第6話 如法暗夜の光
きゅいぃぃん、きゅいぃぃん。
微睡みの中で音がする。
何かが回り、擦れる音だ。金属音に近いかも。
こんな夜更けに、何だろう。
「うぅ……」
ぎゅいぃぃん、ぎゅいぃぃん。
音は次第に近くなっていき、僕を乱暴に覚醒させた。
意識がはっきりしないまま辺りを見渡すと、暗闇の中で七色に光る鎌が見える。
僕はぎょっとして飛び上がった。いや、まさか。見間違いだろう。
息を殺して鎌を見据える。何度見たって、鎌は光っていた。光る鎌を持つ巨大なカマキリがいた。
「ひょっとして、今のが」「うわっ!」
突然に後ろからカイムの声がしたもので、驚いて声を出してしまった。
カマキリを見ると、明らかに僕の方を向き、こっちめがけて走ってくる。
……やってしまった。
「……あれがナイトなんとかってやつか?」
「多分……」
カイムはホルスターから拳銃を取り出し、こちらを狙う敵に向けた。
「だったら、先手必勝」
引き金を引いた瞬間、複数の発火炎が辺りを照らし、それによる爆音が響き渡る。
あいつの左腕は吹っ飛んで、青い鮮血が飛び散った。
しかし、止まらない。怯みもしない。
「もっと欲しいか? いいぜ、くれてやるよ!」
両手に拳銃を持ち、二発、三発と発砲する。
弾丸は命中し、カマキリは倒れ伏す。
――僕はそうなると思っていた。
その期待とは裏腹に、奴は目にも留まらぬ速さで右手の鎌を振り回し、弾丸を全て弾き飛ばしてしまった。
「なッ……!」
四発、五発、六発、七発、八発。弾倉を創り、リロードを挟んで、九発、十発、十一発……撃てども撃てども、変わらない。
僕は何もできないのだろうか。見ているしかできないのだろうか。そう考えている間にも、距離は縮まる一方だ。
十二発、十三発、十四発。
やはり、全て防がれてしまう。
奴のその鎌がこちらに届く範囲まで来た。
鎌が振り上げられるその瞬間、僕はカマキリの鎌の秘密を目撃し、理解した。カマキリの鎌はただの鋭いカッターではない。
サメの歯のような形の、細かく、微小な、しかも鋭い爪がエッジの部分を滑るように走っていた。
その1個1個が複雑な光の反射をし、鎌はあたかも光を発しているように見えたのだ。
しかし、理解したところで何も意味はない。
鎌がカイムに振り下ろされる。頭の中が真っ白になって、「ぐちゃり」という音がした。
青い血が僕を染め上げる。
見上げると、僕はカマキリの頭に大鎌を叩きつけていた。
「ナイスだ、アルト!」
自分でも何が起こったのかわからない。
だけど、カイムはこのチャンスを見逃さなかった。
発砲音が鳴り響き、カマキリの胴体に十五発目の弾丸が撃ち込まれる。
腹部に蜂の巣のような穴が開き、眼前の敵は息絶えた。
「や、やった……」
僕はそれだけ言うのがやっとだった。
「おう、やったな!」
カイムはにかっと笑って喜ぶ。
この僕が、こんな魔物を倒せたんだ。
弱かった僕が、戦えたんだ。
そんな達成感と感動を噛み締めながら、僕は意識を手放した。
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