七十四話 判断に迷う状況

(中々やるな……あの詐欺師たちよりは、実力は上だな)


先客の四人の戦闘光景を観て、クランドはほんの少しだけ自分の番が回ってくるか心配に思った。


クランドとリーゼよりも先にワイバーンと戦っていたパーティーの数は四人。

リーダー格である男は魔剣を使い、大男はその体格に相応しい大盾を使って仲間を守る。


斥候タイプの女性は嫌らしいタイミングで矢を放ち、魔法使いの女性は要所要所で確実に攻撃魔法でワイバーンに

ダメージを与えていた。


「非常にバランスの取れたパーティーですね。ランクは……Cランクでしょうか」


「多分それぐらいだろうな。ちょっと上から目線ではあるが、数年後にはBランクになっててもおかしくない実力だ」


それだけの実力と潜在能力を感じたからこそ、もしかしたら自分たちの番が来ないという不安があった。


だからといって、横取りするような真似はしない。

彼らの戦闘が終わるまで、一先ずじっと待つ。


(リーダーであろう青年の攻撃力は、ワイバーンの攻撃に引けを取らない……空中を飛べなきゃワイバーンじゃないけど、空中を飛べなかったら、多分青年たちの勝率は八割を超えるか?)


現状、クランドの見立てでは五分五分の戦い。

決して青年たちが勝利してもおかしくはないが、ワイバーンが四人を全滅させる可能性も十分ある。


(攻撃力は足りてる……魔法使いの腕はリーゼの方が上だが、それでも確実にダメージを与えてるのを考えると十分、か。弓という武器の性質を考えれば、攻撃よりもサポートに回る方が当然…………欠点というか、弱点になってるのは、タンクの人が使ってる大盾の質か)


バランスが取れている……だけではなく、ワイバーンに十分刺さる攻撃力を有している。

だが、防御力がやや足りない。


戦闘を観ていて抱いたクランドの感想と、リーゼは同じ内容が頭に浮かんでいた。


(惜しい……と言わざるを得ませんね。決して腕は悪くない。寧ろ、受け流しの技術は上等。どうやら、火に対しても耐性を持っている様子……もっと大盾の質が高ければ、絶対にクランド様の番が回ってくることはなかったでしょう)


武器や防具の質は、生死に直結する。

個人の戦闘力を無視している様に思える言葉だが、決して間違ってはいない。



(クソ!!!! もう少し、もう少し耐えてくれ!!!!)


タンクの男は、現在使用している大盾以外にも予備の大盾を持っている。

持ってはいるが、現在使っている大盾よりも、当然質は下がる。


そんな盾では、ワイバーンの攻撃を何回も防げない。

直ぐに取り出せるわけではなく、ほんの数秒ではあるが、誰かがワイバーンの攻撃に耐える、もしくは注意を引かなければならない。


リーダーである青年であれば、その攻撃力から注意を引くことは出来るだろう。

しかし、万が一攻撃をもろに受けてしまうと、攻撃の六話割から七割が機能しなくなると言っても過言ではない。


冒険をしてる最中ということを考えれば、その万が一の可能性を無視出来ない。


(もっと、綺麗に受け流さねぇと!!)


冒険中こそ、一歩先へ成長出来るチャンス。

少し無理矢理ではあるが、良い機会だと捉え、決してネガティブにならない。


その心の切り替えは見事なものだった。

ここでタンクの大男がネガティブな思考に囚われてしまうと、今度は要の防御が完全に機能しなくなってしまう。


心を持ち直したことで、戦況が一気に崩れることはなかったが……他のメンバー含めて、疲労と魔力、精神が限界に近づいていた。


(くそっ! もう少しだ、もう少しなんだ!!! あの二人よりも先に、俺たちが!!!)


青年の気合通り、ワイバーンも青年たちの攻撃を食らい続け、かなりダメージを負っている。

そのダメージ量を考えると……そろそろ自分たちが限界だから、ここは撤退しよう……とは中々決断できない。


「っ、リーダー!!!!」


「っ!?」


ワイバーンがこの戦闘中に一度も使用していなかった、一点集中のブレスを青年に放った。


ただのブレスであれば躱せる。

そう考えていた青年の隙を突くには、十分な切り札。


頭部、心臓にはギリギリ当たらいが……体のどこかには十分当たってしまう。


青年は躱せない痛みに備え、グッと奥歯を噛みしめた。


「カバディ」


だが……ブレスとは違う音……声が聞こえた。


「差し出がましかったかもしれませんけど、さすがにヤバいと思ったんで」


「き、君は」


声の主は、自分たちと同じく噂のワイバーンを倒しにアブスタに訪れた、今ルーキーの中で一番実力が高いと評される二人組の一人。


「いや、助かったよ」


「そう言ってもらえると助かります」


嫌な予感がしたグラストは茂みから跳びだし、右手に豪炎を纏い、レーザータイプのブレスを弾き飛ばした。


(弾き飛ばすことは出来たけど、あんな細いのに重かったな……まだ大丈夫だけど、そう何度も手で弾きたくないな)


なんてそもそも間違ってることを考えながら、ジロっと宙を飛ぶワイバーンへ目を向ける。


「ッ!?」


突然自分のブレスを弾き飛ばし、狩人の目を向けてきた人間に、ワイバーンは小さくない恐怖を感じた。


ただ……この数秒後、その今日は直ぐに消え……怒りへと変わった。

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