第14話 難攻不落の美少女と魔性の美少女①
咲哉と詩織が水族館デートをし、詩織が咲哉を惚れさせる宣言をした日の翌日。学校に行くためいつも通り朝の支度を整え制服のブレザーを羽織った咲哉が、家の戸締りをしてからアパートの階段を下りていくと――――
「ふわぁ……って、え、詩織!?」
「おはようございます、咲哉君。これから学校だというのにあくびですか?」
そう言って呆れながらもどこか可笑しそうにクスッと笑みを溢した詩織の姿が、アパートの下にあった。少し肌寒くなってきたからか、いつも制服のプリーツスカート伸したからスラリと伸びているおみ足は、黒いタイツに包まれている。
「えっと……どうして詩織が?」
「あら、一緒に登校するために彼氏の家の前で待っていたら変ですか?」
「いや、変じゃないけど……どうして急に……」
「昨日言ったはずですよ、貴方を惚れさせると。こうした小さなことの積み重ねが、徐々に咲哉君の気持ちを私に向けさせていくのです」
「……はたしてその作戦は本人と前で言って良いことなのだろうか……」
咲哉は曖昧な笑みを浮かべながらも「じゃ、行こっか」と、詩織と並んで歩き出す。
「けど、これからも一緒に登校するんなら、明日からは俺が迎えに行くよ」
「いえ、そこまでさせるわけには……これは私が勝手にやっていることですから」
「ほら、そういうところだぞ」
咲哉は半目を作って詩織に人差し指を向ける。
「何でも自分一人でやろうとするな。俺の前で完璧である必要はないって言っただろ」
「咲哉君……」
「まぁ、それじゃお前が納得しないだろうから交互にしよう。明日は俺が迎えに行くから、明後日は詩織が来てくれ」
「そ、そういうことなら……」
昔から何でも一人でこなしてきたために、人に頼るということに慣れていない詩織は、若干戸惑いの色を見せながらも咲哉の言葉に納得する。そして、詩織自身咲哉が自分のためを思って言ってくれていることは理解しているので、どこか気恥ずかしさを感じてしまっていた。それこそ、今まで誰かに気遣われるなどということはなかったのだ。
(何でも一人で完璧に出来るっていうのも、考え物だな……)
咲哉は横目で詩織を盗み見ながらそう思った。
そして、何気ない話をしながら二人で高校の校門前まで来たとき、反対方向からハーフアップにされた亜麻色の髪をふわりと揺らす少女――真歩がやって来た。
咲哉の表情に動揺の色が滲み出る。それに気付いた詩織は、咲哉の片手を取りそっと「大丈夫です」と呟いて落ち着かせる。そんな二人の正面に立った真歩が、柔和な笑みを浮かべて手を挙げた。
「あっ、おはよ~。二人一緒に登校だなんて珍しいねぇ~?」
「まぁ、恋人ですからね。これからはなるべく一緒にいようかと思いまして。目を離していると――」
詩織がスッと目を細めて真歩を睨む。
「――悪い虫が寄ってくるかもしれませんから」
一瞬真歩はキョトンとしたが、すぐに笑顔を取り戻す。
「あはは、そうだねぇ~。三神君ってカッコいいから、しおりんも気を付けないと誰かに掻っ攫われちゃうかもよぉ?」
今度は真歩が詩織に意味深な笑みを見せたあと、咲哉にウィンクを飛ばす。その瞬間咲哉が眉をピクッと動かすが、詩織が一歩咲哉の前に出て庇うように立つと、腕を組んで言う。
「ご忠告ありがとうございます。ですが、出来ればもう少し早く言って欲しかったですね。なんせ、一昨日咲哉君がどこかの誰かさんに寝取られそうになったので」
「へぇ、それは危なかったねぇ」
まさか咲哉が詩織にそのことを話しているとは想像していなかった真歩が、動揺を隠すためか声のトーンを半音落とす。そして、驚かされたお返しとばかりに、真歩も知っていることを言い放つ。
「でもまぁ、三神君がもし他の女の子に目移りしちゃうんだったら、それって彼女に満足できてないってことだよねぇ? あはっ、でも無理もないよぉ。だって三神君としおりんって別にお互いのこと好きじゃないでしょ~?」
「……それは、どういう意味でしょうか」
詩織の声色が硬くなる。それを可笑しそうに見詰めて笑みを湛えた真歩は、頬に人差し指を当てながら言う。
「えぇ、わかるよ~。付き合って初めの頃って、普通気持ちが舞い上がってて恋人のことしか考えられなくなったりするものだよぉ? でも、二人にはそれがないっていうか~、淡白な関係性だなっていうのは見ててわかるかなぁ~」
「あくまで世間一般の話でしょう。何事にも例外は存在します。私達は私達のペースで仲を進展させていくだけです」
「ふぅ~ん、まぁ、良いんじゃないかなぁ。けど、もたもたしてると、今度こそどっかの誰かさんに取られるかもよぉ~?」
言いたいことはもう言ったという風に、真歩は「じゃ、またあとで~」と手をひらひらさせながら先に校門を跨いだ。遠くに友達の姿でも見付けたようで、「おーい」と呼び掛けなら小走りに駆けていった。そんな真歩の背中を眺めて、咲哉はため息一つ、詩織はスッと視線を細めた。
そしてこのあと、三人とも同じ二年一組であるため教室で再び顔を合わせるのだが、妙にピリついた空気を生み出すこととなった。原因はわからずとも、クラスメイトも空気が重たくなっていることには気付いており、やけに静かな朝礼となったのだった――――
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