第16話 恩寵
「な、なんだコレ!?」
いきなり眼前に現れた立体画面に信士は目を丸くして驚愕する。
「もう! だからステータスだよ、ステータス! 信士君のステータス!」
「オレの……ステータス?」
「そうだよ。ちゃんと一番上に名前が書いてあるでしょ!?」
言われてみれば確かに立体画面の最上段には名前があり、ご丁寧に種族や年齢まで書かれている。まるでゲームみたいに。
信士も中学生だけあってTVゲームをやったことならあるが、ほとんどは戦国時代を舞台にしたシミュレーションゲームか、戦国武将で無双するアクションゲームだった。そういったゲームにもステータスはあったし、陽菜と付き合うようになってから彼女の勧めで最近になってRPGゲームをやり始めていたので理解はできる。
あと、陽菜からはステータスが存在する異世界物のファンタジー小説の話を嫌というほど聞かされていたし、彼女と付き合うに当たってその手のジャンルのラノベも読み始めていた。
そういう事情もあり、戦国マニアな彼でもどうにか理解は出来たが、いざ目の前にしてみると信じられないという気持ちの方がずっと大きい。
「マジか……こいつが表示された、ってことは……」
「間違いなく異世界ってことだね!」
マジかぁ、といった感じの信士とは対照的に、陽菜は子供みたいに目を輝かせていた。
異世界オタクである彼女にとって、異世界転移というのは夢にまで見た世界なのだ。そこに来れたのだからある意味、当然の反応だろうが。
「向こうでは何度ステータスを見たいって思っても出て来なかった。たぶん世界の法則が違うんだと思う」
「そういえば、
信士たちが食べていたエリクス・キャンディには、いくつも「~アップ」と書かれていたものがいくつもあった。どれも信士が見ているステータスに書かれている項目に一致する。やはりアップ系の飴はステータスの数値を上げるものだったらしい。そのことから、異世界オタクである陽菜は自分たちにもステータスが存在しているのではないか、と考えていた。
ラノベでは、ステータスを見たいと念じれば出てくるという設定がよく使われていた為、陽菜は幾度となく自分のステータスを見ようと試してみたのだが、一向に出てくる気配がなかったので諦めていたのだ。
それがこの世界に来た途端に現れるようになった、と。
「それだけじゃないよ。スキルの方もエリクス・キャンディと同じだよ!」
陽菜の言う通り、スキル欄に羅列されているスキル名もエリクス・キャンディのそれと同じだった。
「そう言えばそうだな……」
すでに現実を受け入れている陽菜とは違い、信士は未だ信じられないと言った様子だが、こうして目の前に
こういう時は頭の切り替えが大事だ、と信士は頭を振って思考を切り替えた。
「確かに見たことあるスキルばかりだけど……見覚えのないスキルもあるな。<刀術><剣術>はともかく、<二刀流>ってのは知らないぞ?」
「それなんだけど――」
信士の疑問に、陽菜が空かさず自分の意見を答えた。
「見覚えのないスキルは私たちが独自に練習して習得したものだと思う。ここに表示されてるのは、あくまで私たちが持っている技術の種類と熟練度を現したものなんじゃないかな。数字が大きいほど熟練度が高い、みたいな」
「なるほど……」
陽菜の持論に信士も納得した。
実際、信士は<刀術>を練習する一環として二刀流を試していた。最後の方はかなり様になっていたという自負もある。
学術系のスキルは学校の授業関連で習得したものだろう。<日本語>の熟練度が600近いのに対し、<英語>が50しかない時点で成績が想像できる。<木工>に関しては趣味程度でやっていた覚えがあった。<水泳>は学校の授業でやっていたし、スキルの訓練の一環で琵琶湖横断とかやっていたからその時に上がったのだろう。<操車>は自転車だろうな……
「けどこの<万能翻訳>ってのは明らかに違うよな? エリクス・キャンディにもこんなの無かったはずだ」
さりげなくユニーク欄にある<万能翻訳>。これは明らかに自力で習得したスキルではない。エリクス・キャンディで身に付けたものでもない。もしこんなのがあったら絶対に覚えているはずだ。
「世界が違うなら、当然、言語も違う」
再び陽菜がいた。
「別の世界の人間を異世界に送り込むなら、言語問題を見据えて意思疎通を可能にするスキルを与えておくのが当然だよ」
「つまり、これは人為的なものってことか?」
「
「……あの樹か」
陽菜は真面目な顔で頷いた。
ここへ飛ばされる前に送られた不思議な空間――そこで見た巨大樹を思い出す。
「あの樹がオレたちをこの世界に送り込んだのか?」
「判んない。でも私はそう思ってる。実際、あの樹が出した光に触れた時、なんか思念みたいなのが頭の中に流れ込んできたし」
「ああ。世界の危機だとか、魔王とか」
「それそれ!」
「つまり、魔王からこの世界を救ってください、って趣旨か?」
「それはまだ判んないよ。けど、もしそうならこれは『異世界転移』じゃなくて『異世界召喚』だね」
「異世界召喚って、人間か神様が行うものだってお前言ってなかったか?」
「事実は小説より奇なりだね。ん? この場合、
「?」
一瞬、陽菜がなにを言っているのか判らなかった信士だったが、「奇」と「樹」を掛けてた駄洒落だと気付くまでにたっぷり10秒掛かった。
滑ったことに気付いた陽菜の顔は当然、真っ赤になる。
「と、とにかく、<
「オ、オーケー」
恥ずかしさを誤魔化したいのか、陽菜はやたら大きな声で叫ぶように言った。
勢いに押された信士も頷く。
「じゃあさ、最後のこの『恩寵』ってのもあの樹が与えてくれたものだと思うか?」
眼前のステータスにはスキル以外にもう1つ、見覚えのない項目があった。
一番下のある『恩寵』だ。
「間違いないと思うよ? 恩寵って神様が与えてくれる、いわゆる『神の恵み』って意味だしさ」
「つまり、この世界の神様は樹の姿をしているってことか?」
「さあ? でも、パンダの姿よりは良いんじゃない?」
「何故パンダ……?」
良く判らない陽菜のセンスに首を傾げつつも、ここで考えても仕方ないか、と信士はいったんこの疑問を棚上げにした。
神自体より、いま気になるのは恩寵の方だ。
「それよりどんな効果があるのか、ってことの方が重要だよ」
陽菜も同じ意見だったようだ。
「信士君の恩寵は<
「ああ。確か、
そこでふと、信士はおかしなことに気付いた。
何故、陽菜は自分の恩寵の名前が判ったのか?
「陽菜お前、オレのステータスが見えるのか?」
「見えるよ?」
あっけらかんと陽菜は即答した。
「なんで見えるんだ? オレはお前のステータスは見えないぞ?」
「ああ、それはたぶん、信士君が<能力看破>を使ってないからだよ」
「<能力看破>?」
「そう。私を見ながら『ステータスが見たい』って念じてみて」
言われた通りにしてみると――
名前:
年齢:15
性別:女
種族:人族
天職:大剣士
第二天職:魔法戦士
総合力:197700
生命力:17500
魔力:18000
体力:15000
筋力:50000
敏捷:15000
耐久力:14000
魔法力:14200
魔防力:15000
技術力:20000
精神:19000
状態:良好
スキル
物理技能系
<大剣術680><歩法320><格闘術300><剣道300><立体起動700><悪路走破350><隠形560><潜伏510><隠蔽500><調理610><連携700><回避490><威圧590><手加減520><水泳400><操車200><清掃420><護身術300>
魔法技能系
<魔力制御800><魔力強化510><魔力放出600><魔力付与600><魔力回復500><魔法剣700><火魔法610><風魔法400><土魔法470><水魔法510><雷魔法680><氷魔法430><物理魔法450><光魔法650><闇魔法400><空間魔法480><幻影魔法500><並列発動500><複合魔法300>
身体系
<怪力750><身体強化580><闘気620><跳躍400><俊足480><持久走400><望遠420><暗視320><聞き耳390><生命回復740><頑強490>
感覚系
<空間把握500><気配遮断580><気配察知600><危機察知510><敵意感知750><悪意感知800><虚偽看破780><悪意感知790><毒感知500><ウィルス感知450><精霊感知400><魔力感知500><生命感知600><罠感知650><臭気感知560><病魔感知500><能力看破600><思考加速400>
耐性系
<苦痛耐性800><毒耐性590><病魔耐性420><ウィルス耐性580><精神耐性850><物理耐性700><苦痛耐性510><麻痺耐性700><石化耐性620><呪詛耐性500><火耐性620><風耐性390><土耐性420><水耐性560><雷耐性550><氷耐性620><物理耐性510><光耐性580><闇耐性700><空間耐性630><魔法耐性500><銃弾耐性710><光線耐性800><爆撃耐性600>
学術系
<日本語570><英語150><暗記360><速読500><算術410><暗算490><演算500>
ユニーク系
<無限収納-><万能翻訳->
恩寵
<
「おお、見えた」
「言い方がヤらしい!」
「す、すまん」
確かに女の子に対して使うべき言葉ではなかったかもしれない、と反省する。
「<
「私は知ってるよ」
またも陽菜はあっけらかん、と答えた。
「パーシアスはギリシャ神話に出てくる英雄で、日本では「ペルセウス」っていう名前の方が知られてるかな? メドゥーサを退治したことでも有名だね。ヘビの怪物を討伐したという意味ではスサノオと同じだよ」
「……よく知ってるな」
「ファンタジーオタクなら、北欧神話、ギリシャ神話あたりは押さえとかないとね!」
「そ、そうか……」
まあ、戦国マニアの自分が突っ込むのもあれなので、信士は曖昧に返事をした。
「これってどういう効果があるんだ?」
「さあ? 使ってみれば判るんじゃない?」
「そりゃそうだけど、どうやって使うんだコレ? っていうかそもそも使えるのか?」
「判んないけど、スキルを使う要領でやってみたら?」
半信半疑ながら信士はやってみることにした。
スキルの使い方ならこれまで幾千と繰り返してきて熟知している。それと同じように心中で<
(あ――)
脳裏に浮かび上がってくるイメージ。
まるで最初から知っていたかのように、恩寵<
それに抗うことなく従い、信士は徐に右手を突き出して――
「<
まるでエコーが掛かったかのような不可思議な声と共に、彼の手に光の球が現れるや、それは一瞬にして形を成し、一振りの刀となった。
「刀?」
信士の手に現れた刀を見て、陽菜が首を傾げた。
「これが恩寵?」
「みたいだな……」
柄巻きは白く、刀身を収めた鞘は漆黒。鍔は金色。一見するとごく普通の日本刀に見える。試しに少しだけ抜いてみる。露になった刀身を見て、信士と陽菜は思わず背筋が冷たくなった。
特になにかがあったわけではない。一見してごく普通の太刀だ。信士自身がこれまで何度も<錬成>で作ってきた刀と同じに見える。
それでいながら、この刀には<錬成>では決して出すことのできない、得体の知れない「なにか」を感じるのだ。
<
壱の型・ヤマト Lv1
<ステータス上昇100><刀術上昇100><敏捷上昇100>
「は?」
眼前にいきなり現れた立体画面に、信士は思わず間の抜けた声を漏らした。
「どうしたの?」
「こ、この刀、レベルとスキルがある!」
「え?」
物にスキルが宿っているという予想外の出来事に、陽菜も呆気にとられた顔になる。いや、そもそも恩寵を使って現れた時点でただの刀ではないが。
「待てよ……そういえば、恩寵自体にもレベルがあったな」
再度ステータスを見返してみると、確かに<
「多分これって、使用を重ねて経験値を貯めることで能力やスキルが上昇していくんじゃないか?」
「刀自体が成長するってこと?」
「たぶんな。こればっかりは実際に使ってみないと判らないけど……取り合えず武器を確保したってことで、いまは良しとしよう」
「……そうだね。ここで考えていても仕方ないし」
答えを知っているわけでもないし、この場で判らない者同士があーだこーだ言っていても始まらない。攻略本など無いのだから、実際に使って答えを導き出すしかない。
「んじゃ、次は陽菜の恩寵も見せてくれ」
「りょーかい!」
快活な返事をした後、陽菜は目を閉じて「んん~」と唸る。
そして、両手を天高く掲げて――
「<
瞬間、彼女の手に光の剣が現れた。
信士の<
(光魔法? いや違うな。魔力を感じない)
これがもし魔法であれば<魔力感知>が反応する。だが、陽菜が出した白光の剣に<魔力感知>はまったく沈黙していた。
「陽菜、それは……陽菜?」
そこでようやく信士は陽菜の様子がおかしいことに気付いた。
彼女は自ら出した光の剣を、瞬きすら忘れて呆然と見いたままなのだ。
「……………………<
剣を見つめている陽菜の目から、知らず涙が零れ落ちた。
「これは……お母さんの……リスティの力だ!」
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