第10話:青の確信。やっぱりあいつじゃん!
わたしの習慣は朝早く学校に来て、自分のアーカイブを見ることだ。
でも今日に関してはそういうのは一旦おいておこうと思う。何故なら理由は目の前にあるからだ。
「おはよー!」
「うーす! つゆおはー」
うん、改めて聞けば聞くほど昨日、朝田世オキテさんの配信で聞いたギャルギャルしい声だ。画面の中で聞いためちゃめちゃかわいい声なのに、見た目なのに、なんであなたなんだよ、例のギャルーーーー!!!
心の中で悲鳴がとてつもなく響き渡る。あー、なんでこの人なんだ。もしかしたら仲良くなれるかも、なんて思っていたオキテさんがリアルで苦手視してるギャル。何の罰ゲームだこれは。
と言うかまぁ。当然だけど、リアルのオキテさん(リアルの名前知らない)もかわいいっていうか、ちゃんとメイクとかスキンケアとかしてるんだろうなぁ。胸が大きい割には手足はほっそりしてるし。何食べたらそんな健康優良児になれるんだか。
とか考えていたら、その思考を読まれたのか声が出てたのか、オキテさんがこちらを見る。目と目があってしまった。すぐさま視線をそらすけど、そんなのお構いなしにオキテさんはこちらに向かってくる。やめてくれー、だから闇は光に弱いんだってー!
「よっす青原! おはよ!」
「おっ。おはよぅ……」
「どしたん、あたしの方見て」
どしたん、ないよ。わたしが友だちだと思ってた人がまさか同じクラスのギャルだなんて思わないでしょ。
そんなギャルに対してあれやこれや考えてたのが、めちゃくちゃバカらしくて、同時にどうしようもない現実ってやつを見せつけられてヘコんでたんだよ。陰キャはコミュ力なくて、陽キャはコミュ強でどんなところでも人気になれるってことぐらい、わたしだって知ってたんだから。
「別に。なんでもないです」
「なんでもないってことはなくない?」
「いや、本当に大丈夫ですから……」
「ふーん、そっか」
ふー、なんとか誤魔化せたかな? ギャルの追求とか怖すぎて、心臓バックバクで声もなんとなく震えていた気がする。というかいつも震えてるよね、わたし。
「あっ! そうだ、見て見て!」
と、彼女は目を合わせた理由などどこかへ忘れて、わたしの肩を抱き寄せる。
へっ?! 何っ?! ど、どういうこと?!
抱き寄せた先にあるのは、彼女が持っているやたらキラキラしたスマホの画面と陽キャの整った顔。
えっ、顔近っ?! 良っ! すごくその。女の子らしい、いい匂いがするし、肌だって柔らかい。視線は思わず太陽のように大きくて真っ赤な瞳へと移り変わる。吸い込まれるような目が印象的だし、すごいキラキラしてる。
「な、何をっ?!」
「あ、ごめんごめん! いや、青原に見せたくってさ!
「え?」
「これよこれこれ! この子、あたしなんだよね!」
と。見せてきたのは朝田世オキテのツブヤイターアカウント。しかも自分にしか見えない編集ボタンも表示されている。
あー、そう来たかぁ……。
「もしかして、Vtuberってこと、ですか?」
「そうそう! ちょうど昨日初配信したんだー! 見てよ、あたしの身体! よくない?!」
「あっ。あー、いいですねぇ……」
あー、まぁうん。わたしの最推しイラストレーターが描いた超美麗モデルだし当たり前に顔はいいっていうか。改めて見たらリアルと結構似てるなぁ。
「へへっ! 白雪にか先生って言ってね? あ、知ってる? 最近売り出したてのイラストレーターさんでね! あたしの推しも好きって言ってたからモデル頼んだんだー!」
「へ、へー……」
いや、行動力の化身すぎでは?
にか先生は確かに売り出し中とは言ってても、仕事はあんまりないみたいなことを一度口にしてた気がするし、モデルを頼んでもOKサインは出るよね。
オキテさんの初配信見てて思ったけど、モデリングもわたしの数倍上行ってて、流石にか先生だなって後方腕組彼氏ヅラしてたもん。
「あ、ごめんね! なんか急に変なこと口にしちゃって!」
「ぃや、全然いいんですけど。……その、ちかい」
「あっ、そっちはマジでごめん! 今から離れるから!」
謝罪とともにいい匂いが少し濃くなって薄くなる。肩組みから感じていた体温が離れていく。気付けば真向かいに座っていた彼女が、さらに追撃と言わんばかりにYItubeの画面を見せてきた。
今度は自分の初配信の画面みたいだ。
「見て見て! こんな感じに動くんだー!」
「やっぱすごいですね」
「でしょー! にか先生に頼んで正解だったーって感じ!」
わたしも頼みたかったよ!!!
でもお高いと言いますか。Vtuberのモデルって基本的に数万円かかることが多いから、自然と自分で描いた方がいいって結論に至っちゃうんだよね。
もちろん自分で描いたモデルを動かしたいって気持ちも当然あったけど。
「それにあたしの推しも行くーって言ってくれて、最後の最後にコメントしてくれてさ! めっちゃ嬉しかったもん! Vtuberになってよかったよマジで!」
「へ、へぇー……」
まぁ確かに行くとは言ったし、最後にコメントもしたけど……。
……ん? なんでわたしがオキテさんにしたことを知ってるの? いや、向こうはわたしのことなんて知らないわけだし。そもそも初配信行くって言ってた人も結構いたわけだし。最後までROMってた人もわたし以外にいた。
自意識過剰かもしれないけど、オキテさんの推しってわたしのことじゃないよな? ははは、まさか。
「今度見てみて! そしたらあたしのことも推しにしてもいいからさ! じゃね!」
「う、うん……」
ま、まぁ。確かに気になってない、と言われたら嘘だった。
当然のように朝の挨拶は飛んでくるし、わたしのくだらないツイートにも律儀に反応してくる。そんな中で当然思い浮かんだのは出会い系のVtuberなわけで。
でも中身が男というわけでもなく、本当はクラスメイトのギャルだったわけで。
名前すら覚えてないギャルだけど、気になる。推し事に一生懸命だし、それが功を奏したのかきっちりデビューして、登録者100人も当然のように突破して。あー、これが陽キャかって敗北感も感じて。
もう、なんというかめちゃくちゃだ。わたしの周りも、心情も。いろんなものを壊されて、何もかもが変わってしまうような感覚。
――でも。
今の、変わらない私の環境も壊してくれるのかな、って考えたら少しだけワクワクした。
今度は、ちゃんと名前を聞かなきゃなぁ。
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