第3話:青の疑念。ネカマには気をつけろ!
「だ、誰だお前はーーーーーー!!!!」
思わず普段でないような声が出てしまった。そのせいで喉が少しヒリヒリする。
それにしても、にか先生のビジュアルの2Dモデル……。めちゃくちゃいい……。なにこれなんで一番最初のフォローがわたしなのか分からないけど、最高に可愛いということは分かる。
あぁーーーーーーーわたしがこの子の中に入れたらなぁーーーーー!!!
って、中身が地味すぎるから、この見た目に当てはまらなさすぎる……。およよ、人の人格はそう簡単には変えられないのだ……。
まぁいいや。とりあえず挨拶しておこ。
:秋達 音瑠香@セルフ受肉Vtuber
オキテさん、初めまして
フォローありがとうございます
これからよろしくお願いいたします
ふぅ、こんなもんでいいか。
あんまりグイグイ行っても嫌われるだけだし。そうそう。わたしは先輩Vtuberさんなのだ。それが例えわたしの最推しイラストレーターが描いてくださった立ち絵が羨ましくとも、超べらぼうにかわいくても! そんな感情を表には出してはいけないのだよ。ふふーふ。
これが、先輩Vtuberの! 余裕! ってやつ!!!!!
:朝田世 オキテ@Vtuber準備中
音瑠香ちゃん、ありがとう!!
やっぱ音瑠香ちゃんはかわいいね!
これからもよろしく!!!
な、何だこの人……。明らかにわたしを意識したような返事な気がする。
気のせいかな。まるでわたしを元々知っている人がVtuberになったかのような言い方。
まっ、気のせいだよね。今まで友だちなんて出来たことなかったし。少なくとも高校では……。うぐぅ……。
胃が縮まる。なんというか、わたしってイラスト特化女なんだなって……。はぁ。もっと歌とかプレイヤースキルとかできるようになればいいんだろうか。
まぁいいや。そろそろ時間だし学校に行こうっと。
◇
それから数日が経過したところ。オキテさんにはたくさんフォローが増えて、今やわたしの約4倍の1300人。元々にか先生の人気もさることながら、本人の行動力もすごい。フォローを返してくれたら挨拶して、仲良くなったらよく絡む。これだけで基本陰キャのVtuberたちなんか一目惚れだ。
これなら配信スタートしたら、わたしの登録数なんてすぐに追い越されてしまうんだろうな。
先輩Vtuberのよくあることだ。わたしより遅く始めた子たちがみんな遠くへ行ってしまう。そう、よくあることなんだ。それを後ろから見ながら、わたしはこうつぶやく。頑張ったねぇ……。って。
「でもつらいなぁ」
実際に声に出すぐらいは許されるだろう。ツブヤイターに呟いたら、心配のツイートとみなされてしまう。そんなの構ってちゃんみたいでわたしは嫌だ。だからそういう自制心は強い方。
「それにしても、オキテさん。わたし以外には普通だなぁ……」
フォローを返したら初めましての挨拶をするけれど、わたしよりも露骨に距離が遠い。
かと思えばわたしが朝の挨拶をすると、必ず返事をしてくる。他はマチマチだ。
明らかにわたしに対するリアクションが多すぎる気がする。なに、わたしの事好きなの? ありえないだろうけどさ。
……いや待て。こんな見た目をしてるけど、いざ声を出したら低音のいいボイスとかだったら話が変わってくる。世の中にはバーチャル美少女受肉なんて言葉もある。見た目で装って出会いを求めてくるケースもあるって聞いたし。まだ様子見、かな……。
「でも中身男だとしてもかわいいんだよなー。呟きの端々から感じる女子力……。わたしがゴミに見える……」
朝はランニングが趣味らしく、加工したイラスト調の写真をつぶやきに添付。ネイルやコスメの話をよくする。アニメの話もちょこちょこ呟く。でも私生活はほとんどつぶやかない。場所が特定できたとしたらランニングの時しかない。
すごい。完璧にツブヤイターを使っている。
わたしの「ねむい」や「おきた」とかいう呟きに比べたら、遥かにコンテンツ力が高い……っ! 要するに、眩しい存在ということ。
「だから謎なんだよなぁ……」
気まぐれか? それともリアルの知人か。
いずれにせよ、どうしてわたしに絡みつこうとするのかが全然分からない。真相が闇の中に沈んでいく感覚だ……。
「よっ、青原」
「うぁああああ?!!! お、おはよ……」
「いや草! そんなビビることなくない?」
「ぁ、いや。ちょっと考え事とかしてて……」
そりゃツブヤイター見てたら、背後からの唐突な挨拶。ビビらないわけ無いでしょ、陰キャなんだから。
「考え事って? あたしに言ってみ?」
「いや、関係ないですし……」
「関係なくないじゃん! あたしら友だちなんだからさ!」
……と、友だち? へ? 今さらっとなんと言いました、このギャルは?
き、聞き直そう。もしかしたらわたしの聞き間違いなのかもだし。
「えっと、友だちって言いました?」
「うん、言ったよ。V友だぜー! ぶいぶい~!」
う、うわぁ、距離感ちっかい……。両手でダブルピースを開いたり閉じたりしてる。こんなの男オタクが軽率に恋に落ちるぞ。恐ろしや。最近のギャルの距離の近さ恐ろしや……っ!
友だちだから考え事に乗るって気持ちは分かる。分かるけど、わたしたちそんなに交流したことないでしょ。あと流石にVtuberの身内話なんて聞かせたくない。
でもこのまま引き下がってくれるとも思えない。なんとか誤魔化して、この場を曖昧にするしかないか。
「ぶ、ぶいぶい?」
「ウケる! マジでノッてくれるとか! やっぱノリいいねぇ、青原!」
「そ、そっちが言ったんじゃないですか」
「まぁまぁ! 隣座ってもいい?」
「あっはい」
このギャル完全にしばらく居座るつもりじゃん。ま、まぁ……、覚悟はキメてたからいいけど。
確かこのギャルはどっかの個人Vのリスナーなんだったっけ。じゃあこちらも同じという設定で……。
「最近わたしの推しが言ってたんですけど、自分にだけ態度を変える知り合いがいるって」
「自分にだけ? 他の子には?」
「挨拶とかはするけど、あんまり積極的には関わらないっていうか……」
「ふーん」
いや、間違ってない。だってあのオキテとかいう女、わたしのくっだらない呟きにも律儀に返事してくるし。あと返事の内容が普通に面白いから会話してて楽しいから盛り上がっちゃうのも悪い点だとは思うけど……。ま、まぁ向こうが悪いってことで。
「いいんじゃないの、それは?」
「あっ! いや。その知り合いはネット上の子で、もしかしたらネカマかもってビビっちゃってて」
「あー、あるよねー! 女だと思ったら男の人でしたー、みたいな?」
「そうそう。出会い系はちょっと怖いですからね」
それだけではないけど、グイグイ来る人が居たら気になってしまうのはしょうがない。
元々女性Vtuberで活動しているわけだし、そういうやましい心の持ち主の人が来ないとも限らない。
「じゃあさ、聞いてみたらいいじゃん」
「……へ?」
え、聞く。聞くっ?!!!!
「そしたら教えてくれるかもよ? Vtuberならどうせ最後には声が出るんだしさ!」
「そ、それはそうかも、ですが……」
さすがギャル。行動力が化け物じみていて恐ろしい……。
つまるところ自ら地雷原に突っ込んでこい、ってことだよね。爆発したら終わりだし、何とかするための道具は重たい石1つ……。思わず苦笑いする。
でもそうか。どうせ最後には生声が出るはずだ。だったらそれまでモヤモヤを懐に抱え続けるだけでいい。
「き、聞きはしないですけど、活動開始の初配信は見てみようかと思います」
「うん、それがいいよ!」
一応解決はしたけど、それまでこのオキテさんの猛攻を耐えなきゃいけないわけで。
見た目は本当にかわいいし、つぶやきの中身も女子力高くて、まさに理想の女の子って感じで憧れてしまう。
まっ、なるようになるしかない、か。
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