七十三話 絶望と向き合う時間

「クランド様、あれは……」


「確か、詐欺師か」


主人の言葉に、ズッコケそうになるリーゼ。


クランドの常識からすれば、そう呼ぶのは間違っていない。

間違ってはいないのだが、あまりにも敗者に鞭を打つ形であった。


「……」


「なんだよ、その目は。目標に向かって勇敢に立ち向かったんだとは思うぞ。でも、俺の中であいつらは変わらず詐欺師のままだ」


「その様ですね。それで、あれらの傷は絶対にワイバーンよって負わせられたものだと?」


「裂傷や火傷の痕を見ればな……にしても、もしかしたら噂のワイバーンは、そこそこ頭が良いのかもな」


「何故そのように思いで?」


「見ろ、俺に絡んで来たリーダーの片腕がないだろ」


ギルドに戻ってきたボロボロの詐欺師たちは、全員が酷くやられているが、その中でもクランドに絡んだ詐欺師の傷は酷く、完全に片腕がない状態。


片腕が残っていれば、回復魔法によってギリギリ繋げられることが出来る。


回復薬のポーションに関しても、腕をくっ付けた状態で飲む、もしくは直接かければ……死ぬほど痛い思いはすれど、元通りになる可能性はある。


「ないですね。切られた腕を拾い忘れた……という訳ではなく?」


「その可能性もゼロではないが、俺はワイバーンが意図的に燃やし尽くしたんだと思う」


腕の切断面を見る限り、火傷の痕はない。


腕が原型が解からない程踏まれたという可能性も捨てきれないが、学習できる頭を持っていれば、人間の四肢を切ったら潰すか燃やすべき。

そう言った考えを持てる可能性は、十分にある。


「冒険者と何度も戦っていれば、そういう知識が身についてもおかしくないだろ」


「……可能性はありそうですね。できれば、ワイバーンがどの様な状態になったか知りたいところですが、私たちがそれを聞くことは無理そうですね」


「はは、それは仕方ない」


自分が彼らを詐欺師呼ばわりしてるのが、大きな原因。

それはクランド自身も解っているが、無理矢理考えを変えようとは思わない。


(それに、別に俺が詐欺師呼ばわりしてなくても、あいつらは俺たちを下に見てただろうからな)


ワイバーンを強敵と認識していれば、クランドたちにその恐ろしさを説く。

クランドをただの生意気なルーキーと見ていなければ、わざわざ戦闘スタイルをバカにする様な発言もしない。


それらのやり取りから、そもそも上手いこと情報を引き出す事など無理だと解かる。


(彼に飯を奢ったりして情報を引き出しても、俺たちが相手じゃ自分たちのプライドを無視してでも、嘘の情報を教えそうだしな)


結局は、自分たちの目で確かめるのが一番。

そう思いながら残っていたエールを飲み干すと、運悪く左腕をなくした詐欺師と目があった。


「っ~~~~~……」


(恐ろしい眼だな。夜道は背後に気を付けた方が良さそうだ)


男の目からは、今にもグランドに襲い掛かりそうな殺意が宿っている。

勿論、心の中では今すぐ殺してやりたいと思っている。


ただ……ボロボロにやられて、怒りに駆られそうな状態であっても、心底バカではない。

今ここでただクランドに絡むだけではなく、刃を抜いてしまえば……どうなるか、容易に想像できる。


だからといって、嘗められたままでは終われない!! と思うのが冒険者ではあるが、それでも理性がなければ恥を晒すだけで終わる。

片腕が無くなったということもあり、それがかえってブレーキとなり、男は仲間たちと共にギルドから出て行った。


「……夜道には気を付けた方が良さそうですね」


「俺も同じことを思ったよ。でも、しばらくはそんな気も起きないんじゃないか?」


「今にも私たちを……特に、クランド様を絶対に殺してやるって目付きをしていましたが」


「その殺意は間違いないだろう。だが、それでも片腕が無くなってしまったという事実は変わらないだろ」


当たり前だが、片腕が無くなれば日常生活に支障が起こる。

冒険者として活動するのであれば、片足がない状態よりはまだ良いが、それでも戦力がダウンしたことに変わりはない。


マジックアイテムの中に義手や義足はあるが、非常に金額が高い。

彼らも収入だけ考えれば、冒険者の中でも悪くない方ではあるが……そう易々と出せない金額に変わりなく、借金しなければ変えない。


貯金があれば話は別だが、彼らはあまり貯金をするタイプではなかった。


「しばらくは、その絶望と向き合う時間になる筈だ」


「その間にワイバーンを見つけ、倒して直ぐ別の街へ向かうということですね」


「……まっ、その話が一番理想的かな」


早く見つかる分には越したことはない。

そう思っているが、中々見つからないのが現実。

発見して対峙するまでもう少し時間が掛かるだろう……そう思っていたクランドだが、予想に反して二日後の昼過ぎにそれらしき影を発見。


「リーゼ、あれは」


「えぇ、おそらくワイバーンかと」


標的の影を発見し、二人は猛ダッシュで現場へと向かった。


とはいえ、現場に到着してやはりワイバーンではあったが、直ぐに戦うことは出来ない。


何故なら……先にお客さんがいたため、マナー的に割って入れない。

クランドは闘争心を抑え、一先ず観察することにした。

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