最終章《2》


昨日まであった熱も引いて翌日にはすっかり良くなった。


やっぱり慣れねぇ事はするもんじゃねぇな。


先日のリレーの事を思ってもう二度とやらねぇと頭でぼやきながら、いつもの通学路を歩く。


小池が言うには食べ物代は全部春樹持ちらしいし、一応会ったら感謝はしておこうと思う。


「よぉ、良くなったみたいだな?」


どうやら噂をすると影が差すと言うのは本当の事らしい。


ちょうどそう考えていた時に鉢合わせる。


「まぁ、おかげさまでな。」


「おかげさまで今度は俺が倒れそうだよ…。」


ふむ、ちょっと殴り過ぎたか。


でもまぁ…。


「それはお前が悪い。」


「いや、悪かったって…。


それよりお礼なら小池さんに言えよ。


一緒に来て色々してくれてたんだしさ。」


「あいつにならもう言ったよ。


一応お前が飲食代とか持ったらしいから言っただけだ。」


「あぁ…良いよ。


そんなにかかってないし。


かかってないし…。」


「分かった分かった。」


多分具がシンプルだったのはこいつの財布の問題だろうな…。


とは言えシンプルだったからこそ面影を感じられた訳だが。


母さんと小池の雰囲気が似てるからってのもあるし、それが重なったからってのもあるんだろうが。


それともまさか狙ってやったのか…?


いや、こいつがそんな気を利かせれる訳ねぇか。


仮にそうだとしても余計なお世話だからどっちにしろ殴ってた訳だが。


「なぁ…ヤス…?なんか怖い事考えてない?


俺まだ命惜しいよ?」


どうやら顔に出ていたらしい。


「別に何でもねぇよ。」


「なら拳パキパキすんのもやめて!?」


手も出そうになっていたらしい。


「それで?あれからどうなったんだよ?」


そう聞くと、春樹の顔が一瞬で淀んだ。


あ、これ絶対悪いやつだな。


「ごめん…。


言えなかった。」


「言えなかった…?」


やっぱり悪いやつか…。


やると決めて勢い良く走り出したと思ったのだが。


「何があったんだよ?」


「実はさ…」


言いづらそうに口ごもりながらも、春樹は俺にそうなった経緯を話した。


「ふーん、なるほどね。」


まさか水木がそう出るとは。


まぁ…落ち着いて考えてみれば沢辺があの日も水木と一緒に帰るだろう事は容易に想像出来ていた事だし、それに沢辺の事を好きな水木が形はどうあれいつかは告白するだろう事も分かっていた事ではある。


「それで?それを見たお前は引き留める事が出来なかったって訳か。」


「あぁ…。」


図星らしい。


ぐうの音も出ないらしく俯いている。


相変わらず分かり易い奴だな…。


「ふーん…で?どうすんだよ?」


「なぁ…ヤス。


やっぱり…無理だったんだよ。」


「…は?」


言われて思わず拍子抜けする。


「…あいつにはさ。


俺なんかよりもずっとぴったりな相手がいる。


最初から勝てる訳がなかった。」


「…何だよそれ…?じゃあお前、ここまで来て沢辺の事を諦めんのか?」


「…思えば俺はいつも自分の事ばっかりだった。


だからあいつの気持ちを真剣に考えてなかったのかもしれない。


あいつはあんなに俺の事を見てくれたし、沢山の事をしてくれてたのに。


あの日までずっと好きでいてくれたのに。


これまでこうして答えを探してきて、それが痛いぐらい分かった。」


そう言葉を探しながら繋げていく表情は悲痛な物だった。


「なら…尚更このままで良いのかよ?」


「あいつは多分その方が幸せだから…。」


そう言う春樹の目線の先に、沢辺と水木の姿が見える。


「お前の幸せは良いのかよ…?」


「ヤス…。」


「何だよ?」


「俺もう辛い…。」


「っ…!?」


そう言う表情は本当に辛そうだった。


そこから分かる。


これは多分、ただの逃げじゃないのだ。


こいつにだって追いかけたいと言う気持ちは一応あるのだろう。


でもそれが無理だと思い知ってしまった。


自分が入る隙間が無いと言う事が嫌になるほど分かってしまった。


だから諦めようとしている。


無理矢理に気持ちを抑え込もうとしてるからこそ、その辛さが顔に出てしまっているのだ。


「もう…良いんだよ。


これで良かったんだ。


俺、もう諦める。」


「…そうか。」


ならそんなこいつを見て俺はどうするべきか。


このまま諦めさせて良いのだろうか?


それとも今までのように無理矢理にでも背中を押すべきか?


でも今こいつがこんな辛そうな顔をしているのは、そうして俺が背中を押したからだ。


なのにこのままで良いのか…?


実際、水木と沢辺は付き合いが長いからかお似合いのようにも見える。


そんな中に無理矢理あいつを押し込んで本当に良いのか?


これまで俺は、あいつの状況を自分からどうにかしようとは思わなかった。


これはあいつが自分でするべき事だからだ。


でも二人が仲直りすれば良いとは常に思っていた。


それが多分お互いにとって幸せだからと。


なのに今は状況が変わってしまった。


それが本当に二人の幸せなのか分からなくなってきた。


どうすりゃ良いんだよ…?



諦める事を告げると、ヤスはそれ以降何も言ってこなかった。


いつもなら、良いから行けとか言って蹴り飛ばしてきそうなのに。


とは言え、実際これで良かったんだと思う。


別れた後になって、ようやく好きだったと分かるような奴なんかよりずっと一途に想い続けてきた水木の方が絶対美波に相応しいに決まってる。


だからもう終わりにしよう。


気付いた気持ちは忘れて、水木と幸せになる事を願おう。


それで良いじゃないかと、自分に言い聞かせる。


そんな風に何度もしてきた自分に言い聞かせると言う行為も、これで最後にしなければならない。


時間がかかっても、忘れて前を向いていかなければならない。


そうして前を向けるのが、いつになるのかが分からなくても。


そんな事を考えながら自分の席に着いても、隣の高橋さんは相変わらず目も合わせてくれない。


とりあえず挨拶すれば返そうとはしてくれているみたいだが、すぐに目を逸らしてしまう。


やっぱり嫌われちゃったのかな…。


挨拶もしない方が良いのかなぁ…。


そんな事を考えて気が重くなっている内に橋本が入ってきて、朝のホームルームが始まる。


この日は文化祭の出し物を決める事になった。


そう言えばもうすぐ文化祭かぁ…。


去年の文化祭。


あの日二人で見た花火を思い出す。


今年はやっぱり水木と一緒に見るんだろうか?


あの約束も、もう忘れてるんだろうなぁ…。



文化祭と言えば、わたしの中ではやっぱり学校でやる祭りと言うイメージが強い。


実際私達が通う桜乃木高校の文化祭も、それぞれのクラスが出店を出して賑わう。


体育館では生徒会主催のステージがあるし、特別教室では美術の授業で描いた絵の展示があったり、校庭では出店の他にちょっとしたフリーマーケットなんかもある。


今日のホームルームでは担任の橋本がクラスの出し物を決めるように言ってきて、いつものようにリンリンコンビ(両方林がつくから)が引き継ぐ。


「よーし何か希望があったら言ってくれー!」


小林がそう高らかに声をかける。


そのあまりの声量に思わず耳を塞ぐ。


ただでさえ身長的にも席がいつも前の方に位置しているのだ。


無駄な大音声を毎回目の前でぶつけられている私の身にもなってほしい。


「私、小林君とお化け屋敷に一緒に入りたいなぁ…。」


「ははは、ばっか、それは自分のクラスだと意味ないだろ?」


「あ、そっか!えへへ、じゃあ他のクラスのに一緒に行こうね。」


「何言ってんだよ?当たり前だろ?」


「本当!?やった!」


おまけにこんなやり取りも毎回目の前で見せ付けられるのだ……。


その時多分その場に居たほぼ全員が思っていただろう。


いやお前らもう付き合えよ、と……。


※小林と林田はこう見えてまだ付き合ってません。


「はい!私、パンケーキのカフェがやりたい!」


一瞬大声と茶番のせいで気を削がれたもの……ひとまず深呼吸してから自信を持って意見を出す。


伊達にこれまで度々パンケーキのカフェに足を運び続けてきた訳じゃない。


自分でも作ったりしてるし、もし出来るならやってみたいと思ったのだ。


「あ、良いね!楽しそう!」


それにクラスの女子何人かが賛同してくれる。


「私、作り方分かるし、色々食べてるからメニューも考えられる!


その、だから皆でやりたいなって。」


とは言えこうして意見を出すのは中々に緊張した。


もし批判的な意見ばかりだったら立ち直れなかったと思う。


「え、じゃあ小池さん、私にも教えてよ!」


でも実際、その不安は一瞬で吹き飛んだ。


「え…あ、うん!もちろん!」


「私にも!」


「この際だからなんか工夫するのもありかもね!」


「おぉー!メイドカフェとか?」


クラスの男子がニヤニヤしながら言うと、他の女子が一斉に睨んだ。


それに言い出した男子はびくりと肩を震わせて一瞬で黙る。


「でもなんか工夫するのはありかもだぞー。


カフェは他と被りやすいからな。」


と、ここまで静観していた橋本がそれに口を挟む。


「あ、じゃあさ!お花とか飾ってフラワーカフェみたいなのは?」


「あ、それ良いね!」


「パンケーキも形を花びらの形にしたりとかしたら面白いかも!」


「可愛い!」


私が出した意見がどんどん広がっていく。


それがすごく嬉しい。


ちゃんと聞いてもらえた事が、こうして受け入れられた事が。


本来、自分はこうして積極的に意見を出したりするようなポジションじゃないと思っていた。


クラスでも浮いてるし、友達もついこないだまでいなかったし。


ずっとその中に入ってはいけない、入れない、むしろそれが当然なんだぐらいに思っていた。


だからこう言う行事にも今までそんなに興味は持たないようにしていた。


他の人が勝手に決めようが別に良いやぐらいに思ってた。


でもどうやら、私も静のように友達が出来て少しは変わったらしい。


もしかしたらそれは、あの日あの状況の中で気まずそうな素振り一つ見せずに自分の意見をはっきり皆の前で言ってみせた中川の影響もあるのかもしれない。


なんだかんだ、今はこれから始まる文化祭を純粋に楽しみにしている。


もう、一人じゃないんだな。


それがどんなに嬉しくて、勇気付けられる事なのか、今ならよく分かる。



放課後。


今は摩耶ちゃんと恵美ちゃんと三人で、いつものカフェに来ている。


「静、あんたこのままで良い訳?」


摩耶ちゃんが目の前の席から身を乗り出して聞いてきた。


「で、でも…。」


「うーん……どうしたもんかしらね…。」


そんな私を見て、恵美ちゃんは頭を抱えながらため息を吐いている。


「単刀直入に言うわよ。


あんた、文化祭であいつに告白しなさい。」


「………え?ふえぇぇぇぇぇぇ!?無理無理無理!!」


摩耶ちゃんからの単刀直入で突拍子の無い提案に、盛大に動揺してしまう。


「いや…動揺し過ぎだから…。


だってそうじゃない。


今でこそ佐藤も毎日欠かさず挨拶してくれてるみたいだけどこのままじゃ気まずくなってそれも無くなるし、そうなったら余計に話せなくなるわよ?」


「そ、それはそうだけど…。」


実際そうだ。


あれからずっと、私の方からは気まずくて話せずに避けてしまっている。


その度に佐藤君は困った顔で苦笑いするけど、それでも摩耶ちゃんの言う通り朝の挨拶は毎日してくれているのだ。


それすら無くなれば本当に関わりが無くなってしまう。


気を使ってくれてる佐藤君の優しさを裏切ってしまう。


このままじゃ駄目だ。


そうは思うのに、ただ目を見て挨拶を返す事さえ出来ずにいる。


「あの馬鹿…あんたが自分で言わないと絶対に気付かないから!」


「でも…やっぱり…。」


だからと言って急に告白だなんて。


ただでさえ普通に話すだけでもこんなに苦労していると言うのに。


「あんたも知ってるでしょ、文化祭の終わりに上がる花火。


それを一緒に見た二人はずっと結ばれるって言うジンクス。」


「う、うん。」


桜乃木高校の文化祭の後。


その終わりを知らせる為に、と言う名目で時間になると何発か花火が打ち上げられるのが毎年恒例になっている。


そしてそれを一緒に見た二人はずっと結ばれる、と言うのはこの学校に通う大体の人なら知ってるジンクスだ。


実際、文化祭が近付いてから周りがその話題で話しているのを度々見かけるようになった。


「それを二人で見んのよ!」


「い…いやいやいや…。」


でもその話を聞いてるからこそ、自分には全く無縁な話だとも分かっている訳で。


「静、あんたの為なのよ?」


と、ここで恵美ちゃんが割って入る。


「でも…私なんかじゃ佐藤くんの元カノさんには勝てないよ…。」


あの時の光景が再び記憶を過る。


そこに私が入る隙間なんてなかった。


だからあの時涙が止まらなかったんだなと、今ならよく分かる。


そんな私を見て、恵美ちゃんはため息を一つ吐いてから切り出した。


「静、よく聞きなさい。


確かに一度付き合った事がある相手と比べたらあんたは不利かもしれない。


でもね、どんなに可能性が低くても結果は先に自分で勝手に決める物じゃないんだよ?」


「それは…そうだけど…。」


「このまま言わずに終わったらきっとずっと後悔すると思う。


それなら、どんなに不利でも自分が見付けた答えをちゃんと相手に伝えるの。


それは絶対に無駄になんてならない。


ううん、無駄にしちゃ駄目だ!


結果は自分の目で見てから初めて決めないとせっかく気付けた事も、気持ち自体も無駄になってしまうから。


だから、あんたの精一杯の気持ち、ちゃんとぶつけなさい。


大丈夫、あんたはもう一人じゃないんだから…。」


「恵美ちゃん…。」


また泣きそうになった。


恵美ちゃんの言う通りだ。


結局怖さもあったのだ。


勇気を出して告白して、もしフラれたら。


今より気まずくなってまた一人になってしまったら、と言う。


でも今はそうやって一人じゃないと言ってくれる人がいてくれる。


一緒に泣いてくれた友達がいる。


こうして心配し、励ましてくれる友達がいるんだ。


だからちゃんと伝えなくちゃ。


それで、駄目でも、ちゃんと気付けた事を伝えなくちゃ。


今しないと駄目なんだ。


このまま何も言わずに、これ以上誤解させたまま佐藤君を傷付けたくもない。


ちゃんと自分の目で結果を見るんだ。


そう強く決意した。



文化祭当日。


「よぉ、ちょっと良いか?」


「別に良いけど。」


始まる前の時間に、小池を呼び出す。


前に呼び出した時と違って、今回はそれに快く応じてついてくる。


屋上に続く階段辺りまで来て、周りに人が居ないのを確認してから話を切り出す。


「高橋の様子がおかしいのはやっぱりそう言う事なのか?」


「ふーん、やっぱりあんたには分かるのね。」


「まぁな。」


「全く、あいつにもそんぐらいの鋭さがあれば良いのに…。


それで?だから何?」


「あいつは元カノの事が好きだ。


そして今それにはっきりと気付いた。」


俺の言葉を聞いて一瞬肩を震わせるが、それに対して小池は何も言わない。


「でもよ、その元カノには長い付き合いの幼馴染がいる。


そいつが元カノに告白したんだよ。


あいつはそれを見せ付けられたせいですっかり自信を無くしちまった。


で、今はそのせいで元カノの事を諦めようとしてる。」


「ふ、ふーん…そうなのね。


それで…?結局私に何が言いたい訳?」


「この事実を聞いてお前はどうするんだ?」


「…は?決まってんでしょ?


私は静の味方だから。


最後まで静を応援する。」


「…そうか。」


「あんたはあいつを応援するんでしょ?


ならあんたは敵よ、敵。」


「敵…ね。


なぁ、小池。


俺達が出来る事って何だろうな?」


「は?何それ…?」


いかにも拍子抜けした、と言う表情だ。


「俺は今まで…無理矢理にでも背中を押す事があいつの為だと思ってきた。


でもそれは同時に苦しめる事でもあったのかもしれねぇ。」


「諦めさせるつもり…?」


「それも良いのかもな。」


「ばっかじゃないの!!?」


俺の言葉を聞いて、小池はうつ向きながら肩を震わせてそう大きな声で怒鳴ってきた。


「なら静はどうなんのよ!?その背中を押そうとしてる私は!?もう結果は分かってるんだから全部無駄だって言う訳!?」


叫びながら詰め寄ってくる。


「なっ…。」


「私は嫌!静より先に私が諦めるなんて絶対おかしいもん!そんなの…絶対に間違ってる!結果を見るのも、諦めるのも、静がしなきゃ絶対におかしい!」


「…それでその後どうなってもか?」


「何があっても関係ない。


私は最後まで静を信じる!」


まっすぐに見据える目に迷いはない。


それは悪く言えば無責任なのだろう。


保証も根拠もないのに、無理矢理背中を押してもし駄目だったらどうするのか?


あいつを立ち直らせる事が出来るのだろうか?


結局俺は、今になってそう責められる事が恐くなっただけなのかもしれない。


小池は本気だ。


本気で高橋を信じてるし、その心に迷いは全くない。


だからそう責められた所で絶対に後悔はしないのだろう。


多分そう言う部分が、俺に無くてこいつにある部分なのだ。


合理的な行動を徹底してきた俺と違い、直感的でその時感じた思いだけで突っ走れると言う部分が。


とは言え、そう思えた今でもそれが正しいとは思わない。


でも多分それが今の俺に一番必要だった答えだと思った。


「確かにお前の言う通りかもしれねぇな。


ありがとよ。」


「お礼なんて言わないでよ。


私が敵に塩を送ったみたいじゃない…。」


「…そうだな。」


「ふん。」


一度鼻を鳴らすと、小池はさっさと行ってしまった。


「やれやれ、まさかこいつに背中を押し出される時が来るなんてな。」


頭を掻きながら一人ごちる。


あの時と違って今度は自分がおいてけぼりを食らう形になり、背は小さくても随分と頼もしくなった背中を見送った。



文化祭当日。


この日の自由時間は稔と一緒に回っとった。


「で、どこ行く?どっか行きたいとことかあるんか?」


「え?あ…いやウチは別に…」


「ふーん、じゃあ適当に回るか。」


あの日からずっと稔からの告白の事ばっかり考えたとった。


じゃけど自分なりの答えは一向に出んまま。


隣で一緒に回っとる間も申し訳ない気持ちで一杯じゃった。


体育祭の日に稔があんな事をしたのは多分ウチのせいなのに。


ウチの事を大事に思ってくれとるのに。


何も出来ない自分に嫌気が差してくる。


実際ウチはどうしたいんじゃろう?


稔と付き合いたい?確かに、告白されて悪い気はせんかったけど……。


でもじゃけぇ付き合う?あいつの代わりに?


そんな疑問が、答えも出んまま何度も何度も頭の中をぐるぐると回る。


「美波!」


「ひゃう!?」


頭の中であれこれ考えている時に急に話しかけられ、思わず変な声が出てしまった。


「さっきから何ボーッとしとんじゃ…?返事もずっと適当じゃし。」


「あ、いや、えっと…。」


「まぁえぇわ…。


その、この後さ。


花火があるじゃろ?」


「うん…。」


去年春樹と一緒に見た花火。


あの時の約束も春樹はもうとっくに忘れとるんじゃろうなぁ。


「一緒に見んか?その、屋上で。」


「う、うん。」


こうなるのはなんとなく想像しとった。


じゃけぇウチも覚悟を決めんといけんなと思っとった。


「ごめん稔、先に行っといてくれん?ちょっと一人で考えたくて。」


思ったからこそ、一人の時間が欲しかった。


「ふーん、じゃあ待っとるけぇな。」


それだけ言うと稔は去ってしまう。



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