第11話 開眼供養の洞窟

 僕らはようやく洞窟に入り、警戒しながら暗闇を進んでいく。

 カイムが両手を使えるように、僕が松明を持つことにした。

 しかし、戦闘もそうだけど、罠の探知や索敵もカイムが担っているのは素人目に見ても危険だとわかる。

 カイムが動けなくなったら、何もできない僕は死ぬ。

 今の僕は……いや、最初からずっと、カイムにとって――。

「『枷でしかない』、なんて考えるな。今は死なないことに専念しろ」

「……でも」

「あ、変な気は起こすなよ。多少動きづらくなるのは確かだが、俺はガキの死体を見ると気分悪くなるんだ」

「…………」

「できれば村で待っててほしいが、往復するのも面倒だしな」

 こいつの優先順位はどうなっているんだ。

 面倒>人命>面倒……? まあ、深く考えないようにしよう。

「……前方23メートル先に何かがいる。俺の後ろに隠れろ。火も消しておけ」

 カイムに促された通りに火を消し、隠れる。

「背中を合わせろ。そっちから何か来たら教えてくれ」

「了解」

 僕は言われるがまま背中合わせになり、後ろを注意深く見る。

 暗闇に少しずつ目が慣れてきたけど、何かが出てくるわけでもない。

 少しずつ、一歩ずつ、慎重に進んでいく。

 カイムが急にもたれかかってきた。唐突な出来事だったので、対応できずに下敷きになる。

「ち、ちょっと、カイ……」

 僕ははっとして口を閉じ、すぐに抜け出してカイムから離れる。

 カイムは胸部から大量の血を流していた。さっき、何かの攻撃を受けたんだ。

 まだ息はあるけど、このままだと死んでしまう。

 どうにかしないといけないが、僕の力じゃどうしようもない。さらに、頼みの綱は虫の息だ。

 息を殺して出口の方向に後退りして、死なないことに専念する。

 カイムは死んでしまうだろう。

 それでも、逃げないと僕が死ぬ。

 逃げないと、死ぬ。

 逃げないと……死ぬ。

 魔物が姿を現した。液体のようでもあり、固体のようでもある。人型で、両手は刃物のように鋭い。

 その人型の魔物は僕のことは気にも留めず、カイムを食いに歩いていく。

 少しずつ、カイムと魔物の距離が縮まっていく。

 それでも、逃げないと……。



「……クソッッッッッッッタレがァ――――――――――ッ!!」

 僕は全力で魔物に向かって突っ走る。

 無策で、無謀に、突っ走る。

 無駄でも無茶でも無力でも無意味でもいい。

 見殺しにするぐらいなら死んでやる!!

 魔物に向かって拳を振り上げ、勢いのまま叩きつける。

 拳を喰らった魔物は流石に驚愕し、刹那ほどの硬直のあと、再び姿を消してしまった。

「カイム! 大丈夫か!?」

 僕はカイムに駆け寄り、安否を問う。

「大丈夫な……わけ……ねえだろ」

「すぐに逃げよう! まだ助かる!」

「いや……あいつは……すげえスピードで……移動……している……多分……倒す……しか……ない」

「僕じゃ無理だ!」

「大鎌……あの時……の……感覚……思い出せ……」

 あの時の感覚……。

 頭が真っ白になって、やらなきゃ死ぬって思って、イメトレの感覚を再現して……。

 イメトレの感覚――武器を作る感覚を思い浮かべ、大鎌を作り、両手で構えた。

 敵は見えないから、目を閉じて、音を頼りに敵を捉える。

「……来る」

 カイムの合図と微かな音を頼りに、奴の攻撃を受け止めた。

 数秒の鍔迫り合いの後、僕は鎌を手放す。

 奴は体制を崩し、うまく懐に潜り込んだ。

「くたばれッ!!」

 僕はナイフを作り、そこに心臓があることを……いや、そもそも攻撃が効くことを祈り、一か八かで胸を突き、中をしっかりとかき混ぜる。

 少なくとも体内は急所だったようで、魔物はのたうち回った後、動かなくなった。

「やった……な……」

「……やったよ」

「……そうだ……忘れてた……奥の方……」

「……奥?」

 カイムに言われて、僕も奥を見る。

 暗くて見えないから、再び松明を拾い、火をつけた。

 洞窟内が明るくなり、鎖で繋がれた銀髪の少女が見えた。

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