第35話 出発
メルが人間の居留地を発見した――
それは信士たちにとって待ちに待った朗報だった。
ただ、信士たちは訓練プログラムを終えたばかりで疲れているので、詳しい説明は後日と言う運びになった。
久々にイザヴェルから現実世界へと戻って来た信士たちは、ゆっくりとした食事と入浴、そして睡眠をとることが出来たが、やはり思った以上に疲れていたらしく、全員がほぼ丸1日以上寝てしまった。
で、疲れも取れて気分も一新したところで、部屋でメルから詳しい話を聞くことになったのだが。
「ホントに街が見つかったんだね?」
ずいっと上体を前に出し、メルに顔を押し付けるようにしながら陽菜が尋ねる。彼女にとっては待ちに待った、まともな異世界の街だけに逸る気持ちが抑えられないらしい。お目目が期待と興奮でキラキラだ。
『はい。複数の街の存在を確認しました』
「やったー!」
メルが認めると子供みたいに万歳しながら飛び跳ねる。
「嬉しそうだね、ハルナちゃん」
「当然だよ! 異世界転移から1年以上も待ってたんだから!」
不思議そうなセラに、陽菜は鼻息荒く捲し立てた。
確かに、異世界物のラノベでは異世界転移直後に町を見つけるというのが定番だ。であるのに、信士と陽菜は異世界転移直後から魔境を彷徨った挙句、オーバーテクノロジー満載の無人都市で1年も訓練に費やしたのだ。その間、ファンタジーオタクの陽菜としては、一刻も早くこの世界のことを色々と見て回りたいという気持ちをずっと押さえつけていただけに、喜びを爆発させるのは無理からぬことだろう。
「……タイミングが良すぎるよな?」
だが単純なファンタジーオタクの陽菜とは違い、信士の方は少々懐疑的だった。
「アーク・デーモンを倒して訓練終了したと同時に、居留地を発見なんてさ」
「「あ……」」
その言葉を聞いて陽菜とセラも気づいた。
確かにタイミングが良すぎる。
「メル。お前、実は結構前から見つけてたんだろ?」
『はい』
「「ええッ!?」」
あっさり白状したメルに、陽菜とセラが揃って声を上げた。
『皆さんが訓練中であった為、余計な情報を与えては訓練の妨げになると判断し、報せるのを控えていました』
「……ま、そんなとこだろ」
イザヴェル内では通常空間の30倍の速度で時間が流れる。信士たちはそこで1年かけて修行していたわけだが、実際の空間では12~13日ほどしか経っていない。だがメルは数十もの偵察機を飛ばして空から居留地を探していた。その事を考えれば、信士たちが訓練している間に居留地を発見するのはある意味、当然の確立だ。
「実際、訓練中に知ったら雑念が入って集中できなかっただろうしな。某ファンタジーオタクなんか特に」
「あぅ……」
ジト目で信士に睨まれて、陽菜は恥ずかしそうに小さくなった。
実際、もしそうなっていたら集中できなかっただろうという自覚があったので、なにも言えないらしい。メルの判断は的確だった。
「それで、どんな感じの場所なんだ?」
『こちらをご覧ください』
部屋に備え付けられていたテレビが起動した。
写し出されたのは海辺に造られた市街地を上空から撮影した映像だった。初めて見る異世界のまともな街を、陽菜だけでなく信士も食い入るように見つめる。
規模としてはそれほど大きくはないように見える。ちょっとした地方都市くらいだろうか。それでも無数の家や建物が立ち並び、多くの人がその合間を行き交っているのが映像越しにもハッキリ見て取れる。間違いない。ちゃんとした住民がいる街だ。
「?」
ややあって、2人はほぼ同時にその街の違和感に気付いた。
「……思ってたのと違いな」
「うん。なんかすごく近代的?」
そうなのだ。中世ヨーロッパみたいな街並みを想像していたが、上から見た分にもそれとはかけ離れた、近代的な街並みであることが判る。さすがにリア・アンディールの街には遠く及ばないが、それでも地球のそれと比べても遜色ない街だ。道路はきちんと舗装されているし、立ち並ぶ建物もコンクリートっぽいもので作られているように見えるし、明らかにビルとしか思えない巨大な建造物も見受けられる。
「車が走ってる……」
唖然とした顔で陽菜が呟いた。
道路を盛んに行き交っているのはどう見ても自動車だ。もし馬車なら馬が曳いているはずだが、それらしきものは見受けられない。地球のそれと同じような自動車と思しき乗り物が何台も走っているのがハッキリ判る。
『どうやらこの時代の人々は大陸の南端――ガリア山脈と呼ばれる高山地帯の向こう側、海岸線に沿うようにして数百人から数万人規模の居留地を作って暮らしているようです』
メルの説明と共に他の街や集落の映像も一緒に映し出された。規模こそ違うものの、どの居留地の建物も地球とほぼ同レベルの建築技術で作られているように見える。
『人口は一番大きい街で約5万人程度。全体でも20万人ほどです』
「随分と少ないな」
人口5万人と言えば、信士や陽菜が暮らしていた高山市とほぼ同じくらい。当然ながらかなりの田舎である。それを含めて人口が20万人程度しかいないとなると、ちょっとした地方都市くらいの人数しかいないことになる。
『おっしゃる通りです。しかし、いくつかの街には空港や港湾施設が存在し、外海からの飛空艇、外洋船の入港が確認されています』
「飛空艇!? どんなの!?」
ファンタジーでは定番ともいえる乗り物に、再び陽菜が興奮し出した。そんな彼女の要望に応えるように画面に飛空艇の画像が写し出された。
「……思ってたのと違う」
見た途端にテンションダダ下がりになってしまう陽菜。
ラノベなどでよくあるのは、木製の帆船にプロペラが付いているようなレトロなデザインの船であり、陽菜もそっちを期待していたのだろうが、実際に映し出されたの飛空艇は金属で出来た未来的なフォルムをしており、どちらかと言うと宇宙船に近い姿をしている。
「……随分、古いデザインに見えるんだよ」
「「え?」」
ポツリと呟かれたセラの言葉に、信士と陽菜はお互いに顔を見合わせた。どう見ても未来的なSFっぽい船なのだが?
『はい。セラの言う通り、アンディール王国で使用されていた飛空艇に比べ、使用されている技術、性能共に遥かに劣っていると思われます』
「あー……」
よくよく考えてみれば当然の意見だった。画面に映し出された街は確かに地球のそれと遜色ないレベルに見えるが、リア・アンディールの街とは比較にならない。当然、技術面だって同じなはずだ。なにしろ2万年前の都市を一切、風化させることなく保存できるほどのオーバーテクノロジーがあるのだから。なら、当時の技術で作られた飛空艇といまの飛空艇、優れているのはどちらかなど考えなくても判る。その時代の人間であるセラから見れば、さぞ古臭く見えるだろう。
「ということは、現在のこの世界の技術力は、アンディール王国が栄えていた頃のそれよりも大幅に後退しているってことか?」
『居留地を見る限り、その可能性が高いと思われます。詳細は不明ですが……』
科学技術というものは絶えず進歩していくものだ。地球の歴史がそれを証明している。一度確立し、高い水準にまで達した科学技術が退化したり、失われることなどまずあり得ない。もちろんそれは地球の常識を踏まえての考察だったが。
しかしこの世界に置いては、超高度な科学技術と文明レベルを誇っていたであろうアンディール王国は滅び去り、当時と比べて技術力は格段に劣っているという。
いったい、この世界になにが起こっていたのか? 信士としてはとても気になるが、いまは関係ないので歩とまず棚上げする。
「取り合えず、目的地は決まった。メル、ここから最寄りの街までどのくらいで行ける?」
この城に設置されている転移装置を使えば、ここから半径1000レーメまでの距離に転移可能という話だった。そこからは徒歩で街まで移動するしかないが、場所が判ればなんとかなるはず。
『転移可能な限界まで送ったとして、皆さんの脚ならばそこから最寄りの街まで徒歩で20日程度で着けると思われます』
「遠いわッ!」
想像以上の距離に信士は思わずツッコミを入れた。
徒歩20日。魔物の巣窟である魔境をそれほど長期間かけて移動するのは、いくらなんでも現実的とは思えない。
『御心配には及びません。私の方で移動手段を用意します』
「移動手段?」
『はい――』
その後、細々とした話し合いを行った結果、信士たちは今日中に準備を整えた上で、翌日に出発することにした。
★
「んじゃ、準備は良いな?」
「オッケー」
「万端なんだよ!」
ぷるぷる~!
祭壇のような形状の転移装置を前に、信士はいま一度、仲間たちに確認を取ると全員から良しの返事が返って来た。
短いようで長い間過ごしたアンディール王城や、メルとも今日でお別れだ。
一旦は、だが。
「でも、いいの、メル? こんなにたくさんアイテムとかもらちゃって?」
『もちろんです』
陽菜が遠慮がちに尋ねると、メルからは即座に肯定の返事が返って来た。
そうなのだ。改めて外界へと旅立つ信士たちに、メルは城に保管されていた様々なアイテムや魔導具を提供してくれた。
例えば肉体の欠損すら修復してしまうポーション。
ステータスを大幅にアップさせる装備品。
伝説級の武器に錬金素材。
空飛ぶ乗り物。
エトセトラ……
それこそ宝の山を差し出して「好きなだけ持っていけ」と言わんばかりに。もちろん遠慮なく頂くことにした。<無限収納>のお陰でどれだけ大荷物でもまったく嵩張らないので。
『最後の王より、<エクス>に可能な限りの支援を行うよう仰せつかっていますので』
「至れり尽くせりだな。感謝するよ」
あまりにも贅沢な支援振りに、信士も感謝を通り越して少し苦笑気味だ。
「で、この『キューブ』だが……」
そう言って信士がメルの前に差し出したのは、真っ白な結晶のようなもので出来たキューブ状の物体だった。
「ホントにこれを使えば、いつでもここへ転移できるのか?」
『はい』
メルの話では、このキューブなる物は魔力を有するものであれば誰でも転移魔法を使用可能にしてくれるアイテムなのだそうだ。
『ご説明した通り、半径100リム圏内であれば一瞬で転移可能ですが、それ以外へ転移する場合は座標の入力が必要です』
説明によれば、このキューブは短距離転移と長距離転移の二種類の転移魔法が使用できるらしい。
ちなみに「リム」と言うのは以前説明に出てきた「レーメ」と同じくこの世界における長さの単位で、0.1レーメ=100リムとなる。地球での距離に置き換えればだいたい120メートルくらい。つまり1レーメ=1.2km程度の感覚だ。
使い方は簡単で、転移したい場所をイメージしながらキューブを手に持った状態で「転移」というコマンドを唱えれば、その場所に転移できる。一瞬で、だ。ただしこれは半径100リム圏内の短距離転移の場合だけ。
長距離転移の場合は、キューブを作動させた際に表示される立体画面に、転移したい場所の座標コードを入力しなければならない。注意しなければならないのは、座標コードを1つでも間違ってしまうととんでもない所に転移してしまう場合があるということ。地面や壁の中と言った物質内に転移することは無いのだが、空中や水中に転移してしまうことはあり得るので気を付けるよう、メルからは念押しされていた。
ちなみに座標コードは、その場所でキューブを起動させた際にキューブ自体が自動的に計測して表示してくれる仕組みだ。それをメモするかして覚えておけば、キューブの長距離転移システムを使えばいつでもその場所に戻って来れる。
座標の計測と暗記が必要なため、実質的には一度行った場所にしか飛べないというわけだ。
ちなみにこのキューブを最初に渡された際、憧れの転移魔法が使える! とはしゃいでしまった陽菜が調子に乗って使いまくった結果、王城屋上付近の空中に転移してしまい、危うくアイ・キャン・フラーイしかける事件が起こった。事前にメルが注意していたにも拘らずだ。危機一髪でセラが飛行魔法を使って助けてくれたのだが、その件があってキューブは信士が管理、使用することになった。セラでも良かったのだが、彼女は<無限収納>を持っていない為、万が一、失くしたり落としたりしてしまうこともあり得るので、普段は信士が<無限収納>で管理すると決まった。当然だが陽菜は遺憾の意を示したが、無視された。
まあ早い話が、このキューブがあればいつでもリア・アンディールに帰って来れるということだ。
『現存するキューブはこれ1つですので、紛失、破損には充分注意してください』
「了解だ」
そう言って信士はキューブを<無限収納>へしまった。
このアイテムは間違いなく、今後の自分たちの生命線になると信士は確信していた。メルの言う通り、絶対に無くしたり、壊したりするようなことがあってはならないので細心の注意を払おうと心に決める。
「ちなみにこのキューブって、アンディール王国ではありふれた物だったの?」
興味を惹かれた陽菜がメルに尋ねた。
『ありふれていたと言えるほどではありません。極めて高度な技術や素材で作られている為、元々少数しか作られておらず、限られた資格を有する者にだけ使用が許されていました』
「なるへそ」
実際、こんな物がごくありふれていたのなら社会システムが崩壊してしまう。誰でもどんな場所にでも転移し放題とか怖すぎる。利便性からいかにも貴重品って感じだし、さらに使用者を厳選するのは当然と陽菜も納得した。
『それでは、準備はよろしいでしょうか?』
「ああ、世話になったな、メル」
「色々と助けてくれてありがとう!」
「感謝するんだよ!」
ぷるぷるー!
なんだかんだでメルには物凄く助けられた。もしメルが居なかったら信士たちはここにはいなかっただろう。
信士たちが礼を言い終わった直後、転移装置に刻まれた魔法陣が青白い輝きを放ち始めた。
『皆さんが無事に使命を果たし、ここへ戻って来れることを祈っています』
メルの言葉を最後に、信士たちの視界は真っ白に染まった。
★
信士たちの視界を取り戻した時、そこに写っていたのはアンディール王城ではなく、この世界にやって来た直後にいた、魔境の一角だった。
「おー、なんか凄く懐かしい光景に見えるね!」
「同感だ」
はしゃぐ陽菜に信士も感慨深げにうなずいた。
彼らが転移させられたのは小高い山の頂上付近で、緑の乏しい荒野とそこを闊歩する魔物たち。その上空に風船の如く浮かんでいる浮き島が一望できた。
時間的には信士たちがこの世界にやってきてからまだ十数日しか経っていないが、時間加速空間であるイザヴェルで修行してた信士たちにとっては1年以上ぶりに見る景色なのだ。
「……」
2人に背を向けて、どこか寂寥感を漂わせて荒野を見渡しているのはセラだ。2万年前の、アンディール王国が滅びる前の人間であり、記憶を失っているとはいえ、目の前に広がる光景が在りし日のそれとはかけ離れていることは理解できるのだろう。
「セラちゃん……」
「大丈夫なんだよ、ハルナちゃん。私はもう大丈夫!」
陽菜が言い終わる前にセラは笑顔で振り返った。
「さあ、さっそく出発するんだよ!」
ふんす! と鼻息荒くセラは声を張り上げた。どこか無理をしているような気はしたが、必要以上に気に掛けるのは本人の為にもならないだろう、と信士と陽菜は口をつぐんだ。
「判った。じゃあ、行くか」
そう言って信士は自身の<無限収納>からある物を取り出した。
一見するとバイクのように見える乗り物だ。しかしバイクにあるはずのタイヤが存在せず、あろうことか持ち上げている訳でもないのに宙に浮いていた。鏃を思わせる鋭角なフォルムを構成されているパーツは黒く塗装されており、どことなくカラスを連想させる。
その正体は『飛空騎』と呼ばれるアンディール王国時代の乗り物で、実は魔力を消費して動く魔導具の一種なのだそうだ。その名が示す通り空飛ぶバイクといった乗り物で、最大3人まで搭乗することが可能。しかもこれは戦闘、偵察用に開発されたタイプで、より高速で飛行することが可能な他、いくつもの武装や防御装置なども付随されている。
先述通り魔導具である為、使用するには予め魔力を充填しておく必要がある。充填できる魔力の最大量は20000ほどで、一度満タンまで魔力を充填すると2日は飛び続けられる。
メルの話では、アンディール王国が栄えていた時代にはごくありふれた乗り物だったというから、当時の技術力の凄さが伺える。
現在、信士たちがいる場所から最寄りの街までは歩いて20日は掛かる。その為にメルが用意してくれた移動手段がこの飛空騎だった。これを使えば1日足らずで辿り着けるだろう、とメルは話した。
ただしこれはアンディール王国時代の乗り物であり、現代ではオーバーテクノロジーであろうことが予想される為、決して現地の人間には知らせないようにと念も押されていた。
街の詳しい位置も教えてもらっているので、少し離れた場所まではこれで移動し、あとは徒歩で街まで行くつもりだ。
あと、運転するのは信士だ。この中で一番<操車>スキルが高く、<立体軌道>や<空間把握>といったスキルを有していることに加え、スピード重視の戦闘スタイル故に高速移動には慣れているので無難な人選だ。事前に練習した際も一発でコツを掴んでスイスイと乗り回していた。
例によって陽菜が運転したいと駄々をこねたが、先述のキューブでのやらかしがあったので信士とセラ、挙句にメルにまで揃って却下されていた。
「じゃあ乗って……って、どうした?」
飛空騎に跨って早速出発しようとした信士だが、何故か陽菜とセラは後に続かず、お互いに真剣な表情で向かい合っているのを見て眉を顰めた。
「「最初はグー! ジャンケン、ポン!」」
「あん?」
どういう訳かジャンケンを始めてた陽菜とセラに、訳が判らない信士は首を傾げてしまった。そんな彼を他所に数回にわたってあいこが続いた結果……
「アイム・ウィナー!」
「負けちゃったんだよ~……」
……陽菜が勝利し、負けたセラはがっくりとその場に崩れ落ちた。
「なにやってんだ、2人とも?」
「信士君は気にしなくて良いことだよ。あ、やっぱり気にしてくれた方がいいかな?」
「どういう意味だよ?」
何故ジャンケンなどしているのかさっぱり判らない信士だったが、陽菜から返って来た答えはさらに訳が判らないものだった。だが陽菜は質問には答えず溌溂とした足取りで信士の後ろに腰掛け、セラはとぼとぼとそのさらに後ろに座る。
「じゃあ、改めてしゅっぱーつ!」
「……ッ!?」
そう言うや陽菜は信士のお腹に手をまわして背中に抱き着くようにしてしがみ付いた。
ちなみにいま信士たちが着ている服は、この世界に飛ばされたときに着ていた私服――つまり薄手のノースリーブシャツだ。それで背中に抱き着かれると、男としては少々困った状態になるわけで……
「なあ陽菜……ちょっと強く引っ付きすぎじゃないか?」
「だって空を飛ぶんだし、落ちないようにしっかりくっ付いてないと!」
「いやまあ、それはそうなんだが、そこまで強く抱きつかれると色々と……」
「あててんのよ」
「……確信犯か」
はあ、と信士は諦め気味に嘆息を漏らす。けどまあ恋人であるわけだし嬉しくないと言えば嘘になるが、さすがに少々恥ずかしいというか、不意打ちと言うか……
「むー」
と、なにやらその後ろで不満げに頬を膨らませているセラが1人。
「ハルナちゃん、ちょっとくっ付きすぎじゃないかな? かな?」
「彼女特権。あと勝者特権!」
「む~、後で交代だからね!」
その短いやり取りで、さっきなんで陽菜とセラがジャンケンをしていたのか、信士はようやく理解した。そんな信士の頬を、陽菜の頭の上にいたクロがつんつんと突っついてくる。
「どうした?」
ぷるぷる……
がんばれ、と言わんばかりに肩を叩かれた。気遣いが出来るスライムである。
「……」
スライムに気遣われてしまった信士は、酷くやる瀬無くなった。
「ああもう! 行くぞ、3人とも!」
これ以上のやり取りを投げた信士は、やや強引に飛空騎を始動させた。地球のバイクのエンジン音とは違う甲高い駆動音を発して飛空騎が浮かび上がる。
「んじゃ、改めて出発だ!」
「「おー!」」
ぷるぷるーッ!
3人と1匹を乗せた飛空騎は、魔境の空へと舞い上がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます