第4話 冒険者としての素質
─デアルンス国 ローゼン領 ローゼン村
朝になり、ローゼン村の我が家で目覚めたシャルルとミコは、朝飯のあてがないことを失念していたとショックを受けつつも、インテールの街へと出発した。
「当面の生活費と装備代くらいはラビリンスで稼ぎたいね」
「もちろんです!」
シャルルとミコは道中でそんな他愛のない会話を楽しんだ。シャルルが帝国から支給された軍資金にはまだまだ余裕があるが、一応14歳孤児の栄養のろくに与えられていなかったような身体の少女が持つには違和感しかない量の金額だった。そんな少女が羽振りよく買い物をすれば怪しまれる─少なくとも日本で同じことをすれば学校に通報されるかもしれない─と考えたからだ。
大事な装備を買う時まで取っておこう。シャルルはそう決めた。
2人はインテールの街の中を進んで行った。目的地は冒険者ギルドである。冒険者としてどんな装備や魔法の適性があるのか査定してもらうことと、この「見ようと思えば見えるUI」の説明をしてもらうためだ。昨日ギルドを出てからUIは見ていなかったが、相変わらずシャルルの目からは2人ともレベル1だった。うん?妙にUIの要素が増えている。これは─
「み、ミコ?なんかわたしたち、いつの間にかパーティ組んでることになってない?」
シャルルは目をぱちくりさせながら聞いた。
「えっ、今更ですか?」
ミコは既に知っていたようだった。
…
……
………
「昨日の契約の時に2人がパーティを組む契約も合わせてした、ということですか?」
「ええ。その通りです!」
冒険者ギルドに来た2人は14番窓口に向かい、例の受付係と対面していた。
「あの時そんなことはひと言も…いや、でも…あの魔法陣に血を垂らした契約書は2人で1枚だった気がする…」
シャルルとミコは脚の長い椅子をもらい腰掛けていた。シャルルはそこで腕を組み口元に指を当てながら金髪を揺らしてぶつぶつと独り言を言っていた。
「シャルルさん、もしかしてウチとパーティを組むの、ひょっとしてイヤでした…?」
ミコがほんの少しだけ物悲しげな顔をしてこちらを見つめてくる。
「えっ、いやいやいや!そんなことはないよ!でも、説明してないことも契約させるのは不親切だと思っただけなんだ。だから、そう!ミコとパーティを組むのは嫌じゃないよ」
シャルルは慌てながら弁明し、そのミコもその話を聞いている途中から元気を取り戻したようだった。ミコの機嫌を取るために言っていたわけではない。心からの思いだった。
「解決されたようで何よりです。ああ、シャルル・フルフドリス様、そんなお顔をしないでください。必要なことだったのです」
2人の関係性がより強くなったところで、受付係はまた口を開いたが、シャルルの人を見透かすような冷たい目で睨みつけられてしまった。
彼女の言う、必要なことだった。とはつまり以下の理由からだった。ラビリンスは未知のダンジョンであり他のダンジョンに比べても最も奇っ怪で危険性のあるものだという。そこに挑む冒険者は必ず最低2人のパーティを組む必要があり、彼女は気を利かせて─シャルルからすると余計な世話であるが─パーティを組む手続きをしたのだという。
「ちなみにですが、パーティを組んでさえいれば1人でもラビリンスに入ることは出来ます。鉱石の採掘等でも用事がありますから」
受付係の説明に、シャルル達は黙って話を聞いた。つまり、登録は複数人である必要があるが、登録さえすれば1人で入っても構わないということか。ギルドからすれば、色々方便を言っているが冒険者の枠組みを決める事で物事の処理をしやすくしているのだろう。ひとりひとりの冒険者をケアするよりも1グループで纏めてケアする方が負担は少ない。
シャルルは黙って頷いた。
「では本題に入りましょう。おふたりの査定は既に終えています」
そう言って受付係は2枚の紙を取り出した。2人の名前と各種適性等が表にされまとめられている。まずはフルフドリス様から、と言われ小一時間程掛けてこの表を基に説明された。ミコには別の窓口で説明を受けてもらうこととした。先に終わったら、何かご飯を用意してきます!と気合いが入っていた。
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シャルル・フルフドリス LV1
二つ名:[未設定]
HP:80 MP:75
【武器適性】
小型近接武器:A+
中型近接武器:C
大型近接武器:G
魔法武器:A 大型魔法武器:E
【魔法適性】
適性:[地属性]
習得済魔法:無し
【スキル】
・近接戦闘
・体術
・鑑定
・採掘
[総合評価]………【E】
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「フルフドリス様の適性等はこの通りでございます」
「それで、総合評価Eというのは?」
紙を見ていたシャルルは顔を上げて聞いた。
「14歳で冒険者となったばかりの方としては普通、ですね。一般的に、デビューしたばかりの冒険者の評価はG〜Eの間です」
「この総合評価というものを説明する前に、レベルの説明もします」
と受付係の女性は更に話を始めた。シャルルが聞いたなかではレベルというものは大きくインフレするものではなく、レベル10が最大値だという。冒険者はレベルによってラビリンスの探索範囲が定められているらしく、ラビリンスの中層へ向かうにはレベル3が必要である。
レベルを上げるためには冒険者として結果を残す必要がある。その「結果」とは具体的な功績などではなく、冒険者の目にUIを表示させるデアルンス国の「システム」によって「判断」される。このシステムを作ったのは1人の冒険者の魔女であり、内戦での『英雄』だという。
「また、レベルとは別に総合評価という項目を用意することによって冒険者の強さを測りやすくしています。総合評価は常に更新されますが、『システム』には表示されませんのでギルドへは定期的にお越しください」
受付係はその後、フルフドリス様の適性は少し珍しいです、とぼそっと呟いた。
「どういうこと?」
「ステータスだけで見ればHPが恐ろしく低く、MPが非常に高いので魔法使いのような後衛の役割が適性と言えます」
受付係はここまで言うと、一度言葉を切ってまた喋りだした。
「しかしスキル【体術】や【近接戦闘】などもお持ちですから、前線で戦う適性もあると言えます。万能とも言えますがスキルと素質がチグハグです。これはあまりない、というか14歳の冒険者にしては非常に珍しいことです」
そうか、とシャルルは思った。記憶を持ったまま転生したことでスキルとして根付いていたのか。金髪の少女は話を聞きながら、出された蒲公英茶を口に含んだ。子供には早い味かもしれない苦さだ。
「それで、この魔法の適性の地属性ってなんですか?」
「魔法を使う上での適性ですが、フルフドリス様の場合は地属性…そうですね、例えば岩を使った魔法や重力を使った魔法は地属性です」
「へえ!」
シャルルは心を踊らせた。帝国にいた頃は魔法を見る機会はあっても使うことは出来なかった。ようやく異世界転生らしくなってきたな。
「魔法を使うには基本的に『詠唱』が必要です。詠唱はある程度文言は自由ですが型を知らないと発動出来ないでしょう。お安くしておきますから一冊いかがでしょう?」
受付係はそう言うと『ゴブリンでも解る魔法詠唱・土属性編』という本をすっと差し出した。シャルルは買わざるを得なかった。
せっかく適性が魔法使い寄りなら知っておいた方がいいだろう。どうやらHPが他人よりも少ない
「査定についての説明は以上となります。最後に、ラビリンスについてです」
説明を終えた受付係はふーっと息を吐きながら、少し間を置いて顔をまた真剣な表情にした。
「ご存知かもしれませんが、ラビリンスは14年前の内戦が終わって少しした後に発見された地下世界、すなわちダンジョンです。冒険者によってその開拓は進められ、現段階では11層まで発見されています」
「レベル1のフルフドリス様達が向かえるのは第三界層までです。まずは、皆様最初に向かわれる第一界層『狭間の森林』を説明しておきますね………」
…
……
………
たくさんの説明を受け、消費した時間以上の疲労感を感じたシャルルは待ち合わせ場所であるデスクに向かった。どうやらまだ説明を受けているらしい。先にご飯を用意しておくか。
シャルルがギルド内にある軽食屋で2人分のサンドイッチの入った袋を抱えてデスクに戻ると、なにやら悲しげな顔をしたミコがいた。
「シャルルさぁん、ウチ、魔法の適性ないみたいですう…」
思ったより深刻でない悩みだったことにシャルルは少し拍子抜けした。
「ま、まあミコはバリバリ戦うって感じだもんね。ご飯あるよ、食べよう」
「食べます!!」
少女達は食事を済ませると、貰ったお互いのステータス適性の書かれた表を交換した。ミコのステータスはまさに物理、MPもあるし魔法は使えるのでは…と思っていたが、適性魔法属性の項目で「適性なし」と雑に書かれていた。確かに残酷だな、これは。
2人はさっそくラビリンスへ潜ることとした。ギルドから第一界層で初心者でも達成出来そうな依頼から選んだ、【ゼンマイキノコ】15個の採取を目的としている。
少女達が地下世界へ降るリフトに乗った頃、冒険者ギルドのバックヤードではちょっとした騒ぎが起きていた。話の中心は、とある栗毛の冒険者だった。
続く
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!TIPS!
次回更新予定日
1月中
Pt:2名
シャルル・フルフドリス LV1 二つ名:[未設定]
LV1 HP:80 MP:75
【武器適性】
小型近接武器:A+
中型近接武器:C
大型近接武器:G
魔法武器:A 大型魔法武器:E
【魔法適性】
適性:[地属性]
習得済魔法:無し
【スキル】
・体術
・近接戦闘
・鑑定
・採掘
装備
・旅人の服
・旅人の手袋
・国防軍の革ブーツ
・まんまるリュック
武器
・サバイバル用ナイフ
ドロップ品
・アルミラージの毛皮×3
・小スライムのジェル×4
・掴みスライムのコア
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