第3話 切歯扼腕の1

 全て、焼かれた。

 全て、壊された。

 全て、殺された。

 朝日が昇り、燃えカスと化した故郷を照らす。

「なんで……、なんで止めたんだ」

 疑問をカイムに投げかける。

 止められなければ、一人でも助けられたかもしれないのに。

 止められなければ、皆殺しにされなかったかもしれないのに。

 止められなければ、こんなものを見ずに済んだかもしれないのに。

 止められなければ、みんなと同じ場所に行けたかもしれないのに。

「そりゃ、そうだろ。死ぬだろうが。それに、俺はあの村の奴らに思い入れないし」

 カイムはあくまで冷徹に応えた。

「死んでもよかったよ……。僕だけ生き残るくらいなら」

 彼に僕の気持ちはわからないのだろうか。

 家族と故郷を失った、僕の気持ちが。

「わかんねえな。お前は生きてるんだ、全滅よりマシだろ」

「マシなもんか……」

 何もかも失って、マシなことなんかあるものか。

「マシだ。0と1じゃ1のがでかいだろ、お前が1あるんだから――」

「じゃあ0になってやるよ!」

 そう言った瞬間、体が地面に打ちつけられ、右腕に強い痛みが走る。体が全く動かない。

 この一瞬で組み伏せられたのか。

「落ち込むなとは言ないが、感情に身を任せんな。ガチで死ぬやつの目してたぜ」

「何がわかるんだよ! お前に!!」

 僕は必死で喚く。

「お前が今生きていることと、10秒後に発作が起こって死ぬような病気持ちじゃないことはわかるぜ」

 カイムは冷静に答える。

「まず落ち着け。腹式呼吸で深呼吸だ」

「うるさい! 死ね! 死ね! 死……」

――右腕にちくりとした感触がしたと思うと、声を出せなくなってしまった。

 気分も悪くなってきて、体の力も抜けていく。

「悪いが、鎮静剤は持ってないからな。神経毒を打たせてもらった」

 なんでそんなもん持っているんだ。


 ■


 目の前でカイムがあぐらをかいてこちらを見据えている。

 毒を打たれて20分は経っただろうか。僕は両腕を縛られ、木にもたれた状態で座らせれていた。ついでに、さっき少し緩められたけど、右腕の上腕部が縄で圧迫されていて、そのせいで痺れるような感覚がする。それも相まって気分は依然変わりなく最悪だ。

「頷けるか?」

 やっと少しマシになってきたので、言葉の通りに頷く。

「よし、それなら上々。とりあえず、お前は助かったんだ。俺が助けた。それはわかるな?」

 ……なんか釈然としないけど、事実ではあるから頷く。

「だったらその恩人の前で死のうとすんな。スゴイ失礼だぞ。それに、どうせいつか死ぬから今生きておかないと損だぜ」

 僕は頷く。少し厚かましい気がするけど、納得はできた。

「そんで、本題。今どんな気持ちだ? 正直に言ってみろ」

 カイムは少しニヤついた顔で聞いてきた。

 口が聞けねえって言ってんだろうが。

「『龍なんて災害みたいなものだからしょうがない、自分は助かってよかったー!』なんて思って日銭を稼いで静かに暮らすか?」

 絶対に嫌だ。故郷を壊されて、黙っていられるか。

 それに、放っておいたら被害が増える。

「それとも――」

 僕は力を振り絞ってなんとか声を出す。

「が……があぎ……ぐぢあい撃ちたい

「すまん、声出せないの忘れてた。安静にしてな」

 カイムはニヤついた顔を少し崩して謝った。

 でも、あいつを殺さないと、また別のところで――!

がいぐあいつ……ごおず殺す……いあがら今から……」

「毒が回るから安静にしてろ!」

 誰のせいだと思ってんだ!

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