第9話 拠点を中心に
翌朝、俺達は昨日の残りのパンを食べた。
あんなにたくさんあったのにライアンがモリモリと消費してくれた。
腐らせたらもったいないからありがたい。
「ライアン、俺、昨日の拠点に見周りに行ってくる。ライアンはここで休んでいなよ。まだ体調復活してないでしょ」
「いや、一緒に行く。穴に落ちてようやく出会った人間だ。別々に行動はしたくねぇ」
「そお? 拠点まで90分くらい歩くけど平気?」
「ああ、大丈夫だ。あそこに荷物拾いか?」
「うん。それもあるけど、もし誰か落ちて来てたらなるべく早く拾ってあげたいと思って拠点には毎朝確認に行ってる。まぁ今のところ人は落ちて来てないけどね。荷物は結構落ちてくるのに」
「そうか…この森の他のとこは探索したのか?」
「う…んと、初日に拠点から徒歩30分の距離を東西南北に。その後は西側を重点に探索してた。この水場にテント張ってからもとりあえず西側の探索だね。森がどこまで続いているのかとにかく西へ向かった」
「って事は俺が落ちた森は、この森から西側にあるって事か」
「そう。ってもコンパスとかないから、日本だと陽が沈む方が西なのでここでも陽が沈む方角を西として探索してた。一昨日、朝テントを出て西へずっと進んで日が落ちて野宿して、昨日の朝また西へ30分も歩いたら森を出れた。その後草原でライアンを見つけた」
「ほおぅ、って事は拠点かテントから森の端までは半日ほどか」
「スマホで時間確認したらだいたい10時間くらいかな」
「拠点がこの森のどの辺なのかで森の大きさが解るな。拠点から東西南北のどこへ行っても10時間なら、拠点は森の中央あたりだ」
ライアンは地面に石で図を描いて見せた。
「なるほど」
「白い穴は世界中に出現してただろう?俺やゆうきがこっちに落ちたのがたまたまならともかく、そうでないならもっと多くの穴がこちらの世界にも出現しているはずだ」
「そうだね。ただ地球の穴が出来てもすぐ消えるように、こちらの穴もすぐに消えてしまってる。だからどこに落ちてきても会えるように、もっと森の探索範囲を広げないと」
「そうだ。西側はだいたい網羅したんだろう?」
「うん。張り紙とか西側は結構してある。次は上か下、北か南に探索を広げようと思ってる」
「拠点周りの探索は、徒歩30分って事は半径2kmほどか、拠点周りの探索をまずは広げないか?」
「うん、それでもいいけど、何で?」
「ゆうきが落とされた穴は1週間ほどで閉まったんだろ?けどその後も物資が落ちて来るって事は、地球に出現するいくつもの穴はゆうきの拠点に繋がってるって事だろ?」
「うん、そんなイメージに思ってる。あ、でも、ライアンは隣の森に…」
「ああ。どういう理屈かはわからんが。例えばある一定の広さに出現する地球の穴はこっちの同じ穴に繋がっているんじゃないか?日本の穴はこの森、アメリカは俺が落ちた森って感じだ」
「それって日本の、例えば北海道の穴に落ちても名古屋の穴に落ちてもこの森の拠点に落ちて来るかもって事?アメリカはデカイけど全部隣の森のライアンの落ちてきたとこに繋がってるのか」
「まぁ全く根拠もないしどの程度の範囲かもわからん。ただ、ゆうきの森の拠点によく物資が落ちて来てるってのは、そういう事なのかと思う。日本のあちこちに穴が出現した際にその近くにいるやつが穴に何かを落としてくれてる」
「確かに、うん。俺が落ちた穴にしか繋がってなかったとしたら閉じた後は何も落ちて来るわけないもんな。でも、拠点周りの探索を広げるのはどんな理由?」
「うん…まぁ、地球に出現する穴の数に比べて、こっちの穴が森にひとつってのはちょっと少なすぎないか?これだけ頻繁に物資が落ちて来るって事は他の場所にも落ちている可能性もあると思う」
「そっか」
「俺が落ちた森を探索したいが、あっちの森へ行くのには時間がかかる
まずはゆうきの森を探索した方が結果が得られそうだ。それに俺の国のやつらは穴に物資を落とすような親切なやつはいそうにない」
ライアンは苦笑いをしていた。
俺ひとりの時は森で迷ったらどうしよう、熊とか獣に襲われたらどうしようと不安が大きかったので、ジワジワゆっくりとした探索しか出来なかった。
でもライアンと一緒ならもっと探索を広げられそうだ。
俺たちは拠点へ向かった。
「ゆうき、この森で獣に出会ったか?」
「んん? 会ってないなぁ。熊も鹿も狸も見てない……。森にいる動物ってあと他にどんなのがいるかな」
「地球と同じとは限らないが昨日も今日も全く見ないな。植物がこれだけなってるんだから何かいてもよさそうなものだが」
「そう言えば、蛇とか虫も見てないなぁ」
「これだけの森にしては鳥の声もしねえな」
「……そうだね…。生き物は俺たちだけ?……」
自分で言ってからゾワゾワと恐怖が背中を伝ってきた。
この世界に、生き物が俺たちだけ…。
昨日、草原でライアンを見つけた時はゾンビかと思ったけど、生きててよかったぁ。
それにしても虫もいないってどうなってるんだ?
俺は持っていた棒(先を尖らせたやつ)で足元の地面をほじってみた。
いない。
すぐ横に垂れ下がった木の枝の葉を裏返してみた。
いない。
本当にいないな。
もしこの世界に俺たちふたりだけだったら……マズイじゃん。
世界が滅ぶよ。
俺もライアンも男だよ?
男子2人じゃ子孫が残せない。
神様、あとふたり、女子を穴に落としてください!
そう願ってから、いや落とされた女子はたまったもんじゃないなと思い返した。
神様、さっきのは取り消します。
たまたま落ちる分には超OKって事で!
「あのぉ、変な事聞くけど、ライアンって男だよね?」
「ぶふぉっ」
ライアンが吹いた。
「いやスマン。お前の考えてた事が手に取るようにわかるぜ。残念だが俺もお前も男だな」
ライアンは大笑いしていた。
英語で書くと大文字っぽい笑い方だった。
HAHAHA!
そんな話をしながら拠点に着いた。
やはり人はいなかった。
女子も落ちていなかった。チェッ。
荷物はあった!
夜間に落ちて来たようだ。
走り寄って見るとペーパーバッグだ、紙袋の右端に何の絵だろ?神社の狛犬みたいなキャラの絵が描いてある。
バッグの中を覗くと……お土産の包みのような箱が3つ入っていた。
出して見ると、ちんすこう…と、紅芋タルトと、さんど?
箱の包み紙にはクリームが挟まったクッキーの絵が描いてある。
沖縄土産…かな?
沖縄の人が落としてくれたのか、沖縄旅行した人が落としてくれたのか不明だが。
「そっちは何だった?こっちの袋は野菜が入ってたぜ」
こっちを覗き込んでいたライアンの手には大根やらキャベツが入ったらスーパーのビニール袋があった。
「野菜!嬉しいな。こっちは沖縄の定番のお土産のお菓子だよ」
「オキナワの定番が何か知らんが、美味いんか?」
「食べて見る?」
そう言って俺はちんすこうの箱を開けて中からひとつライアンへ差し出した。
ライアンは小袋のビニールを破りちんすこうをポイっと口に放り込んでバリバリと咀嚼した。
「クッキーか」
「うん、まぁ、そう。クッキー。こっちの箱もクッキー。こっちはタルトって名前だけど…」
ライアンはバリバリと食べながら地面に落ちている包みを拾ってる。
すごいな、昨夜は3つも落ちて来たんだ。
「おっ、これはいいぞ。電池だな。いろんなサイズがある。それと、何だこれ? ちゃっかまん?」
「ああ、チャッカマン。着火…火をつけるやつです!助かるなぁ」
「おう、それはいいな。あと、ロウソクか?細いなぁ」
見ると白く長いロウソクだった。
うちの仏壇によく置いてあったやつ…。
日本でロウソクを使うってバースデーケーキか仏壇くらいだもんな。
でもありがたい!
俺はそれらに向かって手を合わせてお礼を言った。
それを見たライアンも真似して手の平を合わせて頭を下げていた。
荷物は拠点にある大きな木のウロにまとめて置いておいた。
テントに帰る時に持っていく。
それから俺達はこの拠点を中心に円を描くようにぐるぐると探索を始めた。
円を少しずつ広げていく。
ちなみにぐるぐる探索が可能になったのはスマホのおかげた。
ライアンのスマホは充電が切れて使えなくなっていたが、手回し充電器を持っていたので貸してあげたら、使える機種だったらしい。
スマホにコンパス機能が付いていたので方向を見失わずに検索が可能となった。
「お前のスマホにも付いてるだろうが」
ライアンに言われて確認したら、……付いてた!
普段使わない機能だから「不要」に突っ込んであった。
だって、日本での生活で普段コンパスなんて使わないじゃん。
俺たちはコンパスを確認しつつ拠点を中心にどんどんと検索の輪を広げて行った。
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