第39話 校舎裏の秘密のお宝

「確かに不可解ではあるが、今は“仮面”って奴を助け出すのが先じゃないのか」


 と二号が言った。

 その時、俺はある事を思い出していた。


「それもそうだ。二号の言う通りだ。

 今、思い出したことなんだが、これが入間川高校をそのまま持ってきた物だとしたら…、

 裏から侵入出来るはずだ」


「もしかして、地下一階にある給食室の食材搬入口へ繋がるスロープのこと?」


 俺の考えをパリスが言ってみせた。


「そうだ。スロープを下って、食材搬入口辺りへ行けば死角も多いし、侵入し易いだろう」


 俺の言葉に二号が目を輝かせる。


「良さげなアイデアじゃないの。

 俺にはそこまでの距離感が掴めないんだが、ここからそのスロープを伝って食材搬入口へ行くには何分掛かる?」


 二号は大袈裟なぐらいの身振り手振りを交えながら言った。


「5〜6分ぐらいだろうな」


 と返す。


「よし、あんたとパリスは」


 二号は西松とパリスを指差す。

 そうだ、二号は西松の名を知らないのか。にしてもパリスを知っているとには納得だ。パリスは悪名高いからな。


「風間と一緒に行動してくれ。

 俺は頃合いを見計らって、ここで騒ぎを起こし警備の目を引く。

 お前らはその隙に搬入口から侵入しろ」


 二号の奴、いい作戦を思い付く。


「陽動作戦だね」


 西松の一言に二号は誇らしげな表情を浮かべる。


「俺はどうしたらいい?」


 森本だ。


「あんたは車へ戻って待機しててくれ。

 俺が正門前で騒ぎを起こしたら、車で裏へ回って搬入口で風間達が戻ってくるのを待つ」


「わかった」


「騒ぎを起こしたら、俺も裏の搬入口へ向かう」


「わかった。作戦開始だ」


 俺のその一言で二号はその場に残り、森本は車へ戻る。

 俺たちはそのまま、森の中を迂回し入間川高校…、じゃなくて工房の裏を目指して行く。


 数分後、俺たちは木々の陰に紛れつつ、工房の裏へと回った。

 工房は狭山湖辺りの森に囲まれた場所に建てられ、正門から裏門にかけて一周する形で道路か敷かれているようだ。

 正門は入間川高校だった時には無かったはずの守衛室が設置され、警備員が配置されていたのに対し、裏門の周りには何も無い。

 俺は道路に人や車が来ないことを確認すると、森の中から出て、一気に裏門へ走る。

 西松とパリスも俺の後に続く。

 俺は辺りを見回す。

 

「門はあの時のままか」


 裏門に触れると金属の冷たい感触がする。

 そして古いせいなのか、所々に塗装が錆びで浮き上がった箇所があり、そこに触れると塗膜が割れて崩れ落ちる。


「そうだね、全く変わっていないよ」


 西松も同感のようだ。

 俺は何の気なしに胸の高さぐらいある、引き戸になっている門を軽く引いてみる。

 門は重いものの、金属の軋む音をたてながら開いていく。


「裏門は鍵掛けてないのか」


「みたいだね」


 門を開け放った時、俺は思わず絶句した。

 いや、予想はしていたのだが、思ってた以上に裏から見る校舎の様子が当時の入間川高校のまま、だったのだ。


「こんなこと有り得るのか…」


「信じられない…」


 驚きの声を漏らした西松は、闇の中でさえもわかるぐらいに目を見開いている。

 パリスは…、やっぱりいつもの薄笑いだ。


 そうだ…、俺は高校の裏で軍団のメンバーらとよく集まっていたんだよな。

 高梨、糞平、パリス…

 高梨、糞平、パリス、高梨、糞平、パリス。

 あれ?もっとメンバーが居たはずなのだが…


「おい、パリス。俺らの軍団って俺と高梨と糞平とお前以外に誰が居た?」


「え?シロタン、何言ってるの?その四人だよ」


「もっといただろうよ…、誰と誰だ?思い出せない…」


 誰か居たはずなんだ!顔も名前も出てこない。


「おい、西松。お前なら覚えているよな?」


「俺はクラス違うし知らないよ。ジージョさんとヅラリーノ?」


「ジージョはまだしも、ヅラリーノは有り得ねえよ。奴は俺たちにとって不倶戴天の敵」


 と言った時、俺の背中に電流のようなものが走った。

 俺は一目散に近くにあったゴミ集積所へ走る。


「どうしたよ、風間」


「西松、パリス!ちょっと来てくれ」


 昔、高校のヤンキー達がゴミ集積所の横でたむろし、灰皿代わりに一斗缶を使っていたのだ。


 その一斗缶の姿が闇の中に見えた。


「あれって!」


 西松も一斗缶の姿が見えたようだ。


「あぁ、ヤンキー達が灰皿代わりにしてたやつだ」


 俺はその一斗缶を手に取る。

 流石に吸い殻は無く空だ。しかし用があるのはそれではない。

 俺は一斗缶の向きを逆にし、缶の端を使って、その場を掘る。


「シロタン、もしかして」


 パリスも思い出したようだ。


「そこに何かあるの?」


 そうだ、西松はここに埋まっている物が何であるかを知らない。


「西松よ。黙って見ているがいい」


 そうだ。俺は奴のお宝をここに埋めたのだ。


「あった、あったぞ!」


 数秒も待たずに、そのお宝が地中から姿を見せ始める。

 しかし何故これが、こんなものまでここにある?

 掘り返しながら俺の全身を戦慄が走る。

 俺は露出した黒い塊を鷲掴みにし、引き摺り出す。


「ひいっ、なんだよ、それっ⁉︎」


 俺の横にいた西松が思わず後ろへ飛び退く。

 それも無理はない、黒い毛のような物で覆い尽くされた塊だ。

 西松にしてみたら動物の死骸にでも見えたことだろう。

 しかし、これはそんな物ではない。


「これは、ヅラリーノのヅラだ」


 と俺が言った刹那、パリスが大笑いする。


「なんだよ、それ。何でそんなものがここに埋まってるんだよ」


「そうだな、西松。お前は知らなくても無理はないのだが、俺たちは、と言うよりもとくに俺はヅラリーノと抗争を繰り広げていた。

 その度に俺は奴のヅラを奪い、時にヅラを燃やし、時に便所に流し、時に埋めたりしていた。これはその埋めた物の一つだ」


「馬鹿馬鹿しい、驚かせるなよ」


 西松は吐き捨てるかのように言った。


「確かに馬鹿馬鹿しいのだがな…、何故こんなものまでここに埋まってるのか」


 西松は沈黙した。

 そうだ、あまりの不可解さにこの埋めたヅラを見つけた時、背中から冷たい嫌な汗が吹き出し、耳鳴りがし始めている。


「どういうことなの?入間川高校は昔からここにあったっていうこと?それとも地面ごと校舎を持ってきたとか?」


「地面ごと、は有り得ないな」


「だとしたら、俺たちの記憶は何なんだよ。ここへ通学してたわけ?」


「ヅラリーノのヅラを見つけておいて何だが、俺にもさっぱりわけがわからない」


 次第に耳鳴りがより激しくなり、頭が締め付けられるように痛い。

 真っ直ぐ立っていることがキツくなり、俺はゴミ集積所を囲むブロック塀に寄りかかる。


 その刹那、俺の視界が真っ白な何かに埋め尽くされた。

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