第28話「TA動画をおUPですわ!」
ギャンブラーのバンザは、手当を施されたのちに地下牢に繋がれた。
国王も、愛娘たる第三王女のエルベの言葉に納得し、改めて107人の勇者たちに魔王討伐が言い渡される。
これで、勇者たちがほぼほぼ全滅して王都が攻め込まれる、そういう未来は消えた。
そして、サイジの新しいゲームが幕を開ける。
今度こそ、揺るぎないトゥルーエンドを迎えるための旅路だ。
さらに、サイジは二周目となる今回の冒険に新たな楽しみを個人的に感じていた。
「と、言うわけでエルベ。頼みがあるんだけど」
「
「話が早くて助かるよ」
「勿論、私もついていきます。いいですね?」
「それこそ勿論だよ、来て欲しい。力を貸して、エルベ」
「素直でよろしい。では」
そして、大広間にはざわめきを広げる勇者たちが残る。
大勢の前でサイジは、咳払いを一つして自分に言い聞かせた。
「さあ、タイムアタックだ……今日中にクリア、なんてどうだろうか」
ゲーマーという人種は皆、凝り性だ。
十回遊べば、十通りの遊び方を探して求め、見つからなければ作ってしまう。
そういう、どうしようもない一面を必ず持ち合わせてこそのゲーマーだった。
「えーと、二周目の勇者サイジです。みなさん、早速ですけど……戦ってもいいって方にお願いがあります」
一斉に視線がサイジに集中する。
だが、不思議と緊張はない。
ゲームの大会でファイナリストになった時とかは、この比ではないからだ。
そして、一周目の逃げ出した自分とは、もうお別れした。
今のサイジは、最速クリアで一組の母子を救う勇者だ。
そのついでに、王国も助かっちゃうという訳である。
「皆さんで、王都の守りを固めてください。明日までに魔王を倒してきますので」
一瞬、大広間の空気が静まり返った。
次に、笑い声が連鎖してゆく。それも、どこか呆れたような乾いた笑みだ。でも、サイジが黙って立ってるので、やがてささやきと呟きに変わって消えた。
静かに鳴るのを見計らってから、サイジは再度口を開く。
「僕が手柄を独り占め、って感じじゃないです。この王城の宝物庫には財宝が山ほどあるので、みんなに行き渡るよう交渉します。で、みんなは初期ステだから――」
皆、体格が良くて選んだ武具のチョイスもなかなかである。
「おいおいボウズ、これっていわゆるジャパニーズ
「そうそう、日本のアニメでよくあるやつだ」
「なら、百人とちょっと、全員で協力して行こうや!」
なるほど、人種もさまざまで外国人も多かったのを思い出す。
だが、サイジはもう仲間を増やさないと決めていた。
別に、バンザ以外の勇者も信じられない訳じゃない。けど、無用な犠牲は出したくないのが一つ。それと、王都の守りを固めた方がいいのは、本当の話だ。
バンザの裏切りがなくとも、王国は窮地に立たされている。
これから一ヶ月かけて、ここまで魔王軍は来るのだ。
「えっと、アナネムさん。スキル使ってみんなのステータスを可視化しますよ」
『オーッホッホッホ! おやりなさいな、サイジ! お現実を
聖剣エクスマキナーによって、誰の目にも自分のステータスがはっきりと目視できるようになった。皆どのステータスも低く、特にHPなどはまだ100前後である。
それよりはサイジは、まだアナネムの肉体を借りなくても十分に強い。
短時間、わずか数日で魔王城までの強行軍を走破したからだ。
そして、サイジの相棒とも言える人物は、一ヶ月フルに戦って生き残り、今も側で笑ってる。
「ルル、ちょっといい?」
「ん? なぁに、サイジくんっ」
「みんな、じゃあこうしよう……このルルから一本取れたら、パーティに入れることにする」
みんな、目を丸くした。
当たり前だ、
そのルルだが、ニシシと笑ってサイジの意図を理解したようだった。
「じゃあわたし、デコピンだけ使うね? よーし、ばっちこーい!」
無垢な無邪気さは、時として最高の煽りになる。
真っ先に巨体を揺すって最初の男が剣を抜いた。
けど、ルルの方が何倍も速い。
一ヶ月戦い続けて、コツコツとステータスを積み上げて成長した屈強な女戦士がいた。
「いってえ! おいおい、まじかよこのお嬢ちゃん……」
「へへー、デコピン命中っ! はい、次どうぞー?」
「おい、どいてろ! 次は俺だっ!」
二人目、そして三人目が向かってくるが、結果は同じだ。
最後なんか、広いとはいえ室内で遠くから矢を射てきた。だが、ルルがデコピンでその矢を弾き飛ばして、天井にビィン! と突き刺さる。
わかってもらえたと思ったところで、サイジは一度頭を下げた。
「実は訳あって、急いで魔王城を攻略したんだ。……とある親子を、今度こそ救いたい」
でも、王都の守りを手薄にはできないし、魔王城周囲の強力なモンスターと戦うには初期のステータスは弱過ぎる。
そう、サイジのタイムアタック宣言は、決して自分のゲーマーとしての楽しみだけが目的ではなかった。
『サイジ、あなた……ひょっとして、わたくしとお母様を?』
「さあね。単純にゲーマーだから、タイムアタックしたいだけかもよ? 動画が撮れるなら、きっとバズりたくてUPするし」
『あっ、安心なさいサイジ! 動画はわたくしがなんとかしてみせますわ!
「……それ、人間は見れないやつでしょ。まったく……ふふ」
顔をあげたサイジに、誰もがやれやれと苦笑した。
そして、次々と声があがる。
「しゃーない、異世界籠城やってやろうじゃないの!」
「最近は、普通の勇者じゃありきたりだもんな。盾に特化とか、スライムになったりとかさ」
「なら、召喚されたけど王都から出ず、城を守りきるのもかっこいいじゃん、ねえ?」
「どうせだから、スローライフを満喫しながら守りを固めようぜ」
「異世界に召喚されたけどベテラン勇者に置いてかれたので国と民とを守る件について、みたいな?」
すぐに笑いが巻き起こった。
全く意味がわかってないみたいで、ルルも爆笑していた。
サイジは改めて皆に礼を言った。
これでとりあえず、最悪のバッドエンドだけは確実に避けられる。
あとは、魔王エルギアと再び会って話すだけだ。
「さて、じゃあルル、行こうか」
「うんっ! みんなも頑張ってねー! ちょっと魔王、やっつけてくるから!」
ほぼ全ての勇者が、笑顔で見送ってくれた。
どうやらやはり、バンザみたいな人間が例外中の例外らしい。勇者として召喚された、選ばれた者たちはどこか、それなりに勇者の資質を持っているのだろう。
後顧の憂いなく、サイジは前を向いて全力で走り出せる。
そう思っていると、ガシッ! と腕に抱き着かれた。
大広間を出た廊下で、グイグイとルルが身を寄せてくる。
「サイジくんっ! ねえ……これから空飛ぶお船で出発、だよね?」
「ん、まあそうだね。小一時間は準備にかかると思うけど」
「じゃ、じゃあ、それまで少し、ちょっぴり王都を観光しよーよっ! ……その、デート、的な?」
珍しくルルが、頬を赤らめくちごもった。
恥ずかしい中で、勇気を出してくれた、そんな言葉だった。
それがわかるから、サイジも顔が熱くなってしまう。
そして、悲劇の一周目の最後になにがあったかを、改めて思い出してしまった。
「い、いいけど……あ、じゃ、じゃあ、エルベにも声をかけて」
「だーめっ! 二人っきりがいいの! わかるでしょ? わかってよ、もー」
「う、うん。じゃあ、少し散歩しようか」
「うん! わたし、いいお店たーくさん知ってるんだ! 前は街の中まで攻め込まれて大変だったけど、今回は大丈夫そうだから嬉しいんだー」
そう言って、ルルはにっこりと笑った。
子供丸出しな笑顔がとても眩しい。
そして、改めて間近に見上げてルルが美しいと思う。かわいいし、綺麗だ。みんなでっかいでっかい言うし、サイジもデカい幼女みたいなものだと思ってた。
けど、サイジの頼れる仲間はとても愛らしくてムチプリボインな美少女なのだった。
だが、この時二人は気付かなかった……冒険用の服に着替え終えたエルベが、柱の陰からじっとり見詰めていたのを。
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