第2話 栗毛少女、聖職者となる。

 視界が暗転した後に空からの視点で町はずれの小さな教会が見え、シュンッというシステム音と共に私はGOD・F・オンラインGFOの世界へと降り立ちます。


「⋯⋯みんな、また合おうね」


 新たな世界で少しだけ不安になり、第六天明王ギルドのみんなやMSOで関わりを持った人たちとの別れを思い出して前を向きます。気持ち俯いていた顔を上げると視界いっぱいの青空が広がっていました。


「っと、空が澄んでて綺麗だね~。月影オンラインMSOのタイトル通り、あっちはゲーム内時間が夜固定だったから私には少し眩しいけど」


 ここは転移先に指定したホルア帝国領の中でもどうやら始まりの町らしく教会の他に商人ギルドや冒険者ギルド、アイテムショップに宿屋といった基本的な施設の他には木造の民家が周りに何軒かある程度の小さな町でした。軽装で木製の武器を持った冒険者風のプレイヤーがちらほらと視界に入ります。


「えっと、ステータスはこれね。レベルは1、スキルは⋯⋯ちゃんと残っているね。灰色なのはきっとジョブがまだ聖職者じゃないからだね」


 まずは転移前に読んでおいたGFOの説明書を思い出しながらGFO内での自分のステータスを確認して、無事にコンバートされた状態で転移できたことに控えめな胸に手を当てて安堵します。ちなみに私は胸が小さいことを気にしない寛大な心の持ち主なのです。


「それにしても私をチラチラと見てどうしんだろ?さては私が可愛すぎて気になるのかな?」


 リアルもネットゲームでも引っ込み思案で小心者だった私も今では立派なネット弁慶に成長?しました。


(だってVRゲーム黎明期からプレイしてるんだもの。PSプレイヤースキルなら自信があるわ)


 次に引き継いだ装備品を確認し、私の装備がMSOからGFOへと持ち込まれた高レアリティ品のため目を引いていることに気がついてしまったのです。


「この姿は目立つかな。でも代わりの装備なんて持ってないし……、とりあえず教会で聖職者のジョブになろっと」


 私が可愛いとか自惚れでした。そりゃキャラメイクは栗毛の目立たない感じにしましたが可愛いを捨てる気は起きなくて、理想の妹の姿に私は今なっているのです⋯⋯一人っ子だけど。けれど、これはゲームでみんなが理想のアバターを作成しているので美男美女は普通でしたね。ほんと、自惚れてごめんなさい(2回目)。気を取り直し、目の前にある教会の扉を開けて中に入ると太陽に照らされた大きな大樹のステンドグラスが目を引きました。その雄大さにしばらく見惚れて、この世界は大地か大樹、あるいは太陽の神様を信仰しているのかなと想像した後に、目的の爽やかな男の神父が入ってすぐのところにいるのを見つけて話しかけます。


「あの、すみません。聖職者になりたいのですが」

「就職希望者ですか。聖職者についての説明は必要ですか?」


 んー、どうしようかな。UIユーザーインターフェースを触った感じ装備画面とかスキル画面も同じだし、スキル引き継ぎもできるシステムなんだから大体は同じで多分大丈夫だと思うけど……一応聞いておこうかな。


「お願いします。あ、それとスキルの引き継ぎについてもお願いします」

「わかりました。では聖職者という職業からですが、この世界を見守って下さる神の力を借りて神聖魔法が使用出来るようになります。神聖魔法は主に回復魔法、補助魔法、対魔対不死魔法、極大消滅魔法の四つに分類されます。回復魔法の新しいスキルを習得したい場合、同系統の魔法を使い込むことで新たなスキルを習得することが出来ます。一般的に使用される下位スキルの効果と習得条件の詳細についてはそちらの書庫にて後ほどご確認下さい」


 思った通り、大体同じですね。対魔対不死魔法はMSOにはありませんでしたけど。ちなみに、回復魔法はヒールを始めとしたHP《体力》回復魔法の他に状態異常回復、MP魔力回復などを行えます。回復魔法を伸ばしたヒールを主体とする聖職者のことをヒール使いヒーラーと呼びます。私はMSOではコレですね。


「続いてスキルの引継ぎについて説明します。別の世界から転移されてきた方の中には前の世界で習得された技能・魔法といったスキルを封印状態で習得されている方がいます。そのようなスキルがある場合、1つ前の世界のスキルに限りますが、この光雫世界ライトップにて使用可能な場合は同職業に就かれた場合に封印が解除されます。なお一部のスキルの仕様はこの世界に準じて変更されます。スキルの引き継ぎは強制ではありませんし別の職業へ就くことも出来ます。それに思ったスキルや職と違った場合は転職という形をとることも可能ですので気楽に考えてくださって構いませんよ」

「ありがとうございます。じゃあ聖職者への就職したいと思いますので手続きをお願いします」


 おおよその概要は理解できました。スキルの引き継ぎも問題なくできそうなので聖職者になろうと思います。あとはシステムが勝手にやってくれて聖職者になれるのかな?


「わかりました。ではこちらの履歴書にご記入をお願いします」


 と思ったら神父から一枚の紙が差し出されました。それを頷いて受け取るとウインドウが表示され選択式の質疑応答を求められました。


【1.あなたが前にいた世界を選択してください】

  林檎世界 ・ 武道世界 …… ・ [〉輝夜世界


【2.前の世界で習得したスキルの引き継ぎを希望しますか?】

[〉はい ・  いいえ


【3.引き継ぐ系統魔法を制限しますか?】

[〉全部引き継ぐ ・  指定して引き継ぐ


【4.選択された情報を確定しますがよろしいでしょうか?】

[〉はい ・  いいえ


 全ての回答が終わると紙が消えて神様と思われるシルエットが私の前に現れました。


『夜天の子よ、この光雫世界はそなたを歓迎しよう。我は陽光神、命の輝きと成長を司る。神とは信仰、故に信仰心ある者に神聖魔法を授ける。信徒となりて世界を照らせ⋯⋯』


 言うだけで言って満足したのか神様のシルエットは消え去ってしまいました。なので、神父に説明を求めるように目を向けると、NPCの彼は地面に片膝をついて手を眼前で組んで祈りを捧げていました。


「え、コレって恒常イベントじゃないの?」

「陽光神様が権現されるのは滅多にありません。高位の聖職者、大司祭や聖女と言われる方が転移就職された場合にのみです。ただ、それほどの位階まで登り詰めた方がスキルと装備の一部以外を捨てて転移されるケースは極めて稀です」


 ついNPCにメタ発言をしてしまいましたが、こんな展開は私だって困惑しますよ。しかし、なるほどとも思います。聖職者の最高位の一つである聖女だったプレイヤーが前にいた世界の大部分を捨てて新たに同職業でプレイすることは普通ならまずないでしょう。ネットゲームに費やした時間は人生そのもので、そこで築いた関係や地位、ステータスにアイテム類はかけがえの無い宝物なのですから。


「私もみんなとのお別れ辛かったし、最後のアイテム整理は思い出ばかりで泣いちゃったけ」


 少しだけまた感傷に浸ってしまいます。⋯⋯変われたと思ったんだけどな。


「貴女はきっといい出会いをされてきたのでしょうね。顔に書いてありますよ。それはそうと就職おめでとうございます」


 振り向くと小さめな私よりさらに少し背の低い少年から声をかけられました。


「えっと⋯⋯、だれ?」

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