最終楽章・5

 僕らが外に出るのと時を同じくして、地面が揺れ始めた。

 何が起こっているのかを理解するよりも先に、目の前の光景に変化が起こる。

「塔が……開いていく」

 今までは開いたとしても、先端が少し分かれるだけだった。

 だが、今起きているのは違う。

 塔は根元まで割け、四枚の羽根は花弁のように開いていく。

 

 塔の羽根は、四方へと倒れながら扇のように横に広がり、高い建物を根こそぎ押しつぶし、街を壊していく。第一地区の高い建物、もちろん一番高いデガルドの会社は真っ先に、塔の餌食となり、他のロープウェイ駅共々破壊されていった。

「これが崩壊……?」

 ルインは、呟いた。

 僕も息を飲む。

 

 何が起きているのか、理解や常識なんてものは通じない。

 世界が壊れていく。

 

 

 突如、サイレンが鳴った。

「塔だけじゃないみたいだな」

 ルインは、理解しているようだった。

「なに? どういうこと?」

「クリナエジスとやり取りの中で、何か飛行物体がこちらに向かってきた場合、対岸からサイレンが響くことになっていると聞いた。恐らくそれだ」

「つまり、戦争も始まったの?」

「というか、こちらが何かしようとしてるんじゃないかと思ったんじゃないか?」

「……そうかも」

 突然見えていた塔が無くなったら、何かしていたと思われるのも仕方ない。

 

 すぐに東の空に黒い影が見えた。

 銀色の胴体に、鋭い羽根のついた機巧。

 飛んできた十機は、塔の上に来ると、緩やかに旋回を始めた。

 僕も念願の飛行する機巧に、見入ってしまう。僕が作ったわけではないというのが、かなり腹立たしくはあるが。それぞれの機体は、本体の下に何かをくっつけている。黒い、楕円のようなものがいくつか見えた。

 上空の飛行物体は、どうしたものかと思案しているかのようにまだ上をぐるぐると回り続けていた。

 

 ルインは、僕の肩を叩く。

「まずは家まで行こう。大切なものを、運び出しておかないと」

「そうだね。もしかすると、すでにつぶれているかもしれないけど」

「大丈夫さ。根拠はないが」

 近くにあった『ラックス』を引き、僕とルインは家に急いだ。

 街の中は、大混乱の最中にあった。誰もここまでのことになるとは、思っていなかったのだろう。ロープウェイのターミナルがあったモンペリオ・カンパニーのビルが崩落したため、ゴンドラが途中の道の上に落下している。

 少し通勤時間よりも早かったが、中には乗客がいたようだ。

 

 窓が赤く汚れていて、とても中を見ることができない。

 惨たらしい状況だった。

 街中で悲鳴が上がっている。

 一部の男たちは、これも今までのデガルドの専横によるものだと決めつけ、まともな思考もなく、声を荒げている。世界は一変した。

「急ごう」

 僕はルインの言葉にうなずいた。

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