第11話:青の交流。言わなきゃわかんないこともあったりなかったり
時はめぐり11月下旬。
チラホラと冬の気配を感じながら歩く通学路は今日も人でごった返している。当然か、だって今は登校時間だし。
はぁ、学校行きたくない。友だちいないし、勉強だってつまんないし。できることならイラストの勉強だけを無限にしてたい。両親に無理言って一人暮らしさせてもらってる手前、これからまた無理言って芸術路線の大学に行きたいって言ったら、どんなに怒られることやら。
「チラッ」
手が空いたので初冬の風に震えながらもスマホを開く。お目当てはツブヤイターの通知欄だ。
「……へへっ、伸びてる」
昨日手癖で描いた今季一番人気アニメのキャライラストが結構伸びてて、つい口元がニヤニヤと緩んでしまう。落書きといえば聞こえは悪いが、普段よりも工程を数カ所抜いて楽して稼げるいいねはね、とてつもなく承認欲求が満たされるのだ。
ま、それに比べて普段の数時間かけて完成させたイラストはそんなに伸びないんですがね。
オリジナルになると途端に増えなくなるんだよなぁ。それに音瑠香のイラストだと特に。何が悪いんだろう。落書きに負ける音瑠香のイラストが軽くショックなんだよなぁ。
「いつも通りオキテさんと露草さんからはいいねと拡散があるのになぁ」
露草さんはともかく、オキテさんもとにかくわたしに、音瑠香に絡もうとしてくる。そのおかげなのか、登録者ももうすぐで70人に行きそうというレベルまで来た。もちろんあっちはもう300人超えてるんですけども。
嫉妬心と自己肯定感と。それから諸々複雑な理由で、リアルではなんとなく距離を取っているところだ。
そういえば露草さんも最近はそんなに配信に顔をだすことがなくなった。
いつもは毎回配信に来てたのに、今では3回に1度ぐらいしか配信コメント欄に現れない。代わりにアーカイブにコメントを残してくれているから、嬉しいは嬉しいんだけど……。
「推し変したのかなぁ」
嫌だな。あんだけ熱心だった露草さんが、わたしなんかよりも熱中できる相手を見つけて推し変しちゃうのは。
あ、いやいや。Vtuberはわたしだけじゃないんだから、もちろん露草さんの好きにしていただいて構わないとは思う。思うんだけど、それはそれとしてこう。わたしだけ見ていてほしいっていうか。うーーーーん!
まさに自己を嫌悪している最中だった。後ろから太陽みたいなギャルギャルしい声がかかる。
「おはよ、青原!」
「あっ、おはよぅ……。ございます」
あのギャルだ。またの名をオキテさん。
もちろん他に本名があるってのは知ってるけど、本名を知らないんだから例のギャルとしか呼べないのである。
何度か名前を聞かなきゃと思っても、相手は自分の名前を知ってて当然だと思ってそうだし。まぁ聞けるわけないよねって。
「いやー、寒くない? 今日思わずランニングサボっちゃったよ!」
「あ、そうなんですね……」
そりゃそうだ。だって寒いもん。
加えて朝田世配信ということで、朝の30分に雑談配信までする活動意欲。オキテさんのリアルアバターちゃんだって、たまには身体を休みたいと思っているはずだ。
……ホントに思ってる?
「青原は朝は普段何してんの?」
「え……」
言いたくないんですが。
でも視界の横から覗き込むようにしてこちらを見上げてるギャルの姿を見たら、ちょっとうっ! ってたじろぐでしょ。顔がいいんだからそういうことしないでほしい。わたしが男だったら今ので簡単に勘違いしてるって。
まぁ、言わないといけなさそうな空気になってるし、当たり障りのないことをふわっと口にしよう。
「えーっと……。ご飯食べたり、歯磨いたり」
「普通じゃん! Vの挨拶見て回ったりしないの?」
「……まぁ。してますけど」
「ほらー、してんじゃん! オタクってそういうことすぐ隠すよねー」
だって相手は陽キャですし!!
一瞬悩んだよ。一応Vtuberだから挨拶回りとかしてるし、自分からも挨拶してる。でもそれはいいねだけで、おはよう! って声かけたりもしない。でも見て回るってことはVtuberじゃないリスナーとかでもできるわけで。じゃあいいよね、肯定しても。
という考えが1秒間に5回ぐらい繰り返されただけで、隠してるとかそういうのじゃないですし。
「あたしらはもうVオタ同士なんだからそのぐらいよくない?」
「そ、そうですけども……」
Vオタだからって、リアルの身分差が同じかと言われたらそうじゃないじゃないですか。
ネットの中でもフォロワー数の多い少ないで変わってくるのに、それに加えて顔や性格も重視されるリアルに自分の情報を出したくないっていうか。
でもそんなことを否定することなんて、陰キャのわたしにはできるわけがなくて。
今日も引っ込んでいきますよ! 引っ込み思案なので!
「なーんか壁感じるんだよなー」
そりゃ心のATフィールド、いつもMAXにしてますからね!
さっきと同じ手口で視界の端からジト目で覗き込んだってバラしはしないですよ。一度見た技は通じない強者の戦術を舐めるな。
「あ! そういえばあたしの配信見てくれた?」
「まぁ、一応は……」
配信が被ってない日は、だけど。
「どうだった?」
「……まぁ、かわいかったですよ?」
「なんでちょっとあたしに伺いを立てる感じになってるのさ」
だって怖いし。かわいいって言ったら殺されるかも。
「でもよかったー! あたしは推しだけじゃなくて、あんたにも見てもらいたいからさ!」
「そ、そうなんですね……」
い、今のちょっとぐっと来た!
にたっ! って夏場のプールとか海辺で似合いそうな可愛らしくて太陽みたいな笑顔。それからのわたしも気にしてくれているっていうオタクが勘違いしそうなシチュエーション!
ドキッと、心のATフィールドさんも揺らいじゃったよね。いけないいけない。わたしはまだ冷静。冷静なんだ。自分を出すな出すな。
「聞けてよかったなー! 心のメーター振り切りそう!」
「推しじゃなくていいんですか?」
「んー? まぁ。音瑠香ちゃんはあたしに対しては塩っぽくてさー! でも声が似てる青原がその言葉を言ってくれてちょっと満足っていうか!」
「…………うん」
「ん? どしたん、急に反応悪くなるじゃん」
待って。今まで聞いたことなかったんですけど。
いや、でも。考えてみたらオキテさんが毎朝絡んでくるのって、音瑠香であって。オキテさんが絡んでくる理由が推しだからってことなら……。
「あっ! えっと。なんでもないです!!」
「あーちょっと!!」
は、はぁ?! 今まで気づかなかったけど。
もしかしてあのギャルの推しって、わたしなの?!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます