第5話 意馬心猿の修行
「ほれ、飯だ。とりあえずこれ食え」
カイムから干し肉を受け取り、口に含む。
「今、話せるか?」
僕は頷いた。
「オーケイ、それじゃ、イメージトレーニングをしよう」
意外に早く修行内容を思いついたようだ。
「イメージトレーニング?」
「脳内で戦う」
「いや、わかるよ」
ただ、イメトレって最初にすることなのだろうか。
イメージ的には熟練してからやるものだと思っていたけど。
「前提として、魔法には新世代と旧世代の魔法があることは知ってるな?」
「まあ、一応。魔力がないからあまり詳しくないけどね」
新世代の魔法は「詠唱」をトリガーとして発動し、旧世代の魔法は詠唱ではなく思念で発動させる。
共通しているのは、物質を創造する技術だということ……らしい。
「この修行では旧世代の魔法を習得する。適切に扱えばわずかな魔力でも高い出力を発揮するからな。習得すればお前でも真っ当に戦えるぜ」
「でも、旧世代の魔法って確か不安定なんじゃなかった?」
「そうだな。詠唱は特定の動作で精神を整えてパフォーマンスを向上させる、所謂『ルーティン』の一種だ。それを省くわけだから安定性はだいぶ低い。その辺りの弱点は常に懸念しないとな」
カイムは「特にお前は感情の起伏が激しいからな」と付け加えた。
あまりいい気はしない。
「ま、暇さえあればイメトレしておけ。相手は俺でもいいからな」
「大丈夫。もう決めてあるから」
そう言うと、カイムは意外そうな声色になる。
「お、そうなのか。早いもんだな。どんな奴なんだ?」
「対策も兼ねて、夜に出るという巨大な魔物『ナイト・ライト・サイズ』と戦うよ」
■
イメトレをしながら歩いていると、いつの間にか日が暮れてきた。
僕らは野宿することになり、カイムは異様な手際の良さで焚き火を作ると、蛇の肉であろうものを取り出して、ナイフで2等分に切った。片方は串に刺して火で炙り、もう片方は脂身とスジを取って塩水の入った鍋に漬ける。
「焼いてるのは好きに食ってくれ。俺は寝る」
「う、うん。おやすみ」
そう言って横になると、すぐに寝てしまった。
そういえば、昨日寝ていなかったな。僕も泣き出してしまったし、疲れが溜まっていたのだろう。
そんなことを考えていると、僕の腹が「ぐぅ」と鳴った。
……お腹が空いたな。
僕は肉の焼き加減を見ながら、イメージトレーニングを再開する。
深呼吸、ひとつ。
深呼吸、ふたつ。
ひと呼吸置いて、みっつ。
止めていた世界が動き出し、敵は右手の大きな鎌で薙ぎ払う。僕は鎌の側面に手をついて飛び越え、左からくる攻撃を躱しながら、左逆袈裟斬りに武器を振って敵に重い一撃を与え――損ねた。「ガキン!」という金属音が鳴り響く。もうひとつの鎌で防御されていた……が、防ぎきれなかったのか、敵の鎌は砕け散って――肉の美味しそうな匂いが漂ってくる。
僕は串を180度裏返した。
……気を取り直して、もう一度。
世界が再び時を刻み、右手の鎌が砕け散った。体勢を大きく崩した敵に武器を投擲するも、逆に思いっきりのけぞられ、不発に終わった。瞬時に武器を手元で構築し、腹から大きな音が鳴る。空腹感はないけれど、体が食物を欲しているのだろう。
僕は迷わず肉にかぶりついた。口内に味が染み渡る。僕は味の感想を聞かれても「美味しい」と「まずい」しかわからないのだけれど、この肉はものすごく美味しいことはわかる。
「でも、食べた気がしないな……」
僕は結局、数十分遅れてやってきた空腹に悶えながら眠りについた。
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