Prelude

 

 地面が大きくひび割れ、蒸気が噴き出す。

 金属管パイプ工場やレンガの家々、ロープウェイを支えていた柱が次々倒れ、壊れていく。

 街の崩壊。

 何百年とこの地の上で発展してきた世界は、今日突然に壊れ始めた。

 壊れていく街の空を、黒い機影が通り過ぎる。地上に爆弾を落としながら――。

 あちこちで次々に爆弾がさく裂する。

 火の手が上がり、燃え広がり、街は炭に変わる。


 もしかするとこの出来事は、初めから決まっていたのかもしれない。そうなるように、誰かによって。誰か――それが誰なのかは、もう僕にはわかっている。


『彼』が何もかもを作り上げたんだから。


 ありとあらゆるものを、自らの手で作り上げた。

 世界のすべては、そんな計算のうちに成り立っている。

 僕が何をするのかさえ「あの人」の計算の、それも小さな紙片の一部に収まっていて、世界中の人々の動きは結局のところ、ひたすらに長い計算式の中の数字に他ならず、解を出すために消費され続ける。だが、計算式はいずれどこかで、確実に終わりを迎えるものだ。

 証明終了、とでもいうかのように。



 また、飛行機が通り過ぎる。

 風を切る音がして、そらからまた爆弾の雨。この世の地獄だ。

 僕は、逃げ惑う人の波をかき分けて、走っている。

 目指すは、始まりの地――『金属塔』がゆっくりと姿を変えていく。

 塔を成すねじれた四枚の帯が開いていき、まるで花弁のように花を咲かせた。塔の中心部に一つの影が見える。そこに一人立つ姿は、大舞台の上に舞い降りた歌姫。


『彼女』は、そこにいた。


 僕は、そこに向かって走り続ける。

 塔の中心、真鍮色の舞台の上へ。

 どうしても『彼女』を止める。

 彼女が世界に答えを出すのを止める。



 そして、彼女の口が動き――――

 させない。

 そんなことは、させない。

 走り出す。どうにかなることを願い、叫び、駆ける。

 

 

 どうか間に合ってくれ。

 世界が滅びる前に。

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