第3話 冒険者ギルドと契約書類

 ─デアルンス国 冒険者の街 インテール 南門


 昼に差し掛かり、暖かな陽光が二人の少女を照らす。平原から吹かれる爽やかな風が、彼女達の背中を押した。

「じゃあ!いざ尋常に、参りましょう!」

「そうだね」

 2人の目に舞い込んだのは、整備された石畳、高い屋根の建物たち、人、人、そしてアーマーを着込んだ騎士達だった。

 今日は催事でもあるのか?シャルルがそう思ったほど、この街の賑わいは物凄い。


「すごいです!!!」

 ミコは目をらんらんと輝かせてこちらを振り返った。そんなミコの向こう側に、例の高い塔が見える。


「緑の垂れ幕…きっとあそこがギルドですね!早速行きましょう!」

 彼女は指を指すと、シャルルの袖を掴んで促した。

「わっ!待って!」

 シャルルは半ば引っ張られるようにして歩き出す。そういえば一緒に街まで行くという約束は果たされたよな、と内心思ったがそのまま着いていくことにした。歩いているうちに、露店の掛け声、掲示板の前に集まった群衆の話し声、様々な声を聞いた。


「野菜いらんかぇ〜リンガ美味しいよ〜」

「おい聞いたか?深界からまた遺物が出たって…」

「教皇もびっくりの超効く聖水!今なら2000バルス!」

「銀翼の師団が最下層から還ってきたってよ」


 ミコに連れられながら、シャルルは興味深い話を聞いた。後でミコに聞いてみよう…。

「ってぶっ!!──急に止まらないで…」

「ごめんなさい!でも、着きましたよ」

 鼻をさするシャルルを横目に一応謝るミコだったが、本音は心を踊らせているのを隠しきれていない。


 全体的に緑を基調とした建物は、この世界の言葉で冒険者ギルドと大きく書かれた看板を掲げている。その建物の前は広場となっており、なかなかの文明力を感じさせる噴水と研磨された石のベンチがあった。そしてその広場には冒険者と思わしき老若男女、亜人やエルフなどあらゆる人種が集まっており、インテールという街の冒険者層の規模の大きさを感じさせた。



 冒険者ギルドの中に入ると、ライオンか何かをあしらった石膏像と対面し、その先の通路の左右にある広いスペースには冒険者の待機所などに使われているのであろういくつかの円形のデスクがあり、更に一番奥には日本の役場や銀行のように長いカウンターが伸びていて仕切りを作っていくつもの窓口を形成していた。


「ようこそ、空いている窓口にどうぞ」


 入口で立っていた2人は不意に声を掛けられた。

「しゃ、しゃ、喋りましたよ!?」

「落ち着いて!名物なんだよきっと。知らないけど」

 話しかけていた声の主は例のライオンのような石膏像だった。

「はあ、さすが、はあ、都会は、色んなものがありますね…!」

 胸に手をあてて落ち着こうとするミコの背中をシャルルは優しくさすってやった。


 ………

 ……

 …


 落ち着いた2人は14番窓口へ着いた。カウンターの高さが少々あり背の低いシャルルは不満だった。受付係は暗い茶髪でエルフと思わしき長い耳に、アンダーリム上部のふちがないものの眼鏡を掛けている女性だった。

「あの、」

「14歳になったから冒険者に…ですか?」

 14番窓口の受付係はいたずらっぽく笑った。

「ええ、そうです。私はシャルル・フルフドリス。こっちはミコ・カウリバルス」

 受付係の対応に少しだけ苛立ちながらシャルルは答えた。


「ありがとうございます。おふたりともレベルが表示されていますから、我が国の冒険者たる資格があります」

 彼女は慣れているのかすらすらと次の話をし始めた。そして独り言を言いながら名簿のようなものに記帳していった。ええとシャルル・フルフドリスさんにミコ・カウリバルスさん…。


「冒険者ギルドに登録するには、まだ準備が必要です。それは我がギルド─つまり我が国とですが─と契約をすることです。」

「契約?」

「はい。契約した冒険者は地上は勿論ラビリンスを探索する事が出来るのですが、国の決まりとして有事の際には国の為に働く事が義務付けられています」

 彼女はそう言うと、机の下まで屈んで必要な契約書類を取り出した。中央に魔法陣が描いてある。


「もちろん冒険者側としてのメリットもあります。インテール以外の街での宿屋の宿泊料金を大幅に割安しますし、他国と違って月の会員費なども頂きません!そして目玉は…」

 ここまでミコは口をあけて聞いていた。シャルルは金髪を光らせ冷たく感じさせる目で─というよりこの目が通常なのだが─聞いていた。

「冒険者の方は無料で居住地を提供します!」

 受付係の女性は鼻から息を出しながら熱を込めてアピールした。


「…へぇ」

 シャルルの顔が少し和らいだ。なかなか面白いやり方だ。前者は恐らくラビリンスが出来る前からあったセールスだろうが、後者はラビリンスが出来たことによる冒険者の増加によるものだろうか?

 シャルルは横に立っているミコの顔をちらっと見た。話を聞いて熱心に頷いている。こんな上手い話ばかりではないのだろうがな…。


「わかりました。冒険者になるには契約するしかないのでしょう?」

「ご理解頂きありがとうございます」

 シャルルはカウンターに身を乗り出して暗い笑みに顔を歪めせながら答えた。

「大丈夫だよね?ミコ?」

「ウチは、大丈夫です…!」


「ではおふたりとも、この魔法陣にそれぞれ血を一滴たらしてください」


 契約の手続きはスムーズに行われた。今日のところはデアルンス国が冒険者に提供する家に向かい、また明日ギルドに来るようお願いされた。


 …

 ……

 ………


 2人はギルドで食事もそこそこに済ませ、受付係から貰ったメモを頼りに東へ東へと歩き続けていた。

「なあミコ、さっきの話、どうだった?」

「うーん…住むところを提供してくれるという話はとてもありがたかったです。あと気になったのは冒険者が国のために働く、という話が」

 露店で買った蒸かした芋を持ちながら、少女達は歩いて行く。

「その話はわたしも気になったけど、考えてみれば自然だと思った。魔物と戦うこともある冒険者を、国が利用しない手はないだろうし。それに、内戦だってあったから」

「………」

 2人の会話はそれ以上続かなかった。不味ったな、地雷を踏んだか。ミコ・カウリバルスという少女も14年前の内戦で何かあったのか。


「そうだミコ!さっきちょっと聞いたんだけど、ナントカの師団が最下層に〜って話を聞いたんだけど、なんのことかわかる?」

 多少なり、負い目を感じたシャルルは話題のテーブルを大きく回した。


「そうですね…昔、ウチのお母さんが話してくれたのですが、この国のトップクラスの冒険者のパーティは12個あると聞きました」

「それらは『師団』と呼ばれ、リーダーである冒険者の2つ名と合わせて○○の師団と呼ばれているそうです。ウチが聞いたことがあるやつだと、『深紅の師団』『紺碧の師団』あたりでしょうか」


「へぇー、知らなかったよ。でもなんで師団なんて呼び方を?」

「簡単ですよ!そのパーティだけで1個師団並みの戦力だと言われているからです。本当かどうかわかりませんが、国の軍部も、彼らを本当の師団として扱っていると」

 1個師団。俺が日本で大学生をしていた頃、戦争シミュレーションゲームでよく目にした言葉だ。戦術レベルの軍隊編成の上では最大単位と言っていい。第二次世界大戦の規模感で言うと兵が1万人から2万人の間で構成されている。本当にこれと同じくらい強いとしたら、相当難儀だな。


 話題が変わったことにより、ミコは明るさを取り戻したようだ。話す度にその長い栗毛が揺れている。シャルルも、帝国からの任務である「デアルンス国の有力な冒険者の抹殺」に必要な情報を得られ、任務遂行に近づいたことに満足気だった。

 だがシャルルは、決して殺人に快楽さを見出してはいない。与えられた任務に対して一徹であろうと心がけているだけなのだ。


 2人は東へ歩き続け、ついに東門の外まで来てしまった。

「ええっ?!住所ま、ま、間違えましたか?!」

 ミコはメモを見ながらあたふたしているが、シャルルは冷静に辺りを見回した。


「多分間違ってないよ。ほら、あそこ」

 シャルルの指さした先には、夕方の平原の中で小さな集落があった。

「あ!見えました!ウチ達の家ですね!」

 ミコは先に行ってしまった。いくら国と契約した冒険者でも、城壁の内側で暮らしていけるほど甘くないってことか。シャルルは独り鼻で笑い、ミコを追いかけた。


 彼女らは没落貴族であるローゼン家の領地に家を借り、ここが新たな拠点となるのだった。


 続く


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 !TIPS!

 次回更新予定日

 1月5日


 Pt:2名

 シャルル・フルフドリス LV1 二つ名:[未設定]

 LV1 HP:??? MP:???

 適性:??? 特技:??? 魔法:???

 ※見方が分からないため冒険者ギルドにて査定の必要有


 装備

 ・旅人の服

 ・旅人の手袋

 ・国防軍の革ブーツ

 ・まんまるリュック

 武器

 ・サバイバル用ナイフ

 ドロップ品

 ・アルミラージの毛皮×3

 ・小スライムのジェル×4

 ・掴みスライムのコア

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