第5話 夫婦喧嘩
夫婦喧嘩。
そう呼ぶには少し平和すぎるのかもしれないが。
「瑠衣、あんなこと言ってごめん。気味悪いとはいったけど、それは言葉を間違えただけで…」
「わかってるよ、でも気味悪いって、どういうつもりで言ったの?」
二人はリビングの食卓の椅子に座り、向かい合って話をしていた。
「いやぁ、外国語の、俺達でも何言ってるのか全く分かんない動画をあんな楽しそうに見てる赤ちゃんなんて、なかなかいないじゃん?」
「でも、本人が楽しそうならいいじゃん」
「そうなんだよ?そうなんだけど、蒼太ったら俺にかまってくれないし…、もっと蒼太と話したいのに」
「…それが理由?」
俺と話したいって…?
なんてかわいいやつだ。(お父さん)こいつめ…(お父さん)
しょうがない。今後は勉強ばかりせず、こいつにも構ってやるか。(お父さん)
「もともとの理由はそうだったんだ。んで、蒼太が勉強をやめるタイミングを見計らってたんだけど…、蒼太、たまに大人みたいな顔で笑うんだよ。ニヤって」
「あ…わかる気がする…」
おい。
「だろ?そこがなんか、ほんとに赤ちゃんかぁ?って思っちまったんだよ」
やべ、見られてた。
外国人ネキのおっぱい見てたとき、笑みがこぼれちまったか…。
「でも、あんな言い方はなかったよな。ごめん」
「大丈夫。私もあんなに大きな声出してごめん」
「うん」
どうやら仲直りができたようだ。
だが、この喧嘩の原因は間違いなく俺である。
思えば、お父さん――和人とはほとんど会話というか、戯れはしなかった。
それに、俺は今はこんなんでももともとは大の大人である。
夜泣きもしなければ、人見知りでなくこともない。
「赤ちゃん」にしては、異常なのである。
だが、この二人の若き親は、こんな異常児のことを愛してくれていた。
賢い子なのだと、俺にいつも言っていた。
もうこの二人の中では、俺は賢い子認定されているのだ。
お父さんは家にいるときは1時間に一回くらい俺のことを見に来るし、お母さんに関してはずっと近くにいてくれている。
そして、俺に海外の動画を見せてくれるのは紛れもないお母さんなのだ。
携帯を四六時中貸してくれるのである。
それほどまでに、我が子のことは愛していてくれているのだ。
だが、和人は気味が悪いと言っていた。瑠衣も思っていたことは間違ない。
やはり、気を付けるべきだな…。
1000回後悔した男が歩む人生 ~0歳からのリスタート~ 腰曲 痛男 @koshigaitaiyo
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