七十話 歳を取っても、あぁはなりたくない

クランドという名の冒険者がアブスタにやって来た。


その情報は、直ぐに冒険者……戦闘に関わる者たちの耳に入った。

貴族の詳しい情報などを知らない者であっても、貴族界の中で中々に変わり者の存在であるクランドの名前に関しては、一度は聞いたことがある。


運に恵まれなかった存在。

しかし、その運を帳消しにするほどの戦闘力を有する。


その戦闘力は、王都で開催される貴族の生徒同士で行われる大会で証明された。


本人はある意味逃げたと宣言しているが、そんな細かい事情など、その戦いを観ていた観客たちにとっては関係無い。

学生最強の称号を欲しいままにしていた絶対強者、ブラハム・ダグレスを圧倒した。


それが観客たちがクランドを評する内容。


目が肥えた騎士や冒険者、各家の当主たちもクランドの「ある意味逃げた」という言葉に関しては、殆ど否定していた。

それ程までにブラハムの戦闘力が異常である、そのブラハムを倒したクランドの攻撃内容も異常であった。


兎にも角にも、クランドという貴族の令息の中でも特別な存在が、冒険者の世界に入ってきた。


クランドから詐欺師と案に言われた男も、大会でのエキシビションマッチに関しては耳にしていたが、内容は殆ど信じていなかった。

そんな男がクランドにだる絡みをして、あっさりと倒されたという情報も、アブスタでは直ぐに広まっている。


「クランド様、ワイバーンを探すことに専念しなくてもよろしいのですか?」


「個人的に、見つけよう見つけようって必死になり過ぎると、逆に見つからない気がするんだ」


「……それは一理ありますね」


ドラゴンスレイヤーになりたい男を捻じ伏せた翌日、二人は冒険者ギルドに訪れ、クエストボードの前に立っていた。


先日から広まった噂が本当か否か、試そうとした輩が何人かいたのだが、クランドの姿を見て少々考えを改めた。


予想していたよりも、中々に線が太い。

顔つきも既に強者の風格が備わっている。


そこまで詳しくクランドの強さを感じられる者は多くないが、大半の者が本能的に自分たちとクランドとの差を感じ取っていた。


「へぇ~、リザードマンがいるのか。この依頼にするか」


リザードマンの鱗が欲しいという職人からの依頼書を取り、受付嬢へと提出。


「お二人で挑む、ということでよろしいでしょうか」


「はい」


将来有望な冒険者の情報というのは、広まるのが早い。

クランドは一人でグレートウルフや、デットルティスを倒した情報なども、既にギルド間で共有されている。


そのため、受付嬢はクランドとリーゼが二人で、Cランクモンスターに挑まなければならない依頼を受けようとするのを、止めなかった。


「んじゃ、早速行くか」


「えぇ」


依頼受理が終わり、二人は直ぐに目撃情報がある森の中へと向かう。


そんな二人に……実力の差を本能的には解っていても、なんとか絡んで生意気なルーキーに上下関係を解らせたいと思う輩たちがいた。


「「「っ!?」」」


だが、そういった連中がいるということを、クランドは絡まれずとも理解していた。


なので、直ぐに闘志を表に出した。


戦りたければ、戦ろうじゃないか。

腕の一本や二本、折ってしまうかもしれないが。


といった心の声が聞こえてきそうな闘志は、バカにも感じることが出来た。


加えて、リーゼもクランドに負けず劣らずの圧を放つ。


実力差も解らない有象無象が、私たちの邪魔をするな、死ね。


なんて恐ろしい冷気と軽い殺気を放ち、何故か……男たちは自身の玉をそっと隠した。



「良い圧じゃないか、リーゼ」


「クランド様こそ、まさに他を圧倒する素晴らしい闘志でした」


「それはどうも。でも……今頃、自分たちの無能を棚に上げて騒いでそうだな」


「気になりますか?」


「多少はな」



クランドの予想通り、二人が去った後……ギルド内では冒険者たちが二人に関して話し合っていた。


やれ生意気だ、顔が良いだけで調子に乗りやがって、これだから貴族は! 等々、言論の自由を振りかざしていた。

聞く者が聞けば、その場で斬られてもおかしくないが、バカはそれに気付かない。


加えて、自分たちの愚かさを露呈している事にも気付かない。


「アホか。お前らがしょうもない理由で絡もうとしなければ、あぁいった目を向けられることもないだろ。貴族だからどうたらこうたらってのは関係をねぇだろ」


そんなアホでバカたちの中でも、少なから常識人というのは存在する。


「だから、最初からお前らが絡もうとしなければ良かった話だろ」


常識を説く男が冒険者の中でもCランクと、プロと呼べる実力を持つからこそ、逆ギレだと指摘された連中も、思わず黙る。


黙るが、多くの者がその常識に納得していない。


(ったく、口とプライドだけは本当に一丁前だよな。歳を取っても絶対にあんなゴミにはなりたくねぇ)


バカに常識をぶつけた男は、まだ二十にもなっていない青年。

若いのに自身の実力に驕らないところに、品性を感じる部分がある。


とはいえ、この青年もパーティーメンバーの仲間と共に、ワイバーンを狙っている。

心の中では……静かに闘志を燃やしていた。

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