第9話:青の応援。意外ッ!それはギャル!

:秋達 音瑠香@セルフ受肉Vtuber

今日はわたしの友だちの初配信見るから、配信はその後ね

【URL】


「…………はぁ」


 友だちだなんて、思い切りすぎたかな。

 ハッキリ言ってオキテさんとわたしの間柄はいつも挨拶してくれたり、声をかけてくれたりする程度で、友だちだなんて言えるものではないと思う。

 でも少なくともVtuberとしては言える。広く浅くを友だちを増やしていかないと登録者数なんて増えないし。だからそういう薄っぺらい中での友だちとしては言えるんだ。


 じゃあリアルでは?

 そう言われたときに、あのギャルの顔がチラつく。


「あの人は友だちじゃないっていうか、そもそも名前も知らないし」


 赤城? さんだった気がするけど、わたしとは関わりがないと思って情報を遮断してたからあのギャル、としか覚えてないんだよなぁ。

 そういえば、あのギャルもVtuberデビューするみたいなことを言ってたっけ。陽キャだから簡単に友だちとか増やして、あたしのチャンネル登録者数なんてすぐに追い越していくんだろうなぁ……。


「今はそうじゃないや。とりあえずオキテさんの配信見なきゃ」


 どうやら配信が始まったようだ。

 配信待機画面でオキテさんがベッドから起き上がるドット絵が繰り返し表示されている。

 うわ、かわよ。力入れ過ぎでは?! ほらもう登録者50人行ってるし! やばー、まだ声出てないのに、すごいなぁ……。

 でもなんかどっかで見たことあるような顔なんだよなぁ。日常的に見ているような見た目のような気が……。にか先生が描いたモデルのときも、どこか既視感を感じていたんだけど……。なんだろう、この嫌な予感めいたものは。

 次の瞬間、待機画面がフェードアウトして、配信画面に移り変わる。とても笑顔じゃんか。かわいーーー。にか先生が描いたモデルで笑顔だなんて、くっそかわいいじゃん!!


『おきてーーーー!!! 朝だよーーーー!!! バーチャル目覚ましギャルの朝田世オキテだよ! 今日はあたしの初配信に来てくれて、ありがとね!』

「……はぁああああ?!!!!」


 嫌な予感は的中するものだ。

 いつも朝に聞こえる無駄に明るくて、それでいてギャルギャルしているやたらと耳の中に響く可愛らしい声。オキテさんのモデルで数割ぐらい頭がバグってるけど、それ以上に困惑してる。


「あのギャルが、オキテさんだったのぉ?!!!」


 声を聞けば分かる。というか、わたしに話しかけてくるリアルの相手自体があのギャルしかいないんだけどさぁ! そいつがなんでVtuberなんかやってるんだよ!!!


:初見

:初見です

:ツブヤイターでお世話になってます!

:かわいい!!

:エッド


『えへへ、ありがとーーー!! みんなおはおはー! オキテだよーー!』


 か、かわいい……。

 ギャルが女の子らしく営業セールしてんだからそりゃかわいいに決まってるんだけどさ。リアルのあの姿がちらついて……。ってよく見たらサイドテールかツーサイドアップかの違いで、めちゃくちゃ顔似てるじゃん?! なに、写真でも送ったの?!!


『じゃあ自己紹介するねー! あたしは朝田世オキテ! バーチャル目覚ましギャルのオキテだよー!』


:ギャル……っ!

:オキテちゃんかわいい! フォローしました

:朝は、ちょっと……

:朝だよ起きてーーーーーーーーー!!!!! 見て! すごい朝!!


『あー! フォローありがとう! こら、朝はちゃんと起きないと健康になれないんだぞー!』


 ま、眩しい!! これがVtuberの、ギャルの配信だとでも言うのか?!

 いや、だってわたしの配信なんか「……うん。…………よし。……あ、露草さん来てくれてありがとう」ぐらいしか言わないんだぞ?! これは伸びるなぁ……。天地の差だこれは……。

 それから数十分。自己紹介なり、今後の方針、オキテさんの配信特有の挨拶などをまとめていく。うわー、ちゃんとしてるなー。わたしの初配信なんか本当に何もしてなかった気がする。何したっけ。普通にゲームしてた気がするなぁ……。本当はこういうことすべきだったんだろうな。


『いやー! 緊張してたけど、みんなのおかげで楽しく配信できたよー!』


:よかった!

:オキテちゃんがかわいいからだよ!

:これからよろしく!

:フォローしました


 みんなのおかげ、か。これだけのリスナーが来てくれたら、確かにみんなのおかげって言えるよね。はぁ……。あー、卑屈になっちゃうなぁ。やめやめ、これ以上考えたら絶対損するって決まってるのに……。

 人と比べてはいけない。特にVtuberについては。

 Vtuberは明確に数という形で人気の有無が決まってしまう。だから否が応でも目の前のギャルとの、オキテさんとの数を比較して絶望する。もうすぐチャンネル登録者数は100人を超えそうなほど。これだけ行けば個人Vtuberとしては人気者と言ってもいい。

 無の状態から誰かを振り向かせるってことは、それだけ難しいから。


「コメントだけして寝よ」


 なんてコメントしよう。こんなどん底の気持ちじゃ明るく振る舞うことなんてできなさそうだ。

 元々明るくもないし、じゃあ最後の方にお疲れさまでした、とだけ書いておこう。そうすれば後腐れないだろうし。


『じゃあー、今後の予定はぼちぼちのんびり決めるねー! そんな感じで、今日もおやすみーーー!!』


:おやすみー!

:おつしたー!

:おつかれー!!

秋達音瑠香:お疲れ様でした

:お疲れさまー!


『えっ?! ちょっまっ!!』


 オキテさんがそんな驚きに満ちた声を上げた後、配信がブツリと切れてしまった。

 え、なに。なんか調子が悪いことでも……? ちょっと心配だけど、まぁ。あのギャルとは友だちでも何でもないし。寝よーっと。


 ……それにしても。


「配信始めに起きて! 終わりにおやすみ、か。なんかいいなぁ、そういうの」


 いつも「こんねる」「おつねる」と寝ることばかりしか考えていないわたしだったが、思い切って「こんおき」とかに……。


「いやいやないない! 途中で挨拶変えるとか、ないない……」


 挨拶1つで人気度も上がればいいのになぁ。

 パソコンをシャットダウンすると、わたしは少しひんやりとした布団に潜って、目を閉じるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る