七十一話 動かない刃

「見つけた」


依頼を受け、探し始めてから数時間後……時刻は既に昼過ぎ。


ようやく、目的のモンスターを発見。


「リーゼ、予定通り俺が戦る」


「えぇ、解っています」


一歩下がり、周囲の警戒に努めるリーゼ。


逆に一歩前に出るクランドに、リザードンは自身に向けられる戦意に気付き、構える。


「ふぅーーー……カバディ」


ゆっくりと、キャントを行う。


今回は珍しく、脚を使わない。


「カバディ」


口から出るキャントはゆっくりと……ただ、重さを感じさせる。


「ギッ……ギィアアアアアッ!!!!」


ただの言葉に圧を感じるも、そこで怖気づいて逃げないのがCランクモンスター。


右手に持つロングソードを全力で振り下ろす。


「カバディ」


「ッ!?」


なんてことはないといった表情で、クランドはリザードマンの一振りを左手で受け止めた。


身体強化は使用しており、魔力も纏っている。

ただ、それはリザードマンも同じ。


そんな中、クランドは平然とした表情で簡易、真剣白刃取りを行った。


(岩を、鋼を纏わない……本当に、こちらの気持ちを考えませんね)


自身の斬撃を受け止められた事実に一瞬は驚いた。

しかし、即座に残っている左手も使い、そのままぶった斬ろうとする。


「ッ!!!!!!!」


動かない。


ピクリとも動かない。

腕力には自信を持っていたが、ピクリとも動かない。


「カバディ」


平然とキャントを続けるクランドだが、しっかりとリザードマンの腕力は感じ取っていた。

両手で自分を潰そうとしてくる、その動きを読んでいたからこそ、事前に耐える準備を行えた。


「カバディ」


「ギっ!?」


次の瞬間、リザードマンの愛刀が音を立てて砕け散った。


何が起こったのか、一瞬解らなくなるリザードマン。

ただ……先程まで動かしていなかった相手の右腕が動いた。


野性の勘が仕事をし、直ぐに刃が砕けたロングソードを捨て、両腕をクロスしてガード。

その甲斐もあって、内臓が損傷することはなかった。


(……やはり身体能力に関しては、全てが飛び抜けていますね)


握力。


攻撃手をメインに務めるクランドには、殆ど必要ない力だった。


相手のどこにでも良いので、手や足……体が触れ、自陣に爪先さえ触れれば相手を狩り、点を獲得出来る。

パワーレイドを行う者であっても、握力はそこまで重要なポイントではない。


だが、攻撃手を仕留め潰す守備陣にとって、狩人の体を掴み、離さない力である握力は非常に重要な武器。


前世でクランドは……大河はどうしようもなくカバディが好きなため、そちらの方面を鍛えることにも余念がなかった。

それはこの世界でも顕著に表れている。


「カバディ」


「っ!!!」


すっと両腕を上げて構えるクランド。


これから何が行われるかを察知し、リザードマンも見様見真似でファイティングポーズを取り……殴り合いが始まった。


「カバディ」


「っ!? ギァアアアッ!!!」


一発良いのが入っても、即座に殴り返す。


「カバディ」


それをあっさり回避し、レバーに拳をめり込ませる。


「っ~~~~~、ギャァアアアアアッ!!!!」


肉だけで受け止められず、骨を超えて仲に響く攻撃は、やはり強烈。

ただの鈍痛に留まらない一撃に……吐きそうになりながらも堪え、拳を振るうリザードン。


戦いの最中でありながら、クランドはその折れない闘志を評価していた。


「カバディ」


「っ!? ギっ! ィっ!? ギャっ!!??」


それでも、一度流れが入ってしまうと……そう簡単に奪い返せない。


攻撃を受けてから、自身が攻撃に入るまでの間。

そこが長くなってしまうと、もう連打が止まらない。


「カバディ」


「っ……ギッ、ァ」


最後は胸部に右ストレートを叩きこみ、心臓を破壊。


それが決定打となり、リザードマンは力なく地面に倒れ込んだ。


「お疲れ様です、クランド様」


「おう」


「見事な打撃でした……ただ」


「? なんだ?」


「受けた依頼内容、忘れていませんか」


リーゼからそう言われ、慌てた様子でリザードマンの死体に目を向ける。


うつ伏せで倒れたため、殴りに殴った前は見えない。

ただ……死体を起こして見ずとも、容易にどんな状態かは想像出来てしまった。


「……ほ、他の部分は壊してないから、大丈夫なはずだ」


「確かに、それもそうですね。今回は私が解体を行いますので、クランド様は見張りをお願いします」


「分かった」


想像通り、リザードマンの前面は基本的にボロボロ。


鱗を通り越し肉、骨や内臓などもクランド拳打によって砕かれていた。

それでも、依頼達成に必要な鱗の量は確保でき、無事に依頼達成することが出来る。


ただ……解体が終わっても、まだ日が沈むまで時間があった。

そのため、二人は今回の目標であるワイバーンに関して、少しでも情報を集めようと動く。



「クランド様、これは」


「ボッキリと折れてるな」


そろそろ戻ろうと思い始めた頃、数本の折れている木々を発見。


木が折れている程度、森の中では決して珍しくない。

モンスターは人とだけではなく、同じモンスター同士でも争う。


だが、その数本の木々には、鋭い爪痕が微かに残っていた。

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