第三章《8》
摩耶目線。
閉会式が終わる。
式の間、本来なら隣に並ぶ筈の静の姿が見えない事が式の間中ずっと気になっていた。
「何処に行ったのかしら…?」
真面目な子だし、こう言う長くて面倒な式でも普通はサボったりなんかしない筈なのに。
終わった後もそのまま教室には戻らず、静を探す事にする。
とは言え、当てはない。
適当に辺りを歩きながら探していると、校舎裏で泣いている静を見付けた。
「あ、あんたどうしたのよ!?」
慌てて駆け寄る。
「摩耶ちゃん…私…。」
そのまましゃがみ込んで背中を撫でる。
「どうしてかな…?涙、止まらないや…。」
「馬鹿っ!意味も無いのに泣く奴なんかいる訳ないじゃない!」
「そう…だよね。」
「何があったのよ!?」
「私ね…佐藤君が保健室に行くのを追いかけたの。
怪我が酷そうだったから一緒に行ってあげようと思って。」
「それで?」
「そしたら佐藤君…。
違う女子に手当てしてもらってて。
それを見てたら、なんだかいても立ってもいられなくなって。
なんか…涙が止まらなくなっちゃって…。」
思い出して、また泣き出す静。
その言葉と表情から、すぐに私はこうなった理由を察した。
「あんた、それ…。」
「おかしいよね…?私…どうしちゃったんだろう…?」
「おかしくなんかない!」
はっきりと言い切る。
そう言う声は自分でもびっくりするほど大きく、口調もキツくなった。
「…摩耶ちゃん?」
それに一瞬戸惑いながらも、静はその真意を聞こうとしてくる。
「あんたは好きなのよ…。
その…佐藤の事が…。」
そして、察した答えをはっきりと伝える。
「…………え?えぇぇぇぇぇぇぇ!?
私が…?佐藤君の事を!?」
それにし過ぎなくらい動揺しているが、構わず続ける。
「そうよ。
あんた自身が気付いてないだけ!でも心がもう気付いてんの!
だから訳分からない気持ちになったりするの!!」
たまに心が言う事を聞かなくなる。
だから自分が抑えられなくなる。
きっとそれは、そう言う事だからなんだと思う。
そう思った時、一瞬あいつの顔が浮かんで首をブンブンと振る。
あれは違う!そんな訳ない!何より私が人にそんな感情を抱く訳がないじゃないか。
そう無理矢理自分に言い聞かせる。
「そっか…だから私…。」
私の言葉を聞いて、自分でも思い当たる部分があったのだろう。
何処か納得した表情で静はぽつりと呟いた。
「…うん。」
そんな静を見て、何故だか私まで涙がこぼれてきた。
「摩耶ちゃん…。」
「もう!私まで涙が止まらないじゃない!」
きっとこれは友達が泣いてるから悲しいだけだ。
だからこの涙は静の為。
そうに決まってる。
夕方の校舎裏で、私達は二人で泣いた。
春樹目線。
「そうと決まったらさっさと行ってこい。
お前が出した答えを言いに行け。」
「い…いやでも流石に…自分をフッた相手をまだ好きって…。」
ヤスが言う事はもっともだが…そうは言ってもやっぱりまだ抵抗はあるのだ。
「女々しい。
未練がましいってか?」
「うぐっ…!」
実際自分でもそう思っていたとは言え、口に出して直接そう言われると流石にダメージがデカい…。
と言うかこいつ絶対それが分かってて言ってるよな…。
「や、ヤス…お前なぁ…。」
「一途な奴はかっこ良いって言われんのに、フラれた奴が一途に相手を想い続けんのが女々しいだの未練がましいだの言われんのはなんでだろうな?」
「それは…。」
「人が言う定義なんてそう言う曖昧なもんなんだ。
周りにどう言われようが、それでも自分が見つけた名前と定義を信じる事が大事なんじゃねぇの?」
「そう…だよな。
でも…。」
ヤスの言う事が正しいのは分かる。
でも、その為の一歩が踏み出せないのだ。
だからそのまま口ごもっていると、盛大にため息を吐かれる。
「良いからさっさと行け。
いい加減自分から動きやがれ。」
相変わらず言い方は乱暴極まりない。
でもそうやってこれまで何度も背中を押されて、いや…蹴り出されてきたんだ。
こないだだって、そのおかげで高橋さんと仲直りする事が出来た。
そうやって俺は、いつもヤスに甘えていたんだ。
踏み出せない足を、無理矢理にでも押し出してくれる存在を求めていたんだ。
「わ、分かったよ。
ありがとう!」
それだけ言って走り出す。
ここからヤス目線
「やれやれ…行ったか。」
慣れない事をしたからか、頭が痛い。
どうなったか聞くのはメールなり電話なり来るだろうし、最悪明日で良いだろう。
今日はさっさと帰るか。
一瞬体がふらつく。
「やっぱり早く寝るか…。」
春樹目線
ヤスに言われて走っていると、校舎の入り口前に一人で立っている美波の姿が見えた。
「みな!」
呼ぼうとして思わず口を塞ぐ。
一人でいる美波の方に歩み寄る水木の姿が見えたからだ。
多分今日も二人で帰るのだろう。
でも今日はなんだか様子が違う気がした。
そう思っていると、一瞬ちらっと水木がこちらを見た気がする。
「どしたん?」
一方の美波は、俺には気付いてないみたいだ。
「いや、なんもない。
それよりさ、今日は大事な話があるんじゃけど。」
「え、何?改まって。」
言われてキョトンとしている美波。
「美波、ワシはずっと前からお前の事が好きじゃった。」
「…え?」
それを聞いて、美波はさも信じられないと言わんばかりの表情で口ごもる。
「別に今すぐに返事をくれとは言わん。」
「え…あ…うん…。」
時間にして数秒。
美波の顔が本人の実感と共に徐々に赤くなっていく。
それは少なくとも、幼馴染からの突然の告白を嫌がっている様子ではなかった。
「じゃ、帰ろうぜ。
今日は疲れたしのぉ。」
「う…うん…。」
行ってしまう。
でも引き留められずに、ただ呆然とその場で立ち尽くしていた。
「ごめん、ヤス。
俺やっぱり無理だった…。」
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