第9話 再開と、ローゼン家の過去

 ─デアルンス国 ローゼン領 ローゼン村


 あの戦いの翌日、シャルルとミコは休息のため本日はオフとした。と、言うことで俺は今ローゼン村の我が家にいる。ミコは昼過ぎまで寝ていたが、街へ夕御飯の材料や冒険に必要な道具などを買いに、しばらく外出することになっている。今日はミコが手料理を披露してくれるらしい。


 やっぱりひとりで暮らすには広すぎる、な。シャルルは高い天井を見上げた。彼女は今、ダイニングでお茶を飲んでいた。ダイニングには木で出来た机と椅子、そして壁にゴブリンキングが遺した大金槌が立てかけてあった。あれは戦利品だがシャルル達には重すぎる。しかしすぐ売り捌いたりするには勿体ないということでしばらく家に置くことにしたのだった。一種のオブジェのようにも見える。

 そして昨日のことを思い返した。ここ数日、本当に色々なことがあったな。この家に来るのも随分久しぶりに感じる。


『魔救の師団』副師団長ゲイル・ドゴールの起こした魔物による襲撃事件のその後は、次の通りだった。

 まず、西壁防衛にあたっていた『紺碧の師団』と王国騎士団を中核とした連合防衛隊は、その役割を全うした。シャルルが心配したように一時は戦線が崩壊しかけたものの、紺碧の師団の師団長が奮戦したらしい。シャルル達がゴブリンキングとゲイルを倒すまで、一匹たりとも城壁の内側には入れさせなかった。

 しかし、その代償は大きく、シャルルの耳で聞いた限りでは、王国騎士団も冒険者も"無視出来ない損害"だったという。同様に紺碧の師団も少なくとも機能不全を起こしており、パーティとして万全に活動するにはしばらく掛かる、と。


 そしてシャルル達が持ち帰ったニュースは、民とギルドに驚きを持って受け入れられた。

 シャルル達はギルドの奥にて日付が変わるまで拘束されたのだった。一番のテーマは、やはりゲイル・ドゴールについてだった。なぜ『魔救』の副師団長がそこにいて、魔物を使役していたのか。だが真実は、ゴブリンキングを討伐しに行った連合パーティが、ゴブリンキングのコアと魔救師団のナンバー2の死体を持って帰ってきたということだ。


 ともかく、アナスタシアとシャルルは息を合わせたように同じことを供述した。ゲイルは何処かの国へと買収され、インテールを襲っていた。そしてゴブリンキングを始末した我々を排除しようとした為やむなく殺した、と。

 ギルドからは一応信じられたようで、後のことはお偉い方で精査することになり、まずは任務をこなした報酬をくれた。アナスタシア曰く、

「ラビリンス下層の依頼並みかしら」

 らしい。それはシャルルが目をパチクリさせるほどの金、十数万のバルスだった。


(この金で当分の生活費と、博士への連絡用水晶を用意出来た)


 よし、とお茶を飲み干すと、シャルルは机に水晶玉を置いた。水晶玉には、14歳となって2度目の転生をした日第1話に使用した水晶玉の核を埋め込んである。


「博士、博士、聞こえるか」

「.......んあ???誰じゃ?」


 水晶玉が鈍く光った。そして聞き覚えのある声が聞こえてきた。声の主は、『帝国』の王都ヴェルリイナのとある研究所にいた。

「俺だよ、俺」

「おお!その声はシャルルじゃな!」

 小鳥がさえずるような高い声は、嬉しそうな声を出した。このロリババア博士は、俺を転生させた張本人だ。帝国が誇る天才だが、色々と残念な所がある。


「それでそれで!ラビリンスはどうじゃ?」

「まあ待ってくれ。まとめて話すから」

 シャルルは、自分が冒険者になれたこと、仲間を得てパーティを組んだこと、ラビリンス第一界層へ挑みボスエネミーを倒したこと、そして先日の事件でゴブリンキングを倒したこと、成り行きでゲイル・ドゴールという冒険者を殺したこと、その他もろもろを話した。


「ほう、ほう!あれから1週間程で随分色々なことがあったようじゃな!」

「して...冒険者殺しの方はどうなのじゃ。早速1人殺しておるようじゃが」

 シャルルはため息をついた。そこが一番の問題なのだ。

「正直なところ、そこがね。俺はまだまだ弱い。今回殺せたのはアイツの傲慢さが原因だった」

 博士はそうか、と言うと少し間を空けた。

「まあ...わしはラビリンスを知る方が大事じゃ。そんなつまらん話は上層部が決めたことじゃ、焦らんでも良い」

 見た目の割に長い年月を生きている博士は、珍しく気遣いの言葉を述べた。


「まずはラビリンスの深層を目指すのじゃ。そうすれば自ずとお前も強くなるじゃろう」

「それもそうだ...ところで、ゲイル・ドゴールの裏にいた国の検討はつくか?」

 連絡事項を伝え終え、そろそろお開きかと思ったタイミングでシャルルははっとした表情を浮かべて質問した。


「うーむ...政治的な話じゃから専門外のわしにはわからん、がじゃ」

 と、博士は前置きして話した。インテールという街の存在はラビリンスがあるだけで価値が高い。(なにせわしですら取り憑かれる程の魅力じゃ!)それ故にどの国も、程度の差こそあれどインテールとラビリンスは狙っているものなのだ。

 博士の素人意見では、国教が定められており教皇による実質的な独裁体制である魔法国家『神聖教皇領』が怪しいという。魔救の師団も、名前からして魔法に特化した師団だろうから、繋がりを見出すとしたらそこだろうとの見立てだった。


 結局、2人ともそれ以上深い意見は出なかったため、お開きとなった。またしばらくして何かあったら連絡する、ということになった。


 外は日が傾いている。ミコはまだ帰ってきていない。シャルルはヒマなので、領主の娘であるスターリナへと会いに行った。ここ最近、彼女の妹には随分と世話になったので土産話をしてやろうとおもったのだ。

「フルフドリスか、入っていい」

 玄関で出迎えたのはアラキという家令だった。シャルルはこの男が苦手だった。


 …

 ……

 ………

「あらシャルル、噂はかねがね聞いているわ」

 いつもの黒ずくめのドレスに流れるように長い銀髪、アナスタシアとは違い妙ちきりんな語尾は付けていない。この女が今のローゼン領を管理しているスターリナ・ローゼンだ。

「妹が世話になったようね。あの子、なかなか癖が強いでしょう?」

 ソファーに座ったシャルルを見ながら、スターリナはくすくすと笑った。そしてシャルルはアナスタシアとラビリンス第一界層で出会ったことからゴブリンキングを共に倒したことまで、細かく話した。


「そう…あの子も冒険者らしくなったのね」

 そう言ってスターリナはふけるように遠くを見つめた。

「スターリナ。アナスタシアが『師団』の地位を欲する理由として父上のせいで家の名誉が落ちたから、と言っていた。失礼は承知だが、今はいないというそのお父様のこと、良ければ聞かせてくれない?」

 シャルルは1度座り直すと、真剣そのものと言った表情で頼んだ。シャルルには一種の確信があった。この国は良くも悪くも"内戦"が大きく影響を与えている。そしてきっとスターリナの父親の件も内戦が関わっている。14年前にこの国であった内戦、当事者の口から今一度話を聞いてみるべきかもしれない…。


「あなた、父上が何をしたのか知らなかったのね。話が広まってるのは都市部だけなのかしら。…ええ、構わないわ」

「─14年前、わたくしたちローゼン家は多くの領地を持っていたわ。それこそ王都の辺りまで。それが内戦の影響でパーになったのよ。なぜなら父上は、派閥としては内戦の負けた側にいて、それに戦わずに失踪したの」


 14年前の内戦、とシャルルは想起した。王が強烈に権力を振るう当時のデアルンス国は、異種族を弾圧し、魔法を使う人間の冒険者をも弾圧していた小さな国だった。


 当時のデアルンス国王・グスタフはこの国 が魔法の万能さにあぐらをかき、他国より技術的に劣っていた事を危惧していた。これではいつか国が滅びる、そう思った王はあらゆる分野で急速に他国に並ぶほどの文明と技術力を得た。そのからくりの真実は、異種族と冒険者を差別階級として定め、彼らを暴力的なマンパワーとして酷使し発展したのだ。


 そこで被差別階級であった冒険者が蜂起し、内戦が起きた。戦いは一進一退だったがある時、蜂起の主犯格とナンバー2が今のインテールの辺りで数万の王国騎士に包囲されると、主犯格が自己の魔法力を全て魔力爆発に変換させる『終末魔法』を使用し、辺り一体の王国軍を全て根絶やしにしたことで、一気に形成は冒険者側へと傾き終結したのだ。その自爆した冒険者こそが、シャルルの目に映り込むUIを作り『真紅の師団』の最初の師団長パーティリーダーの『爆炎の英雄』だったのだろう。

 戦後は短い間だが冒険者軍の3が統治し、すぐに現在のような立憲君主制を敷いた。

 なぜナンバー3が統治したのかと言うと、ナンバー2、『シルヴァー・バレット』と異名が付けられ恐れられた冒険者は隠居し、ラビリンスが出現するとまた冒険者として走り回り、政治の世界には身を置かなかったという。だが、帝国が知る限りこのシルヴァー・バレットという冒険者についてのその後の情報は、デアルンス国によって隠蔽、秘匿されているようだった。


「お父様はなぜ、失踪なんてしたの?」

 シャルルの問いに、スターリナは首を振った。

「分からないわ、けど、今考えてみればこんな仮説が出来るわ。"父上は最初から負けると分かっていた"」

 シャルルはスターリナが語った仮説に驚き、汗をかいた。

「そ、その根拠は?」

「今ここにあたくしがいるのが根拠よ。王族こそ権威なき象徴として立てられているけれど、それ以下の国王軍側へ付いた諸侯や領主は処刑、一族は国外追放よ」


「でも、あたくしの父上は立場上冒険者に敵対はしたけれど本当は中道に近かったわ。そこで自らを早々に失踪させ、ローゼン家への処罰は所領の大幅な没収だけで済んだわ。名誉の失墜という大きな罰も加えて、ね」


 シャルルは納得した。今のローゼン家という立場を表すなら没落貴族と言ったところだろうか。だがまだ辛うじて貴族の立ち位置に居られるのは、父親の行動があったからだ。


「つらい話をしてくれてありがとう」

「いいのよ、話すぐらい。あたくしが街へ行ったら何をされるか分からないし、妹もあのダンジョンへ潜っているのはあそこが実力社会だからかもしれないわね」


 …

 ……

 ………


 帰り道、シャルルは一人空を見ながら思った。やはり内戦の影響は大きい。どの人間も、大なり小なり影響を受けている。ミコはどうだろう。ゴブリンキングを倒した夜、アナスタシアはミコの技で出た炎を"爆炎の英雄の"と言っていた。英雄と言うことはあの英雄だろう。彼女も恐らく、内戦に何か関係している。

 もしかしたら、と金髪の彼女は目を閉じた。


 俺が殺すべき冒険者は、ミコなのかもしれないな。

 そんな思考をしてしまった自分を心底嫌悪しつつ、奇妙な期待もあった。もし俺がミコを殺そうとした時、俺たちはどれだけ強くなって、どれほど深くラビリンスの深層まで到達しているのだろう。


 シャルルは、今考えたことはしばらく封印することにした。博士も言っていた。焦る必要はないと。とにかく、明日アナスタシアに会って話を聞こう。ミコ用のアーマーも完成しているはずだ。

 シャルルが我が家の玄関へ着いたころ、ちょうどミコも帰宅した。両手に抱えきれない程の紙袋に溺れそうになっている。シャルルは少し笑ってから、そのひと山を受け取った。


 今日はミコが料理をしてくれるのだ。


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 !TIPS!

 シャルルは『ゴブリンでも解る』シリーズの本を読み進めた事で新たな魔法を習得しつつある。だがシャムシールで詠唱破棄するには条件を満たさなかったため、代わりに術符を使った方法を検討している。


 次回更新予定日

 1月中


 Pt:2名

 シャルル・フルフドリス LV2 二つ名:[未設定]

 HP:85 MP:90


【武器適性】

 小型近接武器:A+

 中型近接武器:C

 大型近接武器:G

 魔法武器:A+ 大型魔法武器:E


【魔法適性】

 適性:[地属性]

 習得済魔法:三種類


【スキル】

 ・体術

 ・暗殺術(体術ツリーの派生)

 ・近接戦闘

 ・鑑定

 ・採掘

 ・術符製作

 ・物品加工


 装備

 ・旅人の服

 ・旅人の手袋

 ・国防軍の革ブーツ

 ・まんまるリュック

 武器

 ・[曲剣]砂の国のシャムシール

 ・サバイバル用ナイフ

 ドロップ品

 ・ツリーポックルの枝×4

 ・ゼンマイキノコ×6

 ・万年筆

 ・掴みスライムのコア

 その他割愛

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