果とかあるかなって思ってたけど。普通のベッドが一番だね」
どうやら、ぼくの異世界生活は快適になってくれるらしい。
これ、もしかしたら最高の人生を送れるかもしれない。さっきは漫画もあった。アニメだって観られるかもしれない。ネットだって行けるかも。
興奮してきた。
前世では、痛みで集中して楽しめなかったジャンルを、ぼくはこの世界でゆっくり楽しめるかもしれない。ダンジョンの内装も改善していき、ゆくゆくは美少女たちとゆっくり縁側に座りながら、ライトノベルを読みふけったりできるのだ。
眠くなったら昼寝、リンたちと卓球とかのスポーツも楽しめるだろう。
夢が広がる!
「……この生活、絶対に守らなくては。あと、もっとエポンとキスせねば!」
ガッツポーズをするぼく。
うしろでエポンが顔を朱色に染めながらも、にたりと嗤ったことに気づく。
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