ラビリンス編
第10話 対『首狩り猿』戦
─デアルンス国 ローゼン領 ローゼン村
その夜、シャルルは、ミコの作った料理に舌鼓を打った。ミコの作った料理はデアルンス国の家庭料理らしく、塩漬け肉とソーセージと芋を油で煮込んだアヒージョのようなもの、ゼンマイキノコのバターソテーなど、シャルルが心のどこかでもしかしたらと思っていた料理下手疑惑を見事に否定したのだった。
翌日、2人は朝一でラビリンスへ向かうこととした。今日はアナスタシアに呼び出されている。それが主目的であるが、本日は『悪魔城』が復活したという第二界層『冷たい谷』を覗いてみることとした。
2人はまず第一界層での依頼と、第二界層で行われている『界層主』と『悪魔城』討伐の進捗を聞く為、ギルドへと訪れた。
………
……
…
「ようこそギルドへ、先日はどうもありがとうございました」
14番窓口に着いたシャルルとミコを、例のエルフの受付係が歓迎した。
「早速で申し訳ないのですが、カウリバルス様にお話がございます。フルフドリス様、少しだけ席を外して頂いても?……ありがとうございます」
脚の長い椅子に座ろうとしたシャルルは、受付係の言葉に黙って頷き、席を離れた。
受付係の言うように、話は短かった。そして話の内容は後で聞くまでも無かった。
「シャルルさぁん、ウチ、魔法使うなって言われましたぁ。2度目ですよ?これで。センスが無さすぎて使ったら卒倒するって」
「あ、あはは…」
シャルルは頬をかきながら、苦笑いした。席を外した意味、あったのか?
界層主と悪魔城の件については、討伐隊として向かった『黒狐の師団』によって順調に攻略が進んでおり、リポップによって界層中に溢れ出た悪魔城の魔物のほとんどは討伐され、魔物が湧き出る元栓である悪魔城は包囲され、攻城戦を展開し始める段階らしい。
というわけで2人は、第一界層『狭間の森林』の一部で大量発生している"首狩り猿"の討伐依頼を受け、昇降機へと乗ったのだった。
ちなみに、ギルドへ訪れている度に査定してもらっている冒険者としての総合評価は、先の任務で上がったかと2人は期待したが、事件の内容が内容であったためその分の反映は真相解明まで凍結されることとなった。事実上の見送りである。2人の少女たちは大きくため息をついた。
…
……
………
ラビリンス第一界層『狭間の森林』に到着した2人は、まずラビリンス・キャンプ『ブラックフォレスト』の武器屋へと向かった。
武器屋へ向かう途中、『沈黙の旅団』のパーティメンバーである緑髪の魔法使い、リディアと出会った。
「わたしたちは先に用事があるから、地上時間の夕方頃に待ち合わせするよう伝えておいて」
「私は伝書鳩じゃありません!」
リディアという魔法使いはぷりぷりと怒りながら、去っていった。ちゃんと伝えてくれればいいのだが。シャルルは少し心配した。
昨日ミコが街へ買い出しに行った際、ラビリンスで地上時間が分かる用の専用の腕時計を買ってきてくれていた。昼と夜があったりなかったりするというこの深淵では、この時計はマストアイテムだという。
「おお、嬢ちゃんたち来たか…ってもうレベル2になったのか!?!?」
武器屋へたどり着いた2人に、店主は目を白黒させて驚いた。
「ははは…」
「3日会わざれば刮目せよ…ってか。まあ、依頼された品は出来てるぜ」
店主はそう言うと、店の奥から布に覆われた防具立てを取り出してきた。
「どうよ」
「わぁぁぁぁ!とてもいい!とてもいいです!」
布の覆いを取り、あらわになった防具を見たミコは、黄色い歓声を上げた。
シャルルから見たその防具の印象は、おしゃれな女騎士、であった。胸元はツリーナイトの鎧がそのまま使われ、胴からは普通の服のようになっており、そのままスカートのようになっている。どうも、妙に厚みがあるような…。シャルルは服の部分を触って驚いた。
「これは、プレートか!」
服の内側に固いものが入っている。
「そうだ。ツリーナイトの図体は大きいからな、あの鎧であの子のための鎧を仕立てるのは難しいんだ」
店主の言う話では、そもそもあのツリーナイトは戦う以前から手負いだったらしく鎧の損傷が激しく、さらに真っ二つとなったツリーナイトの鎧を加工するのは難しいらしい。そのため、更に板状にばらし、服の中に仕込んでいるという。
だが、服の中にプレートを仕込んでいるものの、決してダボッとしている訳ではなくミコの優れたプロポーションを無駄にしないシャープさを兼ね備えていた。
「これ、頂いていいんですか…?」
ミコは自分の身体に合わせるように装備を持ち、鏡に映る自分を見ていた。
「ああ、鎧の仕立てより、服の仕立ての方が金が掛かったがな。ウチの弟子と工房を守ってくれた礼だ」
「これ、ツリーナイトの鎧を溶かしてもう一度鎧を作るのはダメなのか?」
シャルルは喜びのあまりクルクル回っているミコの姿を見ながら、店主に尋ねた。
「そいつはいけねぇ。あの鎧には特殊耐性[精霊の加護]が付いてる。溶かしちまったらそれが無くなっちまう」
精霊の加護、店主の話では毒、麻痺、睡眠等の状態異常の耐性が上がり、たまに魔法を跳ね返すという代物らしい。
「ところでシャルルの嬢ちゃん。こいつはレベルアップの祝いを兼ねて余り物で作ったオマケだ」
店主はそう言うと、また何かを取り出した。
「胸当てか!」
それは胸の部分だけではあるが立派な防具だった。
「ありがとう。大事に使わせて貰うよ」
…
……
………
シャルルたちは店を出て、依頼されている【首狩り猿】の討伐へと第一界層東にある古戦場跡へと向かった。
太古の昔、誰かによって作られたのだろう石造りの人工物は草と苔に覆われている。この人工物は国の調査によれば、城塞や野戦陣地のひとつだったという。
「これは…」
シャルルとミコは言葉を失った。この緑化された戦場跡には、新しい死体が転がっていた。その死体全てが『首無し』であり、白骨化した死体でも頭蓋骨だけが存在しなかった。
「恐らく、第一界層だからと舐めた冒険者だね」
シャルルは静かにシャムシールを抜いた。左手には指の間に術符というお札を挟み、辺りを見回し【首狩り猿】がいつどこから現れるか警戒している。
「シャルルさん、左から気配がします」
ミコも剣を抜いていた。
すると岩陰から小さな黒い物体がミコに向かって飛びかかった。はるか天井にある巨大な魔鉱石によってその物体は照らされた。小さな猿だ。だが腕が異常に長く、かつて首狩りをした冒険者が持っていたのであろう武器を手に持っている。
「ぐうぅ…どいてっ!」
ミコの首目掛けて【首狩り猿】は斬りかかった。その刃をミコは剣で受け止めると、下半身でふんばりを効かせて振り払った。追撃をしようと突きを放ったが、首狩り猿は宙返りをしながら放物線を描き、その間合いから離れていった。
「厄介なやつだ…!」
シャルルは不機嫌そうに目を細めた。あの小さな体躯だと弾かれてもそれを退避に使えるということか。しかも首しか狙わないから余計に距離は稼ぎやすいという、なんて効率化された動きなんだか。
彼女がそう思っている間に、2人の前にゾロゾロと新たな首狩り猿が現れた。6、10、いや15、20、徐々に増えている。
「新しい魔法を試してみるか…!」
シャルルは新たに2種類の魔法を覚えてきていた。
「『大地の
シャルルは腕を前へ出し、手のひらを地面へ向けて唱えた。するとシャルルを中心として魔法陣が描かれ、地面から紫色の光が鈍く漏れだした。そしてシャルルが腕を横に払うと、シャルルの目に入る範囲の首狩り猿の頭上に同じ紫色の光が浮かび、次の瞬間彼らは飛び跳ねるどころか立つことすら出来なかった。シャルルの唱えたそれは、重力系の魔法だったのである。
「ぐっ、ミコ!いまのうちに!」
シャルルが腕を震えさせて叫んだ。この重力魔法は詠唱を終えたとしても念を込めて集中しなければ拘束を続かせることが出来ないのだ。現に、シャルルの目に映るUIでは数秒おきにMPのバーが短くなっている。
「分かりました!」
シャルルは歯を食いしばりながらミコが首狩り猿を切り刻んでいく様を眺めた。最後の一匹を殺すところを見届けたところで、シャルルは集中を緩和させようとした、が、新たに背後から飛びかかる気配を感じた。
「ちぃっ…!」
シャルルは振り向きざまにシャムシールを煌めかせた。その流線的な刃は首狩り猿の刃にぶつかる前にその身体にくい込み鮮血を吹き出して斬り裂いた。返り血が頬につく。
そしてそのまま後ろを振り返った。
「おい、マジかよ」
シャルルは冷や汗をかいた。
振り返った先には、先程よりも大量の首狩り猿が待っていた。もう切り札を使う場面が来たかもしれないな、とシャルルは唇を舐めた。
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!TIPS!
次回更新予定日
1月中
Pt:2名
シャルル・フルフドリス LV2 二つ名:[未設定]
HP:85 MP:70
【武器適性】
小型近接武器:A+
中型近接武器:C
大型近接武器:G
魔法武器:A+ 大型魔法武器:E
【魔法適性】
適性:[地属性]
習得済魔法:五種類
【スキル】
・体術
・暗殺術(体術ツリーの派生)
・近接戦闘
・鑑定
・採掘
・術符製作
・物品加工
装備
・ツリーナイトの胸当て
・旅人の手袋
・国防軍の革ブーツ
・まんまるリュック
武器
・[曲剣]砂の国のシャムシール
・サバイバル用ナイフ
ドロップ品
・ツリーポックルの枝×4
・ゼンマイキノコ×6
・万年筆
・掴みスライムのコア
その他割愛
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