第10話 拠点といろいろ発見

俺たちは拠点を中心に検索を広げていった。


結果、俺が落ちた拠点の他にふたつの…たぶん頭上に穴がよく開く場所を発見した。

どうして解ったかって、それは地面に色々な物資が転がっていたからだ。


俺が落ちた所を拠点Aとする、そこから南南東に60分の所に見つけた場所を拠点B、Bから北北東に60分の場所に見つけた所を拠点Cと名付けた。


ライアンが地面に図を書いた。


「現在ある拠点は三つ。逆三角形で、左側西がゆうきがいた場所でA、右側つまり東がC、三角形の下、南方面がBだな」


「うん、探索をもっと広げるとまだ出てくるかも」


「ABCが大体60分…4kmくらいの距離か。毎日3つの拠点とテントまでで結構な時間を使うな。ここからはゆうきがやってたように一方向に絞るか、うずを広げて行くか」


「うずを広げたい」


俺は拠点C名と付けた場所の地面に転がってる物資を見ていた。

落ちている物の中で食糧系で明らかに腐っている物が結構あった。

勿体ない。

もっと早くコンパスに気がついてぐるぐる探索をすればよかった。


あ、でもそしたらライアンと出会うのが遅くなってライアンが危なかったか。

そう考えたら腐らせてしまった食糧を落としてくれた人に対して申し訳なく思ってた気持ちも少しだけ楽になった。



今日はこれ以上の探索はやめて、拠点を片付ける事にした。

物資の分類は3種類、

①今日持ち帰る腐りそうな食べ物系

②後日テントへ持ち帰る物

③この拠点に置いておく物


それから腐った食糧は広場の隅っこの地面を掘って埋めた。

拠点Aと同じようにあちこちに張り紙や看板を立てておいた。

誰か落ちて来てもすぐに合流できるように。


防災グッズっぽいのが多いのは助かるなぁ。

ゴミ袋(ゴミ入り)を見つけた時はちょっと、いや、かなりイラっとした。

便利なゴミ捨て場と認識されたら嫌だなぁ。

ちなみにゴミ袋を見たライアンは中指を立てていた。



それから数日はテントで寝起きをしつつ、拠点ABCを見回り、三角形の外周りをゆっくり検索して歩いた。


他の拠点を見つける事はなかったが、拠点B(南側)からかなり外側を歩いている時に、人を見つけた。

木の根元に縮こまっている状態だったがライアンを見つけた時を思い出した俺はすぐさま駆け寄って蹲った身体を揺さぶった。


…………。

何度も揺さぶってみたが起きてこなかった。

ライアンが首の脈を触り、俺を見て首を横に振った。


「ううぅ、もしもし、大丈夫でっす か もじも し ううう、起きて 水ありまず た、食べ物もっ うう、ぶううう」


俺は流れてくる涙と鼻水を止められなかった。

ライアンが俺の背中をパンパンと叩いてた。


「…埋めてやろう」


「ううぅ っはい… ズズっ ズビビっ」


平和な日本で生きてきた俺は死んだ人と向き合うのは初めてだった。

全く知らない人なのにこんなに悲しくて悔しくなるなんて思ってなかった。


穴を掘り始めたライアンを見て俺も掘るのを手伝った。

その人(俺は「死体」と口にする事は出来なかった)を穴に納めてライアンが土をかぶせようとした時、俺はライアンを止めた。


「あの、これ一緒に入れていいかな」


俺は持っていたペットボトルの水とパンを差し出した。


「解ってる、水と食糧が大事なのはわかってる。けど、俺、今夜は抜きでいいから!この人に持たせてあげたい」


「死んだやつはもう食う事は出来ないぞ?」


「うん。わかってる。でも持たせて、あげたいんだ」


この人の身体は汚れていたが獣に襲われたような跡は無かった。

たぶん、食べる物がなくて飲み水も見つけられなくて亡くなったんだと思う。

俺のじいちゃんが亡くなった時、じいちゃんが生前好きだったからって父さんが将棋の駒を棺桶に入れたという話を昔聞いた。

「向こうでも将棋が出来るといいな」って言ってた。

だから…。


ライアンが頷くのを見て俺は水とパンをその人の手に乗せた。


「あっちで食べるのに困りませんように」


ライアンはゆっくりと土をかけ始めた。



ライアンから今日はもうテントに戻ろうと言われて大丈夫と言おうとしたが頭が勝手に頷いていた。


『心や身体が辛い時は素直に身体に従え』


ふと、父さんの言葉が胸をよぎった。


「うん。帰る」



拠点の物資も明日持ち帰る事にして直接テントへ向かおうとした俺たちを待っていたのは、2人目の蹲った人。



「もう、むぅりぃぃぃ」


俺はつい泣き出してしまった。

あとで思い出すと17才にもなって恥ずかしい、5才の子供かよと反省したが、その時はいっぱいいっぱいだったのだ。


ライアンは俺をそこに残してその人に近づき、生死を確認するとすぐに穴を掘り出した。

俺はえぐえぐ泣きながら近づき穴掘りを手伝った。


「ゆうき、そっちに座ってろ」


ライアンは俺を気遣ってくれたが俺は首をブンブンと横に振りつつ穴掘りをやめなかった。

頑張った俺を褒めてほしい。


穴に落ちてからずっと頑張ってきたが、とうとう我慢の蓋が外れた感じだった。

白い穴に落ちた人が全員無事だって、何でか思ってしまっていた自分がいたのだ。


自分が今まで生きてこれたからきっと皆んなも生きてるって思ってた。

俺がラッキーなだけだったのか。

だとしたらこれから生きて行くのはものすごく大変なのかも。

ぐるぐる考えているうちにテントに着いた。

ライアンが連れて帰ってくれたんだけど。


ライアンには明日謝ろう。


『辛い時はとにかく寝なさい。明日はいい案が浮かぶわよ』


母さんの言葉が浮かんで、そしていつの間にか寝てた。

ライアンごめん。役立たずで本当にごめん。

そしておやすみなさい。

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