第3話 栗毛修道女、再会する。

「これはすみません。陽光神あまりにも想定外でしたので。私、ギルド"懐色"でギルドマスターをしているセピアと言います」


 その少年は街で見かける冒険者と同じく軽装の革鎧を着ているにも関わらず、腰には分不相応の業物と思われるロングソードを携帯していました。しかし、自己紹介を聞くにどうやら業物に相応しい持ち主の様です。


「私はラピスです。どうして私に声を?」

「夜天の星から一筋の光が降って来たので確認しにきたら案の定、高レアリティ装備の初心者を見つけたので様子を見ていたのです」


 悪い人ではなさそうかなと私は思いました。それは直感と言うには既視感がありすぎて、エミルさんたちに声をかけてもらった時と同じように私を気にかけてくれる。そんな人の気がしたのです。なので、私は直感を信じて彼とは駆け引きなしに話をする気になりました。


「なるほどです。お察しの通り、私はコンバートしてこの世界にやってきましたけれど、知り合いは誰もいなくて⋯⋯、まずは転職がうまくいったかどうか試したいのですが良い狩場はないでしょうか?」

「街を出てすぐのフィールドは本当の初心者向けだけど聖職者でソロは辛いと思いますね。⋯⋯ってお芝居はここまででいいかな?ラピス」


 プレイヤーキャラクターの中、正確にいうとプレイヤーというアバターを操作している人がネットの向こう側にいます。つまりはそういう事なのでしょう。


「えっと、⋯⋯ーーん、私を知っているんですか?」

「俺だよ、俺、ってもこの姿じゃわからないか。けどアイツならわかるかな」

「あっ」


 そう言って彼は右手で剣を抜き、前に突き出した。その姿が私の知る召喚術士と重なり、セピアさんが誰なのかを私は理解しました。それを裏付けるように昔に何度も聞いた呪文を唱えます。


「闇夜の空を引き裂いて、舞う星は魔術の使い魔、眠れ日が昇るまで、今宵は静寂の宴なり、目覚めよ幻影の梟、ファイング」


 黒い翼に星模様の梟、それはMSOでレアモンスターに分類されるモーターイングであり、付けられたファイングという名前の召喚獣を私は知っている。


「ナツキさん!?」

「だぞ。よっ!忘れられてそうで辛かったわー」


 そう言って、彼はファイティングによって自分にかけられた幻影魔法を解いた。頭を振ると真っ赤に燃えるような腰まである長髪が広がり靡く、その瞳は左が金で右が黒のオッドアイ、身長も先ほどの背の低い少年の姿はなく、身長180センチほどの大きな青年の姿があった。


「いやー、なんかエミルから連絡が来てな。ラピスが友達と遊ぶためにこの世界に転移してくるから様子見しろって言われたんだが、俺ん時は神さまなんて出なくてよー、間近で見てみたくてつい姿を見せちまったわけよ」

「姿、名前まで偽れるとか詐欺じゃありません?そんなの絶対誰もわかりませんよ。と言うかそれはかなり高度な魔法では無いのですか?というよりこの世界に来てるので聞いてませんよ。えーっと確か小説世界でしたっけおとぎ話の世界にいると私は思ってましたけど?」


 あまりに理不尽なドッキリに対して私はナツキさんを質問攻めにします。


「そーゆーなって、俺は召喚術しか取り柄がねーんだから。まー、前の世界でなぁお前らがいないと俺は召喚士として何もできないってわかったからなんだがな、この世界に相棒は連れて来たかったからな、こっちに来てから初級スキル『召喚』を再取得して覚えてから剣士に転職したってわけよ。ついでに『召喚』ってのは契約したモンスターをいつでも呼び出せるが契約した順番にスキルが追加される仕様でな、俺はお前らのおかげで最初から上級レアモンスターのコイツをイベントで契約できたから初級スキル『召喚1』で呼び出せるわけだ」


 そう言って笑うナツキさんの姿は思い出の中の彼と変わらず、ギルドにいた時のナツキさん、いえ違いますね。ギルドを作る前のナツキさんと同じだと感じました。


「1つ聞きたいんですけど、どうしてギルド抜けられたんですか?エミルさんすごく寂しがってました」


 ナツキさんとエミルさんはMSOで出会い、固定パーティを組みながら、野良パーティーでたまたま一緒になった私も含めた4人を誘ってギルドを設立した。それが第六天明王の始まり、それなのに彼はエミルさんを置いて違う世界へ転移してしまったから、だから私は彼に会ったら聞こうと思ってたんだ。どうして?って、その機会は今だと思った。


「俺ってユニーク召喚術しか取り柄がないせいでお荷物になっていただろ?エミルとお前ら最初の4人とくだらないことをしながら旅がしたかったんだがな、世界はそれを許してくれねー。強くなれって強要されるんだ。特にギルドでの俺の立場は副ギルドマスターだったからな。それが辛かった」

「⋯⋯ごめんなさい」

「何を謝る必要がある。少なくとも俺にはラピス、お前がいろんな冒険をして明るくなって良かったと思ってるぜ。ま、俺には眩しすぎたのかもな。言ってなかったと思うが、エミルと俺は恋人だ」

「⋯⋯知ってる。だから、なんでまだナツキさんが"VRMMORPG"ゲームやってるのかわからないの」


 ギルドメンバーの中でそれを知らない人いませんでした。2人の関係は見ればわかる、それほどお互いを信頼している感じだったから。


「そうか。そうだな、世界にはいろんなヤツらがいて、一緒にバカやれるかけがえのない仲間になれるヤツらが星の数ほどいるはずなんだ。だから、そいつらに出会ったらアナタの心地良い場所を作って待っててアイツに言われた」


 ナツキさんは上を見上げながら語る。その姿はいつものナツキさんとは違う人に見えました。


「ゲームの中でも隣に居てやりたかったんだが、無理してる俺をアイツに見せたくないから、その優しさに甘えちまった。けど、お前らがいてくれたおかげでアイツ、いつもゲームの話をする時は楽しそうだったぜ」

「⋯⋯はぁ、そんな話をこの世界で聞かされて、私はナツキさんと同じじゃないですか。どうせエミルさんから聞いてるんでしょ?」


 背中を押してくれたエミルさん、六人で作ったギルドだからギルド名に"六"と入れた。そのギルドマスターは私がリアルで頑張るために転移するのをみんなに声をかけて盛大に見送ってくれた。だったらこの世界で私もリアルと向き合い、末実ちゃんと精一杯楽しまないとって気持ちになる。


「ま、セピアとしておせっかいを焼いて一人でレベル上げにいくのを止める気でいたんだがな。俺たちの想いがわかってるみたいで何より、さすがラピスだな」


 そう言ってナツキさんは私の髪をわしゃわしゃします。⋯⋯長身ずるい。エミルさんにもやってるのかな?かっこいいイメージあるけどマスターも女の子だもんね。それにしてもお見通しって感じは私的には不満だ。


「むー、フレンド登録してもいい?」

「それは構わないが、ギルドにはこないのか?"懐色"でギルドマスターをしてるって言っただろ」

「いいの、私は強くなるの嫌いじゃないしナツキさんのギルドメンバーの人と合わないかもだから。それに"新しい出会い"でギルドに入るのってネットゲームの醍醐味でしょ?」


 私はニヤっとして、ナツキさんに手を差し出します。


「そうだな。⋯⋯そんなだから、お前を、お前らを、俺は、俺たちはギルドに誘ったんだぜ。⋯⋯またいつか冒険しよう」


 私の手を握るナツキさんの手はバーチャルなのに力強く感じた。

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