第8話 仮面の男

「シロターン!」


 ジージョさんだ。

 ジージョさんともう一人が俺の方へ向かって走ってくる。

 もう一人はジージョさんよりも大きく、身長は190センチ近くありそうな大男だ。

 二人が近づいて来るに連れてジージョさんと一緒に来た奴が誰なのかわかった。

 “仮面”という奴だ。


「シロタン、大丈夫?僕一人だとどうにも出来ないから、“仮面”君を呼んできたよ」


 ジージョさんが連れてきた大男はその呼び名の通り仮面の男だ。


「シロタン、傷だらけじゃないか。

病院へ行った方がいいよ」


 “仮面”は機械で合成したような人工的な響きの声を発した。

 “仮面”は全てが謎に包まれた男だ。

 その名の通り、常に顔面から頭部を完全に包み隠す鉄の仮面を装着しており、それによって誰かが“仮面”と呼び始めたわけではなく、学生証の名前の欄に“仮面”とだけ記されているからなのである。

学生証には性別は男と記されているのだが、その他の情報は一切表記されていない。

 身長は190センチ近くは有り、堂々とした体格、常に濃紺の戦闘服のような物を着用し、その戦闘服の上には今時のアメコミヒーローが付けてそうなボディアーマーを装備し、とても大学生とは思えぬ、映画の中の人間兵器のようにしか見えない。

 “仮面”の特徴の一つである機械で合成したような声は何故なのか誰も真相を知らないのだが、噂では幼少期に事故で声帯を損傷したのが原因だとされている。

 他にも仮面の下の素顔は金髪碧眼の二枚目であるとか、事故で身体のほとんどが機械だとか色々あるのだが、どれも憶測の域を出ない。

 そんな謎に包まれた人間兵器のような男だか、この狭山ヶ丘国際大学の癖の強い連中に比べたら人畜無害な方だ。


「大丈夫だ。

“仮面”のボディアーマーほどじゃないが、俺には脂肪という装甲があるからな」


「それでもまずは保健室で診てもらったほうがいいよ」


 “仮面”は事もあろうに俺の170キロはある巨体を軽々と抱えあげた。

 そうだ、この“仮面”という奴は凄いパワーを持っているのだが、俺を軽々と俺を持ち上げたのは驚異的である。

 身体のほとんどが機械という説が現実味を帯びてくるってものだ。


「保健室へいくのはいいが、降ろしてくれ。俺は歩ける」


「そう?無理はしないほうがいいよ」


 “仮面”は俺を降ろす。


「そういえばペヤングの取り巻き達はどうしたの?」


 今、俺にとって一番聞かれたくないことをジージョさんは言った。

 ジージョさんは辺りを見回し、未だに座り込み、涙を流す西松の姿を見つけたようだ。


「あれは西松?あいつは…

あれはどうしたの?」


 どうしたの?と聞かれても西松が糞だらけの理由など言えるわけがない。


「さぁ。どうしたのですかね」


 とぼけておくしかない。


「なんか臭わないか?」


 ジージョさんが鼻をひくつかせる。


「これは人糞の臭いだね」


 “仮面”の奴、仮面をしていても臭いに敏感なようだ。においセンサーでも装備してるのか?


「それは一旦置いておくとして、食堂へ行きましょうよ。腹減ってきませんか?」


 なんとか話を糞から遠ざけたい。


「それはいいけど、まずは保健室だよ。

あっ、これをシロタンに渡さなくちゃ」


 ジージョさんは俺の斜め掛け鞄を持ってきていた。

 俺は鞄を受け取り、早速斜め掛けにする。


「ありがとうございます」


 とジージョさんに礼を言うと、これ以上、西松の件に触れられたくないので、早々に保健室へと歩き始める。

 俺が歩き出すと、ジージョさんと“仮面”も俺に続く。

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