第3話:都会の喧騒から田舎へ

 井口家のミニバン乗用車が高速道路の上を通っている。


「ところで父さん、どこの焼き肉店に行くの?」


「それは到着してからのお楽しみだ」といって父親のセトシは、運転のハンドルに両手を握り締めながら鼻歌を楽しそうに歌った。 


「あなた、鼻歌を歌うくらいなら、何かノボルが好きそうな音楽を聴きましょう」


「そうだな。昔のCDを選ぶことにするか、それともラジオにするかだな」


「ラジオがいい」というノボルは期待に目を輝く。


「よしそれなら、今の季節は春だから、その季節の特集ラジオを聞こう」


 ン~モォ~ン~モォ~モ~ゥ。


 そこから先は、日本の民謡から最近の流行り歌まで、耳にあらゆる春の歌の特集を聞き流しつつ、車の中を賑やかに一家は楽しそうに誕生日のノボルを話題の中心に談笑したりして過ごしていく。その他ではノボルが片思いで好きな女の子が、他の男子に告白されて断られた話や、給食中のBGMに、ホラー映画の音楽を流れ出して先生が放送室を駆けつけて放送委員の担当男子生徒に叱った話など、いろんな話題もあった。

 

 東京を超えた車が高速道路を降りてもまだ走り続けている。次第に見える周辺の流れる景色は都会離れし出してくる。ノボルが気付く頃で、車窓の外の風景が田舎の見知らぬ土地の上を車が進み出していく。どこに車を向わせているか聞かされないが、それでもノボルは両親に行き場所の秘密を聞き質そうと思わない。外の風景に畑を広がり、デコボコの道路であまり舗装が為されていなかった。

 

 そして、遂に車は途中で止まった。そこから先に車道は伸びてなかった。両親が車から降りて声をかけてきた。


「ここから先は歩きだ。ノボルが車の後部の牛子を連れてきなさい」


「分かった、父さん」というノボルがミニバンの後ろを回り着く。


 車の後方のドアを開こうと、上に戸を引き上げる。ノボルは車の中の牛子に向けて話しかける。


「牛子、狭かっただろう、もう外に出てきていいぞ」


 ン~モォ~モ~ゥン~モォ~。


 ノボルはそう唸らせた牛子に一本ずつ足を地面に降ろし立たせておく。


「目的地までしばらく歩く。もし誰かが疲れ出したら休憩を取らせるから無理もなくそう言ってくれ」といって温厚な表情で父親のセトシが、ノボルの目を見た。


「分かった、さっそく道案内をしてくれ」


 そして、ノボルと彼の手元の縄を首に繋げられた牛子の目前を、両親が道案内を行おうと先に歩き出してくれた。ノボルと牛子は、二人の道案内に着いていこうと背後を素直に歩き連れ出されている。

 

 空を見上げると、鳶が一匹旋回して飛んでいた。


 その雲一つない快晴の青空の下を、一行が束で歩き続けていくのだ。

 

 都会の喧騒もない静かな田舎道だ。空気が澄んでいて吸うと美味しい。コロコロと虫の鳴く心地よい音が畑の辺りを聞こえる。だが、麦畑の広がる畦道とかを永遠と続くほど歩いても、目標の焼き肉店の影がなかなか見えてこなかった。


「本当に、こんなところを焼き肉店なんかあるのかなぁ……」


「私たちを信じて任せていなさい」


「そうか分かった。牛子、畑に畦道から落ちんなよ」


 ン~モォン~モォ~モ~ゥ。


 それから休憩をたまに挟みつつも、井口一家がしばらく畦道の上を歩き続けていく。

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