第4話 妄評多罪の道中
毒が抜けきるまで約40分、累計1時間が経ったところでようやくまともに動けるようになり、僕らは龍が飛び立った方角に歩いていた。
木々が生い茂る森の道中、ひとつの疑問をカイムに投げる。
「……なんで毒なんて持ってたの?」
「村が燃えてるのが見えて、あれこいつの村じゃねえかなーとか、なんかこいつ感情に流されやすそうだし突っ込むだろうなーとか、止めたら殺しにかかってくるかもなーって思ってさ、道中で毒蛇拾って作ったわけよ」
流石に殺そうとしなかったとはいえ、なんで出会ってすぐの相手に見透かされるんだろう。
……それにしても、さらっとヤバいこと言ってなかったか?
「……毒蛇の神経毒って……、ヤバいやつじゃん! 死ぬだろ!」
人が死ぬ毒使っておいて『死のうとすんな』なんてよく言えたな!
「毒蛇じゃなくても死ぬぞ」
「殺す気か!」
「死のうとしてたじゃねえか」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
今はともかく、あの時は死ねたら死ねたでよかったので反論できない。
「それに、打ったのは少量だし、こっちの奴らは
物凄い適当な理屈だ。それで死んだらどうするつもりだったのだろう。
……死のうとしていたけれど。
「ま、そんなことはさておき、修行するとは言ったが……どうしようか」
どうしようか、とな。
「まさかとは思うけど――修行メニュー考えてないな?」
「おう」
呆れて物も言えない。
「そんな顔すんなよ。元々は予定があったんだぜ? 想定外の事態が発生しただけだ」
「…………」
「お前も死ねばよかったのにな」
「えっ……」
カイムは呟くと、何事もなかったかのように歩いていく。
やっぱり、あの時死んだほうがよかったのだろうか。僕が生きていることが間違いなんだ。そうに違いない。毒を打ったのもそういうことだろう。そうだ、毒のあるものはないだろうか。毒なら苦しんで死ねるだろう。毒草を探そう。毒キノコも――。
「何をふらふらしてんだ? 置いてくぞ」
声の方を見ると、カイムが訝しげな顔でこちらを見ていた。
「死ねば、よかったって……」
そう言うと、彼はますます訝しげな様子でこちらに歩いてくる。
「よくわかんねえけど……とりあえず、涙拭けよ。泣いていいから」
気付けば、涙が僕の頬を伝っていた。動悸も息切れも酷い。
聞き間違いだろうか。それとも、僕がおかしくなったのだろうか。
カイムは僕の死を望んでいるのに、優しくしてくれている。
「うぐっ……うあ、うえ、あああっ……うわあああああ!!」
僕はその場で倒れ込み、大声で泣き出した。何も気にせず、ただ喚いた。
「ほれ、もっと泣け。頭スッとするから」
「ああ、うあ、あ……わあああああああ!!」
言われるがまま、泣き喚く。
泣いて、泣いて、叫んで、叫んで、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚き続けた。
泣き疲れて、叫び疲れて、喚き疲れて、動悸もおさまり、呼吸もまともになったあたりで、カイムが語りかける。
「色々言いたいことはあるが……俺はあの時、死なせないためにお前を止めたんだぜ。それだけは忘れんな。あとは触れないでおくぞ」
表情は少し疲れているけれど、嫌悪はなかった。
僕は何も言わず、ただ頷いた。
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