第二章《2》


何とか無事に山頂にたどり着く。


とは言え、だからのんびり休憩と言う訳にはいかない。


実行委員の俺と高橋さんには、クラスメイトに弁当とペットボトルのお茶を配ると言う仕事があるから…なのだが…。


合計三人分の荷物を持ったせいで既に俺はフラフラ。


それに気を使ってくれてか、今は高橋さんが率先して働いてくれていてる。


「よぉ、ご苦労さん。」


などと澄ました顔で言ってくるヤスにはペットボトルを顔面にぶつけてやろうかと思ったがやめておいた。


一方の小池さんは登り切った達成感で満足そうに伸びをしている。


「案外大した事ないわね!」


「そう言う台詞は自分で荷物を持ってから言えよな…。」


そんな俺のぼやきなど、何処吹く風。


澄ました顔で聞き流して、さっさと弁当を食べ始めた。


くそぅ…!


「やっぱりこうやって皆で何かをするのって楽しいね!


佐藤君はどう?


ちゃんと楽しんでる?」


高橋さん…そんな満面な笑顔で言われたら頷くしかないじゃないか。


畜生、一々可愛いな…。


「う…うん、まぁね。」


とは言え結構疲れはしたが、実際こうして新しいメンバーで一緒に行動する時間を純粋に楽しんでるのは確かだ。


あいつも楽しんでるのかなぁ。


不意に考えてしまう。


「何…?あんたってMなの…?」


などと考えていると、小池さんが呆れた表情で急にそんな事を聞いてきた。


「いや、違うわ!」


「ならやっぱり俺の荷物も持てば良かったのにな。」


「お前なぁ…。」


やっぱりさっきペットボトルをぶつけてやれば良かった。


「まぁ、一応冗談だ。 」


「お前が言うと冗談に聞こえない!


それに一応かよ!」


「あー、あんたらSとMだから仲良い訳ね…。」


そんな俺達のやり取りにため息を吐きながら口を挟む小池さん。


「話を一々そっち方面に持って行くな!」


「ふふふ。」


それを笑って眺めてるだけで止めようとはしない高橋さんはやっぱりSな気がする。


「ちなみに最初に話をそっち方面に持って行ったのはお前だからな?」


「だからお前心読めんのかよ…?」


鋭過ぎてたまに本気で怖くなるんだが…。


「高橋さん、そっち終わった?」


「こっちは全部集めたよ!」


全員があらかた弁当を食べ終わると、男子からは俺、女子からは高橋さんで分担して弁当のゴミを集める。


それを纏めてから、担当の先生に渡せばとりあえずはこの場での仕事は終わりだ。


「よーし、全員食い終わったかー?


そろそろ出発するぞー!」


ようやくそれぞれ集め終わって一息吐いていたところで、先導する教師が叫ぶ。


「えー!もう降りるのかよー!?」


「もう少し休ませろよー!」


それに所々からブーイングの嵐が聞こえる。


ちなみに勿論俺もブーイングをあげてる側だ。


冗談じゃない…。


やっと今仕事が終わったところなのに…。


「えーい!やかましい!


ゆっくりでも良いからつべこべ言わずに降りろー!」


でも異論は認められないみたいだ…。


仕方なく俺達は下山を始める為の準備に取りかかる。


「せっかく落ち着いてたのに…。


まぁ良いわ。


はい、また宜しく!」


ぼやきながらも、またさも当然のように自分のリュックを押し付けてくる小池さん。


「ごめんね、佐藤君。」


そして同じく遠慮がちにリュックを差し出してくる高橋さん。


「あー、俺のも。」


「お前は持て!」


うーんそれにしても謝りつつも持たせる辺りやっぱり高橋さんはSっぽいよな…。


身軽な二人は先々前を歩き始める。


「お前、すっかりパシリだな…。」


取り残される俺の横で、ヤスは呆れ顔でそんな事を言ってくる。


「お前もちょっとは手伝えよな…。」


「だから断るって言ったろ?」


「また即答かよ…。」


「まぁ、合宿の間中ずっと小池とギクシャクしてるよりは良いだろうが。」


「うっ…まぁそれはそうだけど…。」


そう言われると言い返せない…。


実際ヤスが何か言ってくれてなかったら多分そのままだったんだろうし頭が上がらないのはあるが…くそぅ…。


「ま、そう言うこった。


しっかり働けよ。」


とは言え…どうも上手く言いくるめられてる気がしてならないんだよなぁ…。


まぁ良いや…。


「高橋さん、そっち終わった?」


「こっちは全部集めたよ!」


全員があらかた弁当を食べ終わると、男子からは俺、女子からは高橋さんで分担して弁当のゴミを集める。


それを纏めてから、担当の先生に渡せばとりあえずはこの場での仕事は終わりだ。


「よーし、全員食い終わったかー?


そろそろ出発するぞー!」


ようやくそれぞれ集め終わって一息吐いていたところで、先導する教師が叫ぶ。


「えー!もう降りるのかよー!?」


「もう少し休ませろよー!」


それに所々からブーイングの嵐が聞こえる。


ちなみに勿論俺もブーイングをあげてる側だ。


冗談じゃない…。


やっと今仕事が終わったところなのに…。


「えーい!やかましい!


ゆっくりでも良いからつべこべ言わずに降りろー!」


でも異論は認められないみたいだ…。


仕方なく俺達は下山を始める為の準備に取りかかる。


「せっかく落ち着いてたのに…。


まぁ良いわ。


はい、また宜しく!」


ぼやきながらも、またさも当然のように自分のリュックを押し付けてくる小池さん。


「ごめんね、佐藤君。」


そして同じく遠慮がちにリュックを差し出してくる高橋さん。


「あー、俺のも。」


「お前は持て!」


うーんそれにしても謝りつつも持たせる辺りやっぱり高橋さんはSっぽいよな…。


身軽な二人は先々前を歩き始める。


「お前、すっかりパシリだな…。」


取り残される俺の横で、ヤスは呆れ顔でそんな事を言ってくる。


「お前もちょっとは手伝えよな…。」


「だから断るって言ったろ?」


「また即答かよ…。」


「まぁ、合宿の間中ずっと小池とギクシャクしてるよりは良いだろうが。」


「うっ…まぁそれはそうだけど…。」


そう言われると言い返せない…。


実際ヤスが何か言ってくれてなかったら多分そのままだったんだろうし頭が上がらないのはあるが…くそぅ…。


「ま、そう言うこった。


しっかり働けよ。」


とは言え…どうも上手く言いくるめられてる気がしてならないんだよなぁ…。


「やっぱり登るよりは降る方が楽よね。」


「そうだね。


でも足元が悪いから転けないようにね?」


余裕な表情の小池さんに、その手を引く高橋さんが声をかける。


こうやって見るとちょっと仲の良い姉妹に見えなくもない。


いや、やめておこう…。


今不意討ちで鳩尾に正拳突きなんてされたら本気でシャレにならん…。


「大丈夫だってー!…っとっと!」


一方の小池さんは高橋さんの気遣いも虚しく、早速転けそうになっている。


「どんぐりころころ。」


さっきは我慢出来たのだが、それを見て思わず吹き出しそうになった。


「誰がどんぐりよ!?


こいつむかつく!パシリの癖に!」


「パシリって言った!今パシリって言った!!」


「言ったわよ!悪い!?」


「悪いわ!」


「子供の喧嘩かよ…。」


ヤスが頭を掻きながらめんどくさそうにぼやく。


「まぁまぁ、二人共…。」


「高橋、しっかり支えといてやれよ。


こんな場所で本当にどんぐりころころになったらシャレにならねぇからな。」


「あんたまで言うか!」


「あ?言ったっけかな?」


「ムキー!」


降り終えると涼しげな川原の前に出る。


近くにはそこそこの広さのキャンプ場があり、夕食の食材を乗せた車が近くに何台か停めてあった。


「よーし、お前ら!ご苦労さん。


六時までは自由時間だ。


川で遊ぶなり、休憩するなり何ならまた山登りたい奴は登っても良いぞ!」


「誰が登るかよ!」


恐らく全員が思っているであろう気持ちを誰かが口にする。


「ちなみに勉強してくれても良いんだがな!」


「それはもっとやだ!」


本気かどうかは分からないけど冗談に聞こえないから悪意を感じるんだが…。


「自由時間かー。


どうするー?」


説明が終わると、小池さんが聞いてくる。


今の時間は四時過ぎ。


ゆっくりするには充分な時間だが、さて…どうするか。


「私、川原の方に行ってみたい!」


それに高橋さんが答える。


「そうね、ちょっとは涼めるかも。」


二人の行動は決まったらしく、とりあえず残ったヤスに目を向ける。


「ヤス、お前は?」


「俺は寝る。」


そう一言返すと、早速木陰に座って居眠りを始める。


相変わらずぶれない奴だ…。


なら俺は他の二人に付いていくかなと思い、とりあえず汗を拭おうとポケットに手を入れた。


(あ、あれ…?)


そしてそこで異変に気付く。


「佐藤君、行かないの?」


そのまま立ち尽くしていると、気付いた高橋さんが聞いてきた。


「あ、うん。」


「なーにぼけっと固まってんのよ?また何かあった訳?」


それで気付いたらしい小池さんもめんどくさそうに聞いてくる。


「いや…。」


ポケットに入れていた筈のお気に入りのハンカチが無くなっていた。


多分どこかで落としたのだろう。


本来なら別に気にしなくても良いのかもしれない。


無いなら無いで、ただ新しいのを買えば良いだけの話だ。


ずっと捨てられなかったし、この機会に諦めてしまえば良いのだから。


でも、どうにもモヤモヤする。


頭でそう思っていても、探さないと言う選択肢を選べないのだ。


だってあれは…。


「ごめん、二人で行ってきなよ。


俺ちょっと用事が出来たから。」


少し悩んでから、そう言って断る。


「用事、ねぇ…。


まぁ、良いけど。


一応班長なんだからすぐ戻って来なさいよね。」


それに一瞬納得いかない、と言う表情を見せたものの、小池さんは無理に引き止める事はしなかった。


「一応かよ…。


へいへい。」


また登る訳だから一応お茶の入ったショルダーバッグだけを持って、足早に来た道を戻る。


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