第7話:赤の準備。新装備は試したくなる

「はー、今日の音瑠香ちゃんもかわいかったなー……」


 普通猫ゲーだからって、実際に猫耳のサムネ作ってくる人なんています? いませんよねぇ?! やっぱそういう努力家らしいところもまた音瑠香ちゃんの魅力なんだよなー!

 配信を見終えたあと、あたしはあたしでやることがあった。通話アプリをダウンロードしてから、相手の反応を見る。あたしがログインしたところを見たのか、瞬時に反応が返ってきた。


「白雪にか先生、どんな人なんだろ」


 大まかなモデリングの作業が完了したことと、あたしがまだパソコンに慣れていないこともあり、今日はモデリングの調整を1から手伝ってくれるらしい。なんというアフターケアサービス。音瑠香ちゃんじゃないけど、この人の事はもっといろんな人が見てていいはずだ。イラストとかもすごく可愛かったしね。

 えーっと。マイクを付けて、通話状態に入るっと。


「もしもし、聞こえますかー?」

『聞こえるよー。初めましてぇ、白雪にかって言います』


 あ、なんかゆるふわなお姉さんみたいな声が出てきた。かわいい。

 もっとオタクオタクしい声だと思ってたし、なんだったら直前まで男性の可能性もあったわけで。そういう意味では結構関わりやすい、かも?


「初めましてー! 朝田世オキテです!」

『んー、初めてだけど一言言ってもいい?』


 え、あたしなんかやばいことしました?!

 恐る恐る聞いてみると、電波の向こう側でまるでニヤッと笑ったような表情まで見えた気がした。


『オキテちゃん、可愛い声してるねぇ!』

「あっ、どもっす……」

『なんていうんだろぉ。ギャルギャルしてるっていうか、Vモデルの姿とシンパシー感じちゃうっていうかー。すごいね、ボク周りにこんなかわいい声の子いたことないから、ちょっと興奮してるー』


 初手ですんごい褒められた。

 さらに興奮しているとまで言われたし、実はこの人、想像しているよりもずっとゆるいのでは?

 まっ! そんなところもかわいいってことで。ほら、アイコンも縁がピカピカ光ってかわいいし!


「ありがとうございます!」

『じゃあお仕事の方に入ろっか。まずオキテちゃんはPunkの登録ってしてる?』

「言われたとおりにやっておきました!」


 Punkとは、PCゲーム販売サイトであり、コンシューマーで出ているようなゲームはもちろんのことながら、インディーズで発売しているマイナーなゲームなどもPCでできるようにサポートしてくれているゲーマーなら登録しておいて当たり前、みたいなサイトだ。

 そこでゲームと同じような感覚でソフトウェアも販売していたりする。その1つがVすたである。

 VすたはVtuberの身体を動かすのに必要なソフト。まずこれをインストールして、と言われたのでダウンロードしてからパソコンに入れる。

 さらににか先生から出来上がったモデルをVすたに挿入。これで簡単にだけど、Vtuberとしてのアバターが動くようになったらしい。


『あとはアバターのところからボクが作ったモデルのファイル名があるから、それをクリックしてー』


 言われたとおりにクリックすると、にか先生が描いてくれたモデルが表示された。

 もちろん事前にどんなモデルになるか立ち絵自体は貰ってたし、これが動くんだ! と思ったらめっちゃワクワクしてたけど、これは……っ!


「すごい! マジで動くじゃん! うわ、マジであたしが向いてる方向に向いてくれる! すげー!!」


 予想以上だった。

 客観的なことを言ってしまえば、音瑠香ちゃんのそれよりとても動く。

 右を向けば大体耳が見えるぐらいまでは動くし、左も同じく。下を向けばうつむいてくれるし、上を見たら目線もそれに合わせて動く。何より髪の毛が、めっちゃ揺れる!!

 ちょっと子供っぽいかなと思ったツーサイドアップだけど、左右に顔を揺らせばリアルのそれのようにしなやかに、それでいて美しく動いてくれる。今のモデルって、こんなに動くんだ……!


『ふふふ、喜んでくれて嬉しいなぁ』

「これすごいよ! マジヤバイ! 先生ありがとう!!」

『いいんだよぉ、超特急でって言われたときは少しびっくりしたけど、その分上乗せしてくれたからねぇ』


 これは見てて飽きない。太陽の髪飾りも揺れるし、おぉ! おっぱいもめっちゃ動く。タップタプじゃん。


『じゃあ続けてモデルの調整していくねぇ』


 あとは細かい調整などをいくつか行っていく。

 キーバインドと呼ばれる、特定のボタンを押下することで表情が変わる機能もあるらしいが、その辺はにか先生がパソコンに慣れていないあたしのためにオミットしてくれたらしい。

 代わりに表情を認知してくれれば、そのとおりに動いてくれるんだとか。すっごい。にか先生すっごい。


『試しに笑ってみて』

「こうですか?」

『うん、大丈夫そう。オキテちゃん、普段から表情筋は鍛えてるみたいだねぇ』

「ヒョウジョウキン……? そ、そっすね」


 イマイチピンとこない単語だったので、とりあえず肯定しておいた。あとで調べておこっと。

 後はびっくりしたり、悲しんだり。この辺も問題なくクリアしている。すごいなぁ、あたしの知らない技術がこんなにもびっしり詰まってるとか。これがイラストレーターのチカラってやつなのか!


『うんうん。調整もだいぶ整ってきたみたいだし、ほぼ干渉もなさそうかな。よし、あとで最終調整版をここに上げるから、それで完了だよぉ』

「あ、ありがとうございます! これでやっと音瑠香ちゃんと同じ場所に立てる……っ!」

『音瑠香ちゃん? って、よくツブヤイターで言ってる子?』

「そう! 音瑠香ちゃんもVtuberなんだけど、今回も音瑠香ちゃんが好きだって言うのでにか先生にお願いして、気を引こうと思ってて! あ、なんかこれじゃあキモいですかね?」


 流石に自分の行動力があまりにも音瑠香ちゃん寄りに走りすぎているのは分かっている。

 けど、一刻も早く音瑠香ちゃんの友だち、っていうか支えられるような人になりたいっていうか。人間、1人じゃ生きていけないように、Vtuberだって1人じゃ生きていけないと思う。同じ土俵に立って、支えてあげられたらなー、なんて思ってた。

 予想以上にキモい真似はしてるけど。


『まぁ、あんまり表に出さなければいいんじゃないかなぁ。誰だって邪な動機がないわけじゃないんだから』

「例えば、どんなのですか?」

『出会い系、とか』

「うわ」


 それはマジで勘弁してほしい。自分で言うのもあれだけど、このオキテのモデルは結構男ウケしそうな見た目だ。そういうのが近づいて来ないとも限らない。


『だから気をつけてねぇ、自分に対しても。その音瑠香ちゃんって子に対してもぉ』

「はい! 肝に銘じておきます!」

『あっ、それと。この際だからその音瑠香ちゃんのチャンネルも教えてほしいなぁ』

「マジすか?! えっと、まずこれがYItubeのチャンネルで、こっちがツブヤイターのチャンネル。あとあとこっちがイラスト投稿サイトのアカウントで――」


 そんな感じで夜が更けていった。

 デビューまではもうすぐだ。あとは告知とサムネ。それから配信画面の準備かな。

 やることはたくさんだけど、音瑠香ちゃんのために、頑張るぞー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る