第4話 キックオフ(4)
監督のどこか心地よく、それでいてどこか腑に落ちない論理で捲し立てられ、ローズは「うっ…」と唸りを漏らすほかに返す言葉がなかった。
結局雇われて下っ端で動かされる立場は、経営を持ち出されると弱い。
すると、柳島 後衛主将の隣にすわる、非情さを感じる目つきをした男が、怒気がこもっているかのような声をあげた。
「それは、とにかく本社は納得しているですよね?」
発言の主である、左ウイングバック
「もちろん、そうだ」と監督がすかさず答えると、「じゃあ、私から特に指摘することはないです」と、尊大な態度をにじませつつドカッと足を組んだ。
その後に、意見を続けるものはいなかった。
白詰はまたなにか言いかけたが、まずは先の話を最後まで聞くことにした。
「このままの得点力である場合、後衛は人員削減もやむえない。」
監督は言葉の途中から、顔を白詰に向け、続けた。
「後衛陣の得点成績データを確認したが、特に問題とわかったのがキーパーだ。もっとも得点獲得数が少なく、コストも高い。」
白詰の足が震えた。ルールもわからないので話の文脈をつかみかねていた華尼拉井だが、深刻な空気は感じ取り、白詰に心配する視線を向けた。
次に、監督はペンで空方向へつついてジェスチャーして続けた。
「上とも後衛財政の現状について相談したところ、ゴールキーパーは特に得点が低いので廃止にしてはどうかと言われた。」
さすがの白詰もここで仰天した。
「そりゃ、自軍のゴール前で構えているのだから当然でしょう」と思わず声がでた。
「そうだな。いままでは当然<だった>。キーパーは、優遇されている。一人だけ手が使えるし、服装も一人だけ長袖に手袋付きと、特別待遇だ。」
監督は厳しい表情で、人差し指をピッとあげて、畳みかけた。
「キーパーの問題は2つある。第一に、手が使えるのは制限が自軍のゴールエリアまでだ。せっかくの武器も射程距離が短く相手ゴールを直接狙えない。宝の持ち腐れだ。」
さらに指をもう一本あげて、
「第二に、ひとり分だけ別の衣装をわざわざ用意しなければならずコストもかかる。キーパー廃止は、戦術面においても財政面においても合理的といえる。」
会議室には凍ったような空気が流れ、最早うつむいて話を聞いていた白詰は「長袖やめて、手袋だけにしますよ」と声を絞りだした。
そんな白詰の様子を心配するローズや華尼拉井であったが、どんな言葉を掛けてよいのかわからなかった。
監督は黙って首をふり、ニヤリと笑った。
「心配するな、これはまだ決定ではない。」
白詰は沈んでいた顎をあげた。
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