第6話 新たな武器 新たな目線 新たな騒ぎ
─ラビリンス第一界層『狭間の森林』鍛冶屋工房の敷地
その女は口を開いた。
「あたくしは、アナスタシア・ローゼン。冒険者かしら」
長い髪に縦ロールが入っている。ブロンドがかった髪色に、黒のドレス風の装束とコルセットのようなアーマープレートを着ていた。
女はその身体には不相応な大きさの
女のさらに向こうの方から何人かの話声と、急いで来ていると思われる早いリズムの足音が聞こえた。
「はあ、はあ、嬢ちゃんたち、大丈夫か!」
足音の正体はブラックフォレストの武器屋の店主とその弟子と何人かの冒険者だった。
「あら、あなた達やっと来たのかしら。もう終わったかしら」
アナスタシア・ローゼンは振り返って店主に向かって話した。
「【沈黙】のお嬢さんがもう片付けてたのか」
【沈黙】と呼ばれたブロンドの女は不服そうな顔をして見せた。
「あたくしの二つ名は【黒い沈黙】かしら!…それに、このツリーナイトはこの子達が倒したかしら」
シャルルは、疲労の中唐突な状況を呑み込めなかった。
どうやら、シャルル達がツリーナイトと遭遇したタイミングで工房にいた弟子が助けを求めてブラックフォレストへと救援を求めたらしい。
「あたくしはスキルで察知したから来ただけかしら」
「とにかく、この2人をブラックフォレストへ連れていこう。
...
.....
.......
昇降機の近くにある集落、ブラックフォレストのある宿屋に連れていかれたシャルルとミコは、町の癒師の回復魔法をぽわぽわと受けていた。
宿屋の一室には2人と癒師の他に武器屋の店主もいた。
「なにはともあれ、2人が無事で良かったな」
店主はベッドの近くの椅子にかけていた。ベッドにはミコが治療を受けながら爆睡しており、シャルルは上半身を起こしていた。
「まさか森の奥から結界を破ってボスエネミーが出るなんて思ってませんでしたよ」
シャルルは店主に向かってやれやれ、というようなジェスチャーをして見せた。
「本当だな。俺も責任を感じるところではあるが───ところでよ、今回の報酬なんだが...なんでも好きなものを持っていくといいぜ」
店主からの提案に、シャルルは驚きの表情と共に一考した。今回の戦い、前衛のミコは被弾した素振りを見せていなかったけどHPは随分削られていた。2人でパーティをやっていく上で、ミコはこっちの言うことを信じて戦ってくれている。それなら─。
「じゃあ…代わりに、"あれ"を打ち直してミコが着れるように仕立ててくれ」
シャルルが指さした先には、ツリーナイトの着ていた真っ二つになった鎧があった。
ミコの生存力を高めようと考えていたのだ。
「ん?...ははははは!面白い嬢ちゃんだ、いいだろう。だが少し時間が掛かる。次にまた武器屋に来た時に渡してやるよ」
店主は、ひと笑いした後に少し考えるような仕草をした。
「でも嬢ちゃんのそのナイフは、ここで生きていくには弱すぎる。オマケで何かやろう...こいつはどうだ?」
そう言うと男はバッグの中からおよそ70cm程の剣を取り出した。
「こいつは『砂の国』で売っていた『シャムシール』という代物だ」
すらっとした刀身は、先に行くほど後ろ側へと曲がっている。店主曰くこれは曲剣という種類の武器らしい。シャルルが手に持つとその軽さと振りやすさに驚いた。まるでナイフのように軽いし、抵抗を受け流すような刃の形でムチのように振れる感じがする。面白いな、これ。
「ありがとうございます。ありがたく使います」
「嬢ちゃんは土属性の魔法使いと聞いてな。そいつは土属性の魔法のうち、岩や砂に関する魔法だけをいくつか記憶出来るらしい。上手く使ってくれ」
店主はシャルルに魔法の記憶と発動の仕方を教えた後に、癒師と共に部屋を後にした。国家と契約した冒険者の福利厚生として、治療を目的とした宿泊は料金が掛からないらしい。シャルルはタダで泊まれる事に感謝しつつ、眠りについた。
…
……
………
翌日、どれぐらい寝たか分からないがシャルルは目が覚めた。ミコはまだ寝ているようだった。
「少し散歩にいくか…」
宿屋から出ると、空に霞が掛かり暗かった。そうだ、ここは地下世界だった。地下なのに、まるで地上みたいに天候が変わってる…。シャルルは独り考え事をすると、街の中を歩き始めた。
恐らく、地上でいう早朝の時間帯なのだろう。まだ露店や店は営業していない。少し歩いたところで、見覚えのある顔がいた。
「あら、あなたは昨日の冒険者、かしら?」
2人は並んで歩きだした。
「あの、アナスタシアはスターリナ・ローゼン公の関係者なのか?」
ミコはずっと気になっていた事を聞いた。自分が今暮らしている家の領地は、その名前の女性が領主代行をしているからだ。
「あら、あたくしの姉を知ってるのかしら?」
共通のテーマを見つけた2人は、そこから随分と話した。姉に任せて冒険者をしていること、今は1週間ほど前から潜っていたラビリンス第四界層からの帰りだったこと、『旅団』から『師団』になりたい野望、などを聞いた。
「あたくしも沈黙の旅団なんて呼ばれてるけども、いずれ師団と呼ばれたいのかしら」
シャルルはミコとの会話を思い出した。この国の冒険者のトップパーティは12個ある。それらを師団と呼んでいることを。
軍隊編成として、旅団は師団の規模が一段階下のものであり、シャルルはインテール及びラビリンスではそれと同じような順番として扱っているのだと推測した。
「なぜ、そこまで格を上げたいの?」
「何故って…そうかしらね。理由は…どこかへ行ってしまった父上のせいで落ちた評判を取り戻すこと、かしら。いいえ、ただ名を上げたいだけかしらね」
意外な事を聞くのかしら、と言いたげな顔をして、アナスタシアはさらに話した。
「それに今ある師団のうち衰退しているものもあるかしら。例えば『真紅』は英雄と呼ばれた最初の
シャルルは話に出た言葉に聞き覚えがあったが、それがどこで聞いたのかすぐには思い出すことは出来なかった。それよりもこの若い女が14年前の昔話をしている様が面白かった。
「アナスタシア、あなた内戦の頃何歳だった?」
シャルルが笑いを堪えながら聞く。
「まっ失礼かしら!当時は2歳かしら!父上が話してくれたのかしら!」
「ところであなたのパーティ、昨日が初めてのラビリンスだったと聞いたかしら」
「ええ。そうだけど」
冗談で笑っていた2人は、その笑いが治まったころにまた話始めた。辺りの木々が風に吹かれ、徐々に魔鉱石によって光が差し込んでくる。
「ツリーナイトを倒してしまうのはずいぶんな素質かしら。あと何個か依頼をこなせば、レベルアップするかもしれないかしらね」
彼女はそういうと、脚を止めてこちらを見た。
「あなたの相方、あれは随分なポテンシャルかしら。どこかの師団に親でもいるのかしら…」
ミコが褒められた事にシャルルは嬉しかった。内心で、自分も褒めて欲しかったと小さく胸が痛んだが、任務の為に目立たない方がいいと自分に言い聞かせた。
「彼女、魔法は使えるのかしら?」
「いや、『魔法適性無し』らしいよ」
シャルルがそう答えると、アナスタシアは目を見開いた。そして、
「……ふーん…」
とつぶやくと紙に鉛筆で何かを書き付け、シャルルの胸に押しつけた。そして彼女とはそのまま別れた。
「また会うかしら」
…
……
………
帰りの昇降機の中で、シャルルとミコは立っていた。シャルルは新たに貰った曲剣『シャムシール』を腰の後ろに装備していた。彼女は難しい顔をしていた。
(あの紙に書かれていたのは住所だった。そこに来い、ということだろうか。でも何故?)
「そういえばミコ、あの霧雨一文字?みたいな技っていつ覚えたの?」
「ああ、あれはギルドで査定を受けてる時に本を買わされたんです。霧雨流を名乗る受付のおじいさんから」
「ああ、あのゴブリンでも解るシリーズか…」
ミコはすっかりと元気を取り戻したようだった。シャルルのUIから見ても、HPもMPも完全回復している。
「そうなんです!しかもそのおじいさんからお前は魔法は使うなって言われたんですよ!?」
「ははは…」
シャルルが苦笑いをしていると、地上へと着いたようだった。
地上は妙な騒ぎが起きており、シャルルはそれが愉快なものではないというどこか確信に近いものがあった。
──────────────
!TIPS!
シャムシールはシャルルの鑑定スキルの上での評価は【C+】だった。シャルルとしては特殊効果のない型落ちを選ぶよりよっぽど良かったと感じてるようだ。
次回更新予定日
1月中
Pt:2名
シャルル・フルフドリス LV1 二つ名:[未設定]
HP:80 MP:75
【武器適性】
小型近接武器:A+
中型近接武器:C
大型近接武器:G
魔法武器:A 大型魔法武器:E
【魔法適性】
適性:[地属性]
習得済魔法:三種類
【スキル】
・体術
・近接戦闘
・鑑定
・採掘
装備
・旅人の服
・旅人の手袋
・国防軍の革ブーツ
・まんまるリュック
武器
・[曲剣]砂の国のシャムシール
・サバイバル用ナイフ
ドロップ品
・ツリーポックルの枝×4
・ゼンマイキノコ×21
・万年筆
その他割愛
──────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます