最終楽章・6

 第三地区を超えたところで、近くの建物が大きな音と炎によりはじけ飛んだ。

 僕は衝撃で吹き飛び、耳が無くなったようにすら感じた。

 キインと耳鳴りがしている……それだけしか聞こえない。

「――――――」

 ルインが目の前で大きな口を開けている。

 言葉は、まだ聞き取れない。

 ぼんやりとする。

 僕は、何とか「大丈夫」と言った。

 背中をぶつけたみたい。痛い。それ以外は、なんとか無事のようだ。

「大丈夫か……耳や骨は」

「……なんとか……」

 ルインの言葉が聞こえるようになってきた。聴力は徐々に回復していく。

 また少し先の方で、ドオンという音がする。

「何が起きたの?」

「爆弾だ。あの機巧カラクリたちが今、爆弾を落とした」

「アレが……」

 僕は、心臓が張り裂ける思いだった。

 使う人間が間違いを犯すとこうなるのだと、強く理解した。

 痛みを伴って。


「今後、世界はそういう戦争になっていくのさ。誰かが空飛ぶ機巧に乗って、他国の空を飛ぶ。そこで誰を何人殺したかなんて知ることもなく、大勢の人間を殺すんだ。爆弾で」

「どうにか、しないと」

 僕は立ち上がる。

 だが、どうやって。

 今や、どうにもできることはない。

 


 その時、天から声が降り注ぐ。

『我が名は、オクターブ』

 彼女の声がした。

 

 母と一つになったエイトは、中身をオクターブの思うままにされているようだ。

 彼女の声は、続く。

『我の行動を妨げるもの、うるさい羽虫、直ちに去れ。さもなくば、我の歌が葬送曲となるであろう』

 彼女からの警告であった。

 だが、宙を飛び交う彼らには、宣戦布告のように聞こえただろう。


 次々に塔の方に機首を向ける。

「――」

 風を切る音がした。

 下から見上げているだけでも、完全に理解した。

 塔の中心から、発せられたものだと。

 声は、空気を振るわせる。

 それが今見えるほどに、光すら歪ませるほどに分厚い波が空をかけていった。


 音が一機の飛行機に到達すると、その機体の下にまだセットされていた爆弾が一度に炸裂する。飛行機の半分以上が消失し、ほぼ操縦席のみとなった機体は、もはや重力に負けて落ちていくことしかできなかった。

 それを見て、何機もが無理な方向転換を試みる。

 急すぎる方向転換に機体が耐え切れず壊れるものが三機、音の波に飲み込まれたものが四機、何とか方向は変えられたが制御不能に陥ったものが二機……空には一機がやっと飛んでいるだけになってしまった。

 その機体の主は、勇猛果敢な者のようだった。

 他の機体が地上に消えて行ってもなお、まだ戦う意思を見せた。

 

 機体が僕らの上を通り過ぎる。

 カチリと機体から音がして、爆弾が落とされる。それは慣性と重力で、落ちながらも進み、真鍮色のステージの上へと落下していく。中心にかすかに立つ影が再び「――」と叫んだ。


 爆弾は、遥か上空で炸裂。

 爆風すらも、かき消された。


『その戦意には、敬意を表す』

 オクターブは、歌う。

『これが葬送曲だ』

 ――。

 風のような音だ。

 荒々しくもあり、静かであり、暖かく、寒々しく、儚げで、

 轟くように、包み込むように、吹き付け、吹きすさぶ。

 音はまっすぐに、旋回する一台の機影を捉えた。

 声がまっすぐ進み、撃ち落としたように見えた。

 音が見えるはずはないのに。


 だが、その後飛んでいた機体――飛行機は、まるで叩き落とされた羽虫のようにふらふらと落ちていく。

 徐々に高度を下げながら、街の影へと消えていった。

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